「ピンクに映る、オンナのトキメキ」というキャッチコピーの通り、今回上映される五作品はいずれも女性の視点から描かれた物語である。平凡なOLであったり、団地妻だったり、フリーターだったり、ピンサロ嬢だったり、バツ一だったりする彼女たちが、人生の分岐点に立たされ、悩みながらも自分なりの道を選択していく。全部が全部とは言わないけれど、そのほとんどがハッピーエンド。それは作り手の男たちからのエールであり……ヒロインたちがみな幸せであってほしいという切なる願望なのだ。希望なき世(夜)に幸福な夢を!
(膳場 岳人)
R18 LOVE CINEMA SHOWCASE Vol.4~
ピンクに映る、オンナのトキメキ
2008.3.1(土)~3.7(金)連日21:00~
限定レイトショー。
【料金】
当日一般=¥1500|前売鑑賞券=¥1300
女性割引=¥1300
3/1(土)、3.2(日)
『つまらないあたしのどうでもいい物語』『笑い虫』
3/3(月)、3/4(火)
『微風』『つまらないあたしのどうでもいい物語』
3/5(水)~3/7(金)
『ヒロ子とヒロシ』『再会迷宮』
※公開期間中、スタッフ・キャストによるイベントを実施
つまらないあたしのどうでもいい物語
( 2007 / 成人館公開題:奴隷 )
監督:佐藤吏 脚本:福原彰 撮影:長谷川卓也 音楽:大場一魅製作:新東宝映画出演:平沢里菜子、本多菊次郎、千葉尚之、淡島小鞠、結衣、荒木太郎、久保新二
いまやピンク映画界で中堅の地位すら占めつつある平沢里菜子。その波乱に満ちた過激な半生をセミ・ドキュメント方式で描いた作品――って本当かいな!? 高校生のころ、数学教師にSMを仕込まれたリナは、短大でのSMクラブ勤めを経て、就職先の派遣会社で素敵なご主人さまと巡り逢う。映画は彼とリナの長年にわたる主従関係を追いかけるのだが、ご主人さまを演じるのが本田菊次朗なのだ。あの善人顔でサディスト? サドには冷たい瞳と酷薄そうな薄い唇が必要なんじゃないの? 実際、彼はご主人さまのくせに会社をクビになったり奴隷に泣きついたりとかなり情けない。しまいには奴隷から憐みの目で見られちゃうダメな男なのだ。
しかし、である。これは「つまらないあたし」による「どうでもいい物語」。つまり、おれたちやあたしたちの等身大の物語なのだ。ご主人さまがダメ男でもいいじゃない。みじめなご主人さまでもいいじゃない。だいたい平沢里菜子を飼い慣らそうなんて考えがすでに不遜なのだ。映画は平沢里菜子のきわだった美貌と眩しい裸体をフィルムに刻みつけていく。どこまでも堕ちていく変態マゾ女が見たい――男どもの浅ましい欲望を平沢里菜子は軽々とあしらい、最後にはすがすがしい表情で冬枯れた木に吊るされる。バックに聳えるのは雄大な富士山だ。冒頭とラストに登場するこの残酷絵だけでも見る価値は十分にある。すごい力作。
(膳場 岳人)
つまらないあたしのどうでもいい物語 / 笑い虫 / 微風 / ヒロ子とヒロシ / 再会迷宮
笑い虫
( 2006 / 成人館公開題:色情団地妻 ダブル失神 )
監督:堀禎一 脚本:尾上史高、堀禎一 撮影:橋本彩子 製作:国映、新東宝映画、Vパラダイス出演:葉月螢、牛嶋みさを、冴島奈緒、チョコボール向井、加藤靖久、安奈とも、しのざきさとみ
今回のラインナップでもっとも毒のきいた一作であり、もっとも見る者を選ぶ作品である。本作が想起させるのは、サトウトシキ(監督)×小林政広(脚本)のゴールデンコンビが90年代後半から手がけてきた“団地妻”シリーズだ。“色情団地妻”なる成人映画館公開時タイトルや、平凡な日常の水面下に蠢く悪意と暴力といった主題もそうだが、シリーズ二作品(『団地妻 白昼の不倫』97、『新・団地妻 不倫は蜜の味』99)で主演を務めた葉月螢がヒロインたることでそれは決定的。彼女の顔は物語る。平和な日常生活なんてものはない。平和は無数の暴力の果てに成り立つ。暴力を生むのは幸福や安定を求める個々人のエゴだ。エゴのために人命が奪われることもあるだろう。そう、他者を犠牲にせねば平和は成り立たないのだ、と。
不倫、プロレス、AV、殺人――。派手なアイテムをちりばめながらも、その主題はきわめてディープで普遍的。この硬質さこそがピンク映画のもう一つの顔なのである。終始、堂々たる画面を展開する監督は、07年末に渋谷Q-AXで公開された新作『妄想少女オタク系』がシネフィル系の評者から大絶賛された堀禎一。剛腕の曲者である。
