竹洞哲也(監督)×小松公典(脚本)×サーモン鮭山(俳優)
『R18 LOVE CINEMA SHOWCASE』Vol.3
7月7日(土)~13日(金)までポレポレ東中野でレイトショー
安倍まりあ/とくしん九郎による上映作品全レビュー
74年青森県出身。日本映画学校在学中からピンク映画の現場に入る。小林悟、小川欽也、坂本太、加藤義一といった監督の下で助監督を務めた後、04年『PEEP SHOW(人妻の秘密 覗き覗かれ)』で監督デビュー。最新作は薔薇族映画『終わらない始まり(男たちの夢音色)』。
70年兵庫県出身。日活芸術学院卒業後、関根和美監督の下で助監督と共同脚本を務めた後、97年『女医ワイセツ逆療法』(関根和美監督)で単独デビュー。『PEEP SHOW(人妻の秘密 覗き覗かれ)』(04)以降、竹洞監督の全作品の脚本を手がけている。俳優・脚本家による気鋭の集団、(脳)ミタカ商事社長。
70年青森県出身。日本映画学校卒業後、制作部として映画製作 の現場に入り、98年俳優デビュー。以降『妖怪大戦争』『無残 画』『鮮血の絆』『味見したい人妻たち』『アンドロイドガー ル』『zoku』『こわい童謡(7/7公開)』等、膨大な数の作品に 出演。制作チーム、インナーヴィジョンズ代表として、映像制作、web制作なども手がけている。
成人映画館にはめったに足を運ばない客層に、いまおかしんじ、田尻裕司、女池充といった才気あふれる監督たちの存在を伝えることに貢献してきた「R18 LOVE CINEMA SHOWCASE」シリーズ。待望の第三弾は、「ピンク映画らしいピンク映画」を年に数本ペースで放ち続けるオークラ映画の雄、竹洞哲也監督の大特集である。「自分は商業映画を撮っている」ときっぱり言い切る彼の作品には、作家主義的な野心よりも"観客をとことん楽しませたい"という職人気質がみなぎっている。気持ちよく笑って泣ける人情喜劇から、みずみずしい青春映画、樹海を舞台にしたホラーまでそのジャンルは多彩だ。今回はそんな竹洞監督と、竹洞映画の源泉である脚本家・小松公典、竹洞組の常連俳優・サーモン鮭山の三者にインタビューを試みた。
――今回の特集上映の発端は?
サーモン 直井さん(※直井卓俊。SPOTTED PRODUCTIONS代表、特集上映の主催者)でしょう。vol.1、vol.2は国映の監督特集(いまおかしんじ、田尻裕司、坂本礼、堀禎一など)だったんですね。作家性が強くて一般映画の観客も入っていきやすいけど、"ピンク映画としてはどうなの?"という意見もあって……。
小松 我々は"ピンク映画らしいピンク映画"を作って非難を受ける(笑)。
サーモン 非難受けてんのか(笑)。別にどっちがいいとかいう話ではなくて、国映作品にも出演したいのでよろしくお願いします(笑)。今回は"プログラムピクチャーとしてのピンク映画"を紹介するコンセプトでしょうね。竹洞組特集がうまくいけば、山内大輔、加藤義一、城定秀夫(※いずれも国映以外のピンク映画やOVの世界で活躍するフレッシュな俊英監督)の世界にも光が当たるかもしれないし。
小松 あとは"新田栄の世界"とか"小川欽也の世界"とか(※二人とも数百本単位のピンク映画を監督してきた大ベテラン)……。
一同 それは……(笑)。
『思い出がいっぱい-EIGHTEEN BLUES-(美少女図鑑 汚された制服)』
97年に助監督としてピンク映画の現場についた竹洞監督は、04年9月に『PEEP SHOW(人妻の秘密 覗き覗かれ)』で監督デビューを果たす。脚本は小松公典。二人はその後12本(07年6月現在。OV作品1本含む)もの作品でコンビを組むことになる。同年12月、このコンビは前作と同じ人気AV女優吉沢明歩を主演に迎え、寂れた村を舞台にした甘酸っぱい追憶の劇『思い出がいっぱい』を撮る。映画監督を目指す少年に思慕を寄せる少女。上京の意志を持つ少女と彼女に恋する少年。二組のカップルが過ごすわずか一夜の出来事が、ビビッドなタッチで描かれている。
――いい話ですよね。センチメンタルな色が濃厚に出ています。でも「PG102号」のインタビューでは、監督が一言「恥ずかしかった」と仰っていましたが……。
竹洞 ……(笑)。
小松 ホン書いていても恥ずかしかったもん(笑)。これをね、三十超えて書くのはなかなか勇気がいる。
――映画監督志望の少年が主役ということで、映画学校に通っていた竹洞監督の、非常に私小説的な、心情吐露的なものを感じたのですが。
竹洞 まったくない。確かに映画をやりたいと思って映画学校に入ったけど、具体的に何をやりたいというものはなかった。実習もそんなに行ってないし……。
サーモン その場にいないような、空気のような人でしたね(※二人は日本映画学校の同期生)。友だちの家を転々としてたし、どこにいるのかわかんない。
竹洞 アルバイトで、寿司握るのに忙しくて(笑)。
――舞台となったロケ地は?
小松 千葉の養老渓谷ですね。廃校が撮影に使えると聞いて行ってみたんだけど、廃校って放置してるわけじゃないんだね。地元の人が管理してるの。ふだんはそば打ち教室とかやって再利用している。だからイメージしていたようなボロボロ感がないんだよね。
――主演二作目となる吉沢明歩さんがとても可愛らしく撮られています。彼女はどんな女優さんですか?
竹洞 おとなしいです。台詞はちゃんと覚えてくるし、不満とか言わない。
――ああいう女優さんを撮る時に、監督はやっぱり「可愛い~!」と思いながら撮るんですか?
竹洞 カメラマンまかせ。あとは、女優さんに自分のどの角度が好きか聞くことはあります。
小松 ××にはそれ聞かなかったね。
竹洞 ……(笑)。
――吉沢さんの濡れ場ではフルサイズのショットが多いですよね。
竹洞 きれいですからね、全身が。腹とか見せられるじゃないですか。
サーモン 見せられない女優もいるのかよ(笑)。僕も他人様の腹のことは言えませんけど。
――後に竹洞組の常連俳優となる松浦祐也さんが、初めて大きな役をもらった作品でもあります。
竹洞 一作目にエキストラとしてクラブの客で出ていて、奥のほうでケツ出したりしていたらしい。けど照明が当たってなかった(笑)。
小松 あの頃は素直ないい子だったねえ。
サーモン 今回の特集上映作品を見ていると、彼の変遷は凄い。
小松 "こう育って欲しくない"というのを体現している(笑)。最近は台詞覚えてこないもん。丹波哲郎の域に近づいてるから。この頃はあいつのほうから演じやすいキャラを書くよう要求してくる。前貼りなんかも、仁王立ちして、監督じきじきに貼らせるからね。あいつはどこまでエライんだ(笑)。
――松浦さんが手紙として読む台詞の中で、「誰かに必要とされて人は初めて愛を知るんです」と言うじゃないですか。あれはすごくいい場面で、深い実感がこもっていたと思うんですが。
小松 あれは、あいつが"読みたい"って言ってきたの。あいつが自分で書いたんじゃなくて、どっかから引っ張ってきた。著作権にひっかからないようなものを。
サーモン 引っ掛かるかもしれないですよ(笑)。
――作品では冒頭から性具好きな先生(なかみつせいじ)が登場します。竹洞作品では割と性具を使う場面が多いですよね。
小松 そういう先生にしてくれって会社に言われたんですよ。この作品でパンチラがやたら多いのも会社の指定。
サーモン エロの指定は会社が多いです。
――監督はそうした指定を受けるのはいやなものですか?
竹洞 別に。体位の指定もあるけど、体位はバラエティに富んだほうがいいから。
小松 でも人間みんながみんなチャレンジャーってわけじゃないからねえ。
竹洞 体位が決まっている役者はいますけどね。
サーモン 僕です。ミスター・立ちバック(笑)。体型的に正常位は見苦しいので、つねに立ちバック。竹洞作品ではほとんどがそうです。
――シャボン玉が飛び交う、360度パンによる濡れ場がクライマックスを彩ります。
竹洞 (室内が)あれだけ広かったらパンできるかなって。あの360度パンに関しては、今にいたるまで会社からイヤミを言われます。あんなことしなくていいって(笑)。
小松 シャボン玉飛ばすのは大変でしたよ。助監督がシャボン玉製造機みたいなものを持ってきたんだけど、人力のほうがはるかに量多いの。カメラの後ろでシャボン玉作りすぎて気分悪くなっちゃった。
――若手がメインのドラマですが、淫乱教師役として故・林由美香が出演し、作品のバランスをとっています。由美香さんとはそれまでの現場でお仕事をしたりしていた?