(膳場 岳人)
つまらないあたしのどうでもいい物語 / 笑い虫 / 微風 / ヒロ子とヒロシ / 再会迷宮
微風(かすかぜ)
( 2007 / 成人館公開題:誘惑 あたしを食べて )
監督・脚本:佐藤吏 プロデューサー:深町章 撮影:長谷川卓也 音楽:大場一魅 製作:新東宝映画 出演:吉沢明歩、大沢佑香、西岡秀記、千葉尚之、日高ゆりあ
2006年のピンク映画界を席巻した『恋味うどん』(竹洞哲也監督@オーピー映画若手陣の急先鋒)に対する、新東宝映画若手陣筆頭・佐藤吏による返答といっていい一編。主演はアッキーこと吉沢明歩。彼女が恋するのは、パスタ屋を営む中年ヤモメ。基本設定、ほぼ一緒。『恋味うどん』ならぬ『恋味パスタ』。でも、出来上がった作品の印象は、「観終わった後幸せな気持ちになれるラブストーリー」という点以外、全く異なります。
「パスタ」ってのも、「うどん」と一緒で、そのシンプルさゆえに、ウデが問われる料理だと思うんだな。豪快な中にも繊細さの光る、いかにも男の料理って感じだった『恋味うどん』に比べ、『恋味パスタ』は、ひたすら繊細な味付けが施された作品といえようか。何より特筆すべきは、『うどん』とは一味違うアッキーの可愛らしさを捉えた点にある。自分を愛してくれてるからと、大して好きでもない男と暮らし、どこか人生あきらめ気味なフリーター少女。でも、彼女はヤモメの亡妻が得意だったデザートを一生懸命作ろうとする健気さも持ち合わせている。そんな微妙な、揺れる思いを、優しい眼差しで描ききっている。
ここ数作においては、新東宝における偉い人たちの影がちらついていたため、ちょっと鳴りを潜めていたけど、これこそが、佐藤吏監督の持ち味なのである。初期3作で感じられたような、繊細で、とても瑞々しい世界が、自筆脚本により蘇った。ちょっとテレビドラマ的で、小さくまとまった世界かもしれないけど、「プログラム・ピクチャー」としては、ひとつの正しい形であると思う。
ラストシーン、微風にふかれてアッキーが浮かべる微笑は、必ず、アナタの胸に残るはず。必見。好きな人には、好きと言いましょう。
(とくしん 九郎)
つまらないあたしのどうでもいい物語 / 笑い虫 / 微風 / ヒロ子とヒロシ / 再会迷宮
ヒロ子とヒロシ
( 成人館公開題:痴漢電車 びんかん指先案内人 )
監督:加藤義一 脚本:城定秀夫 撮影:創優和 製作:加藤映像工房出演:荒川美姫、なかみつせいじ、佐々木基子、華沢レモン、サーモン鮭山、岡田智宏、佐倉萌
「痴漢に癒される」だと!?ざけんじゃねぇぞ!!する方はまだしも、された方が癒されるわきゃねぇだろ、ボケェ!!アホ!!死ね、全ての男ども!!!
と、全国の女性の非難の声が聞こえてきそうである。そりゃそうだ。ごもっともです。とはいえ、小生もただのエロ男。キレイな人がいれば、触りたい気持ちが芽生えてしまうのが男の性。がしかし、一社会人、そしてモラルある一人の人間として、「痴漢行為」は、決して許されるものではないと考え、その一線は超えずに、日々生きてるのであります。
……というのは置いておこう。いや、置いておけるはず。この映画を観れば、全国の女性たちもきっと。
『味見したい人妻たち』(03)という衝撃作をピンク映画界に叩きつけたっきり、その後新作を撮る機会を与えられず、現在はエロOV界にて傑作を量産し続ける城定秀夫という天才がいる。一方、娯楽ピンク映画職人として才能の片鱗を感じさせつつも、今ひとつハジけきることができず、後輩・竹洞哲也に先を越されて歯軋りを続ける(?)加藤義一という監督がいる。そんな彼らが手を組み、2007年度のピンク映画界に挑戦状を叩きつけてきた。
日常の中で自分を見つけることが出来ない/見失った男女が、ちょっとありえない、非現実的な出来事に遭遇することにより、自己を手に入れ/取り戻し、小さな幸せを手に入れる――という物語。映画/ドラマ/小説、いろんなところでよく見かける設定だ。んで、これはピンク映画なので、「非現実的な出来事=痴漢による癒し」というわけなのである。
城定秀夫の脚本は、孤独な男と女のモノローグを軸に、この「ありえない」設定を、実に巧妙に物語に溶け込ませている。そして、それを淡々としつつもエモーショナルな映像で描ききった加藤義一の手腕も、特筆されるべきである。確かに、こんな痴漢の形もあるかもしれないなぁ――って、現実ではないない!! 世の中の男たち、これを見て、変な気起こしちゃいけませんよ!!