小松 うん。一作目の打ち上げにきてましたからね。頼れる女優さんだった。
竹洞 現場であんまり怒らないし。
――怒る女優さんはけっこういた?
小松 むかしはいっぱいいたよ。あの頃の女優に比べると今の女優なんて可愛いもんだよ。
『舞う指は誰と踊る(欲情ヒッチハイク 求めた人妻)』
「吉沢明歩主演作が二本続いたので、次は熟女ものを」ということで、翌05年、倖田李梨をヒロインに迎え、人妻の淡い恋を綴った『待人物語(さびしい人妻 夜啼く肉体)』を発表(「夫が蒸発したって設定じゃないですか。でもホンの段階では死んでる。未亡人なんですよ。でもオークラは"死人"がNGなんですね」小松談)。これは役者陣の控えめな演技と、相手役・柳東史の好演でとても印象的な作品に仕上がっている。続いて同じ倖田李梨が主演し、デビュー作以来の登板となる華沢レモンも出演した『昨日はいつまで 今日はいつから(援交性態ルポ 乱れた性欲、05)』を撮影。「援助交際」という現代風俗にドキュメンタリー風に切り込んだが、いささか雑然とした感のある作品だった(「監督は乗っているときとそうでないときとがはっきりしている」サーモン談)。同年11月、"大人の青春"を描く『舞う指は誰と踊る(欲情ヒッチハイク 求めた人妻)』を発表。浮気性の夫に愛想をつかした人妻(夏目今日子)がヒッチハイクで旅をする中で、若いカップル(華沢レモン、松浦祐也)と出会ったり、かつての恋人(那波隆史)と再会する様を綴った爽やかなロードムービーで、2005年度ピンク大賞で脚本賞を受賞した。
小松 (受賞は)なんで俺? って逆に聞きたい。あれはね、脚本というより夏目今日子さんと那波さんのコンビネーションが良かったの。二人が並ぶと雰囲気がなんかちょっといいんだね。この作品に関しては、最初に"ヒッチハイクものにしよう"というのがあった。撮影に使った旅館は長野にあるキノさん(キャメラの創優和)の親戚の家なんですよ。だからまず長野でロケ出来るというのがあって。
竹洞 それとアルフォンソ・キュアロンの『天国の口、終わりの楽園』(02)みたいな映画をやりたいというのが僕にあった。その二つが重なってできました。
――三十もなかばに差し掛かった女性が昔の恋人と再会し、また前を向いて歩き始めるという、小松脚本の一つの定型ができた作品ですよね。
小松 三十超えると人間汚れまくって、それがなかばを超えると浄化に向かうんです。なかったことにしようと思っていたことが急に美化されたりとか……。青春時代を冷静に振り返ることができる。
――今回上映はされませんが、同じ長野県でロケをした『不倫同窓会 しざかり熟女(再会迷宮)』(07)と姉妹編のような作品ですよね。それは狙って?
小松 うん。『舞う指』に感じていたモヤモヤを解消したかった。脚本的にも演出的にも不満はないんだけど、最後の俺の登場シーンが……(※小松公典はエキストラとしてしばしば竹洞映画に顔を出すが、ここではヒロインの夫役という重要な役回りを担う)。
――なんですかそれは(笑)
小松 竹ちゃん(竹洞監督)がアフレコに呼んでくれなくて、助監督の絹張がやったの、俺の声を。絹張は顎がしゃくれてて、声がしゃくれた感じになってるの。
――それだけですか?
小松 あとは文句ない(笑)。
――「ロケの竹洞組」の代表的な作品になりました。ロケに対するこだわりは?
竹洞 予算的な問題ですね。ロケセット代がかからない。移動費がかかると思われがちだけど、トータルで考えるとこっちのほうが安上がり。
小松 都内のロケセットはけっこう高いんだよね。だから使えるハコを持っている役者は強い。おじさんがうどん屋やってて、両親が本屋営んでる松浦とか。
サーモン 倖田さんはドライバーができるし。
小松 レモン(華沢レモン)だって車持ってる。そういう意味で夏目さんや那波さんは純粋に役者で来てたよ。
サーモン どんな組だよ!(笑)。
――小松さんはほとんどのロケに帯同しているそうですが、現場ではどういったことを?
小松 めし作ってる。毎食違うもの出さなきゃいけないし、その割にはありあわせの材料しかないから、けっこう忙しいんだよ。『森鬼』のときは燃料がカセットコンロしかなくて苦労したな」
『短距離 TOBI-UO(ホテトル嬢 癒しの手ほどき)』
湯けむりの街・熱海にふらりと現れたホテトル嬢(青山えりな)は、持ち前の優しさと明るさでお客さんを癒し、またたくまに人気ナンバーワンの地位に昇り詰める。ところが彼女にはある秘密があって……。女優の佐倉萌が熱海の宿をロケ場所として提供できるという理由から制作が始まった本作は、後の『恋味うどん』を予見させる情感豊かな人情喜劇である。ヒロインの"トビウオ"を青山えりなが好演し、2006年度ピンク大賞で女優賞/新人女優賞を受賞した。だが意外にも当初トビウオ役に想定されていたのは林由美香だった。
小松 『思い出がいっぱい』が終わったあと、由美香さんと"次またやりましょう"って約束していたんです。その頃、風俗嬢を主役にしたある漫画を読んだら、ヒロインがちょっと由美香さんぽかったんですよ。それでこのホンを書いた。だけど、ああいうこと(※林由美香は2005年6月26日に急逝した)になっちゃって……。でも青山えりな版は青山版としてちゃんと出来上がっているからね。
――情に厚いホテトル店の支配人を演じたサーモンさんがもうけ役でした。ふだんは変態役のイメージが強いんですが、この作品ではごくごく普通の男を演じています。
サーモン 山内(大輔)監督作品をはじめとして、加藤(義一)監督や他の監督にも、たいてい"変態役"でしか呼ばれないんです(笑)。もしくはすぐ死ぬ役(笑)。ところが竹洞組では"変な人"はいても絵に描いたような変態は出てこない。小松さんの脚本のテイストがそうなんですね。最初は難しかったですよ。竹洞組ではずっと試行錯誤でした。『PEEP SHOW』『待人物語』『昨日はいつまで 今日はいつから』までは"絡み要員"に近い感じで、台本よりアドリブの方が比重が大きかった。『トビウオ』で初めてがっぷり組んだという感じがしました。
小松 あれはアテ書きでしたね。最初の頃はそうでもなかったけど、この映画辺りから常連俳優に関してはアテ書きが多くなってきた。
サーモン 出ずっぱりだし、こういう役やったことないし、プレッシャーは大きかったです。竹洞組では監督が演技について何も言わない分、こちらが何かやらなきゃいけない気になる。それでも、この作品ではまだフィットしていない感がありますね。自分的にはあまりうまくいってないと思います。ようやく今年になって、『再会迷宮』のソフィービー(※ヒロインの相談役である、オカマのクラブママ)ではまったかなって。
――青山えりなさんも、竹洞組では色んな役をこなしていますね。どの辺りが起用の理由に?