「『竹洞、竹洞』ってうるせ~ぞ!オレたちの作品を観てみやがれ!!」――作った2人はそんな風には思っていないだろうけど、事情を知ってるファンには、そんな声が聞こえてきてならない力作。これを期に、2人の名がより広まれば、いいなと思います。
(とくしん 九郎)
つまらないあたしのどうでもいい物語 / 笑い虫 / 微風 / ヒロ子とヒロシ / 再会迷宮
再会迷宮
( 成人館公開題:不倫同窓会 しざかり熟女 )
監督:竹洞哲也 脚本:小松公典 撮影:創優和 主題歌:ニナザワールド 製作:Blue Forest Film出演:佐々木麻由子、那波隆史、サーモン鮭山、松浦祐也、梅岡千里、青山えりな、倖田李梨、高見和正
初恋の人ともう一度―― 誰しも、たまに考えることだと思う。毎日目の前にいる相手に、どうにも愛情を見出せなくなっていたり、はたまた、毎日目の前を通り過ぎてく異性にも思いを奪われることがなくなったり――んで、「やっぱりアノ人が、オレ/アタシの最初で最後の恋だったんだ!」みたいな。でも、それってすごく後ろ向き。残念ながら、時間ってのはどう頑張っても戻らない。さすれば我々は、“現在とこれから”を生きていくしかない。それを精一杯、輝かせていくしかない。
『R18 LOVE CINEMA SHOWCASE VOL.3』にて上映された、『舞う指は誰と踊る』に続いて、竹洞哲也&小松公典が、再び「初恋の人ともう一度――」を描いた。すると、やっぱり、「後ろ向き」ではない、爽やかな青春映画が出来上がった。前作が「初恋の人と過ごすひと時を胸に、自らの明日へと戻っていく」ことを描いた物語だとすれば、本作『再会迷宮』は、「初恋の人と共に、2人の明日を歩み始める」物語だといえる。
おっぱいは垂れ、皺も増えたさびしい中年女と、妻に逃げられた末に故郷に戻ってきた中年男。初恋の頃の面影はどちらにもない。でも彼らは、現在の相手を、そして何より、現在の自分を受け入れ、明日へと歩き出す。自分らしく生きること、そんな自分を表現する勇気を持つこと――そんな風に毎日を過ごせたら、さびついた日常も変わるかもしれない。
竹洞&小松コンビは、常に前を向いている。様々な制約の中で、自分らしくあり続け、なおかつ、観る者を楽しませようと闘っている。今回の特集上映で取り上げられている他の若きフィルムメイカーたちも、そんな彼らの同志だと思う。彼らが、今よりもその力を発揮できるときが来たら……「風前の灯」と言われるピンク映画界も変わるかもしれないと思います。
(とくしん 九郎)
つまらないあたしのどうでもいい物語 / 笑い虫 / 微風 / ヒロ子とヒロシ / 再会迷宮
R18 LOVE CINEMA SHOWCASE Vol.4
ピンクに映る、オンナのトキメキ
【スケジュール】
3/1(土)、3.2(日)
『つまらないあたしのどうでもいい物語』『笑い虫』
3/3(月)、3/4(火)
『微風』『つまらないあたしのどうでもいい物語』
3/5(水)~3/7(金)
『ヒロ子とヒロシ』『再会迷宮』
※公開期間中、スタッフ・キャストによるイベントを実施。
【料金】
当日一般=¥1500|前売鑑賞券=¥1300
女性割引=¥1300
2008.3.1(土)~3.7(金)連日21:00~
ポレポレ東中野にて限定レイトショー。
「か」行作品 ,膳場岳人 ,「さ」行作品 ,とくしん九郎 ,「つ」行作品 ,「ひ」行作品 ,特集「R18 LOVE CINEMA SHOWCASE」 ,「わ」行作品
主なキャスト / スタッフ
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