竹洞 芝居ができますよ。器用です。
サーモン 竹洞組の女優さんはみんな信頼できますね。青山、倖田李梨、レモン。ちゃんとしてます。
小松 でも倖田李梨は私服がたまに信頼できない(笑)。このあいだあいつ、作品の試写終わって、俺たちが会社の人に説教されている間に何やってたと思う? どっかの喫茶店で、ミクシにアップするために"セクシーショット"とか言ってセルフで自分撮ってたんだから(笑)。
――倖田さんはどの作品でもアオリが多いですよね? 顔面騎乗とか。
竹洞 前張りなしでドテを出してくれるのは倖田くらいだから。
小松 ドテって。また現実的な……。
――『恋味うどん』でも、本屋でのレゲエダンスシーンのアオリが大好きです。
小松 倖田さんがね、踊りを習っちゃったから、しょうがないと。
――しょうがない(笑)
小松 黙って喪服とか着てりゃ似合うの。でもふだんの姿を見ちゃっていると、喪服で踊り出すんじゃないかなってところがあって(笑)。あの人はダンスやったりフットサルやったり、いろんなことに手を出す。本人いわく"隙間産業系AV女優"(笑)。どんどん手の届かない人になってしまう。
――前半は群像劇で、後半はトビウオと結婚詐欺師(柳之内たくま)との二人の話になっていきます。
小松 最初ごちゃごちゃーっとしておいて、中盤から(話を)絞っちゃう。軸一本でやるというのがあんまり好きじゃなくて。前半のヒラメ(今野由愛)との確執はどうなったんだという指摘もあるんだけど、結局60分という縛りもあるし、ごちゃごちゃしたままで終わるのか、絞り込むのかどっちかにしないといけないからね」
『森鬼(乱姦調教 牝犬たちの肉宴)』
同06年、富士の樹海を舞台にした初のホラー『森鬼(乱姦調教 牝犬たちの肉宴)』を発表。森に棲む狂人(吉岡睦雄)が、自殺にきた女性を次々に拉致・監禁するというおぞましい物語だが、甲高い声で「キョーッ!」と叫ぶ吉岡睦雄の怪演や、なぜか広島弁をがなる松浦祐也が微妙にコミカルな味わいをかもし出し、不思議な感触の作品に仕上がっている。
――『森鬼』は最近起きた大阪のペッパーランチ事件を予見したような作品です。
小松 会社から"調教ものを"と言われて始まりました。"調教=部屋"というのがいやだったんで、ロケ場所探していたら、樹海が使えるって話があった。それで "女が樹海から出られない"という話にしようと。自分はもともとホラーをやりたいので、樹海という舞台はちょうど良かったです。
――陰鬱な樹海のロケーションが良かったですね。
小松 ロケハン行ったのが1月だったんだけど、その時はものすごくいい天気で、これ以上はないロケーションだったの。湖畔もあるし木々も生い茂ってる。ところが2月に撮影を始めてみたら初日が雪。竹洞組はいつも雨が降るんですよ、監督が雨男だから。だから今日も雨が降ってる(笑)。でもあの作品に関してはそれで良かった。
――監禁部屋となる二階建てのロケセットが立派でした。
小松 あれは樹海近くの音楽堂。シナハン、ロケハン行って、そのときに音楽堂の屋根裏部屋を見て、あ、使えるなと。樹海と言っても、意外に民家はあるんですよ。そんな風に撮ってないからそうは見えないけど。
――(※以下、作品の結末に触れています)ネタばらしになりますが、吉岡睦雄を二重人格という設定にしたのは?
小松 ピンクだからね。ピンク映画のキャスティングには、会社の方針として、新人(女優)を一人使わなきゃいけない、という制約がある。主役は青山(えりな)ありきというのは初めから決まっていた。で、もう一人熟女を出すとなると、それは倖田だと。するともう一人新人が必要になる。新人の子の絡みも作らなきゃいけない。その結果、ああいう人物設定ができあがった。
――吉岡さんが「キョーッ!」って叫ぶ理由は?
小松 その頃漫画の『すごいよ!! マサルさん』(うすた京介著)を読み直していて、それの「セクシーコマンド大会」だったかな? 覆面かぶったやつらが「キョ」で笑って咳き込むというギャグがあって。で、吉岡にホン読みのときに、"このキャラクターはキョって叫ぶんだよ"って言ったら本気にしちゃった(笑)。
――狙いとしては怖さをイメージして?
小松 いや、キョって言わせたかっただけ(笑)。シナリオにそう書いたら直しがくるなと思ったんで、シナリオには"怪鳥のような声"って書いたんだけど、それだけだとあいつがヘンに解釈しそうだから口頭で伝えた(笑)。あと、音楽堂にピアノが置いてあったから吉岡にピアノ弾かせようと。俺のなかではすごく幻想的なイメージだったんだけど、あいつは何を間違えたのか、裸に靴下だけ履いて出てきて(笑)。何をやりたいんだろうあの子は。
竹洞 本人が"履きたい"って言うからまあいいかって。こだわりなんだ、と思って(笑)。
小松 日本刀を使う場面が出てくるんだけど、あの子、日本刀と忍者刀を間違えてるんですよ。テストのときいきなり忍者走りで出てきちゃって(笑)。変わった子ですよ。
――(※以下、作品の結末に触れています)作品で一つわからなかったのが、青山えりなさんが吉岡さんと絡んでいる時に、布越しに人影を見るというシーンがあります。二重人格という線から考えるとあれはいったい誰だったんでしょうか。
小松 イメージ的に挿入したつもりなんだけど、みなさんの批評読むと"物理的におかしい"って。ねえ……人間やっぱり慣れないことしちゃいけないなって(笑)。
――松浦さんはなんで広島弁だったんですか?
小松 マイブームだったんじゃないですか(笑)。
サーモン あの子は映画全体のことを考えない役作りをしますね(笑)。面白いけど。
小松 吉岡(睦雄)のことしか考えてないからね。ライバルらしい。吉岡は相手にしてないけど(笑)。
――でも松浦さんがいちばん生き生きしているのは竹洞組の映画ですよね?
小松 うちじゃ誰も止めないもん。野放しだから。他の組に出ると、リハーサルで疲れちゃって本番でぱっとしない。あとね、松浦は自分から"やりたい"と言ったことは大体忘れてくる。『森鬼』では眼帯したいって自分から言い始めたくせに途中で忘れちゃうし、『恋味うどん』でも眉毛が繋がってるカットと繋がってないカットがある(笑)。
サーモン ピンクの現場には記録さんがいませんしね。
小松 最近あいつね、うちの組で作った役(『トビウオ』のわびすけ)を黙って他の組の作品で使いまわししていたことがあんの。"あれ、わびすけのまんまじゃねえか"って言ったら"なんでわかったんですか?"だって(笑)。
――監督はSMものは初めてですね。何か心構えが変わりますか?
竹洞 いや……。心構えって一本一本違いますから。
――濡れ場が一番生き生きしていると思ったのが、サディスティックな場面だと思ったんですが。演出的にはS的なほうが燃えるんですか?
竹洞 意識してないです。
――『待人物語』でも、松浦君が女優のお尻をスパンキングする場面を割と長く撮っていました。
竹洞 松浦君が女優さんに恨みでもあったんじゃないんですか(笑)。
――濡れ場への演出はどれくらいするんですか?
竹洞 カトキチ(加藤義一監督)ほどはやってないんじゃないかな。その人が歩いてきた現場によって濡れ場の演出は違うかもしれない。
サーモン 例えばローション使って糸を引かせるカットの時、糸を引かせる度合いも組によって違うんです。(竹洞組は)ローション的なものって松浦君のヨダレしかないんじゃないかな(笑)。
――役者としては濡れ場に関して細かく演出されたほうがやりやすいんですか?
サーモン 相手やシチュエーションによりけりです。同じ立ちバックでも、樹海でやる立ちバックと渋谷のラブホでやる立ちバックは違います(笑)。樹海での倖田さんとの絡みは、二人が不倫カップルという設定だし、どういう絡みなのか監督に聞きたかったんだけど、寒くてそれどころじゃなかった(笑)。
小松 この人(竹洞)、途中から台本に何も書かなくなったもん(笑)。
――濡れ場のポイントというのは?
竹洞 濡れ場になるまでの流れ、その前の芝居がポイントかもしれない。心情的に、ここまできたらその男女がそういうことになるんじゃないか、こういう前フリがあったら、こういう風に男女は絡むんじゃないかっていうね。
小松 でも会社からよくね、そうなる直前の男女が部屋にいて、そういう雰囲気になっているのに、女が窓際にいって"暑い、暑い"って胸をパタパタやれって言われるんですよ、なぜか(笑)。
――要は話はいらない、裸だけ撮れと(笑)。脚本家としてそういう制約はどうなんですか?
小松 いやあ。でも俺は絡みだけ突然ポン、と入るのは出来ないから。明らかにやるはずのない二人がやっちゃうとか、いかにもとってつけたようなやつ。まったくないわけではないんだけど。『舞う指~』では大胆にも葉月蛍さんがそういう要員だった。
――森での監禁・調教というと神代辰巳の『女地獄 森は濡れた』(73)を思い出します。
小松・竹洞 見てない。
サーモン 僕は見てます(笑)。
――ロマンポルノへの思いみたいなものは?
小松・竹洞 ない。
小松 好きなんだけど、それを今もう一度やりたいとは思わない。今やろうったってできないですからね。制約の問題だってあるし。社会的な問題に切り込んだ日にはすぐアウトですから。でも、神代監督にオマージュを捧げた、ということにしておきましょうか。
サーモン "しておきましょうか"まで書いておいてください。いい加減だなあ(笑)」
『恋味うどん(悩殺若女将 色っぽい腰つき)』
同年9月に公開された『夏の影、踏んだ(親友の母 生肌の色香)』は、三浦海岸にロケした若々しい青春映画。松浦祐也のハイテンションな演技が炸裂し、ここでも完全に主役を食ってしまっている(「主人公の心情を編集でカットしなかったら、もっと繋がりはよかったと思うんだけどね」小松談)。続いて発表した『恋味うどん』の現場に、筆者はうどん屋のエキストラとして参加した。スピーディーに進む現場は終始和やかで、アットホームな雰囲気の作品そのままの印象である。男に騙されて無一文となった娘(吉沢明歩)が、やもめのうどん屋の店主(なかみつせいじ)と恋に落ちるという、笑いと涙がほどよくブレンドされた人情喜劇で、この作品は2006年度ピンク大賞で、年間第一位(作品賞)、脚本賞、女優賞、技術賞を獲得した。
――この作品もまずロケ場所ありきだったとか。
小松 前に松ちゃん(松浦祐也)が監督した自主映画があって、ロケ場所が今回お借りした松っちゃんのおじさんのうどん屋だったの。で、松っちゃんはアングルというものを考えてないから、絵で見るとすごい小さな寂れたうどん屋に見えるんですよ。あ、これは人情喜劇にちょうどいいなと。そしたら。
サーモン ご存知のように。
――けっこうでかい(笑)。
小松 あの店、地元じゃけっこう繁盛しているんです。映画に出てくる書店も松っちゃんのご両親が経営していて、設定上、潰れかかった本屋じゃなきゃいけないのにすごく立派なの。あそこの家系は松っちゃん以外成功者ばっかり(笑)。
――吉沢明歩さんは久々の登板でしたね。
小松 見たのは年末の『やりすぎコージー』以来(笑)。本当は他の人に決まっていたんだけど、急遽出られなくなって。
――代役はすぐに吉沢さんだと?
小松 すぐには誰も思い浮ばなかった。
竹洞 会社としては"よし、吉沢呼べ"みたいな感じ。単体女優はギャラが少し高いので、それまであまり使えなかったんですよ。今回は予算的にギリギリいけるしいいやと。
小松 今回のはみんなアテ書き。なかみっちゃん(店主を演じたなかみつせいじ)は違ったかな。
竹洞 うん、シナリオ上がってからなかみつさん使おうかって。
小松 『昨日はいつまで~』のときに悪いことしちゃって。女の子に唾吐かれる役で。でも来るからすごいですよ、あの人。
――「今回は吉本新喜劇をやろうと思った」とのことですが、小松さんの生まれは関西のどちらなんですか?
小松 神戸市の長田区。スラム街。神戸一治安が悪い場所です。その隣に兵庫区があって、そこに昔からのソープ街があって、そこに預けられて僕は育ったんです。
――うーん、一人の作家が出来上がるという意味では完成度が高いというか……
小松 完成度は高いと思います。日活(芸術学院)で実習の先生だった後藤さん(※後藤大輔監督。『喪服の女 崩れる』『言い出しかねて』など)に"なんでお前は私生活を脚本にしないんだ"って言われたんですけど、『恋味うどん』は私小説ですからね。ギザ十円を集めてるとか、貧窮にあえぐ柳と倖田夫婦のやり取りはうちの家庭のまんまですから。映画の中では丸く収まってますけど、家の中じゃ全然収まってない。
サーモン 収まりたいという願望が映画に(笑)。
小松 キャストもそろったし、乗って書いたら、尺が八十分になって、後から切る羽目になった(※ピンク映画は一本の長さが平均60分前後)。でもね、ホンの尺はそんなに長くないはずなんだよ、絶対。
――確かに半日現場で見た限りでは、役者さんのアドリブ合戦でどんどん延びてるのかなって。冒頭、サーモンさんは出鱈目な英語を喋り続けて笑いを取りますが、あれもアドリブで?
サーモン アドリブですが、入れたのはアフレコの時ですね。現場で言ってない声を後から加えることはピンク映画ではけっこうあるんです。濡れ場で、ただ男が喘いでたりするのを嫌う監督がいるんですね。"何か喋って"なんて言うから、フツーの言葉責めはさんざん他の方もやっているので、オリジナルにしようとしてああなってしまいました(笑)。
小松 ほんらい、あそこはもっと長かったんです。でも編集で削っちゃったから、吉沢がデリヘル嬢という設定は誰にもわからない(笑)。どこで何をやっている人かってことが不鮮明になっちゃったんで、"頭の弱い子"感が前面に出すぎちゃった。(※以下、作品の結末に触れています)あと、ラストに一回お店を出て行って、すぐに戻ってくるじゃないですか。あそこで吉沢に一言ある予定だったんですけど、ラストカットの一瞬で持っていかれちゃったなっていう。
竹洞 吉沢に"言う?"って聞いたんですけど、"いや、いいです"って(笑)。
――柳東史さんも竹洞組の常連ですよね。
小松 一本目はエキストラで来てもらって、三役くらいやってもらった。三本目(『待人物語』)が主役で、『昨日はいつまで~』があって、そこから『恋味』ですね。あの人は真面目ですけど、真面目におかしいんですよ。変な人です。一般社会ではちょっと受け入れられない(笑)。どこかの施設に入ったほうがいいんじゃないかなって。その施設がうちの家っていうのはどうなんでしょうか(笑)」
◆小松公典の脚本術
――『恋味うどん』では、その柳さんとなかみつさんとの友情物語が印象的です。
小松 最初にやりたいと思ったのは、その二人のやり取りなんです。二人が子どもの頃に千円札に落書きしたという話を先に振っておいて、後のバス停のシーンで、柳さんがなかみっちゃんから「頑張れ」と書いた千円札をもらう。そして、去っていくなかみっちゃんの背中を柳さんが見送る、というのが話の軸として最初に浮んだ。そこをやりたくて他の話を付け足していくんです。『トビウオ』の場合は、青山えりながぴょんって飛ぶところと、サーモンさんが彼女をおぶって歩くところ。そこをやりたかった。
――『思い出がいっぱい』だと?
小松 あれは花火と男二人の連れションのシーン。『待人物語』は劇中でカセットテープを使いたかった。『昨日はいつまで~』はあんまりそういうのはない。『森鬼』は樹海でホラー。『舞う指』は、指をやりたかった。指をこう動かすの。脚本には書いてあったよね。なくなったんだけど。なんで指をやりたかったかと言うと、『GONIN』(石井隆監督、95)という映画があって――。
――たけしのコレ(やくざの応接室のシーンで、たけしが机の上で指を躍らせる)ですね(笑)。
小松 そうそう。全然関係ないところからとってきた。石井隆……へのオマージュということにしよう(笑)。
――(監督に)小松さんのホンはやりやすいですか?
竹洞 ほかに組んだ脚本家がいないので比較のしようがないけど、やりやすいですよ。コマが決まっているし、すごくうまく書けてる。
――じゃあホンを読んだ時点で面白い映画になるという確信があると。
竹洞 いや、読む前からわかる。
――全幅の信頼ですね。小松さんは他の監督にもたくさん脚本を書いているわけですが、小松さんとしても監督への信頼がある?
小松 うん。できあがりについて文句言ったことがないですね。いちばんやりやすい。せかさないし、ちゃんと撮ってくれる。
サーモン あとカメラマンのキノさんが小松さんのホンが好きなんです。だからこの三人のコンビネーションがうまくいっていると思うんです。だってキノさん他の組だと文句ばっかり言ってるもん(笑)。
――逆にこういうことされるといやだなって監督は?
小松 よくわからない理由で勝手に書き換えられたりするのはいやです。人から"ホンが悪い"みたいに書かれちゃうし。あとは……ギャラを入れてくれないとか(笑)」
◆ピンク映画の行方
――最後になりましたが、各地で古くからのピンク映画館が潰れていくという現状があります。そういう中でピンク映画を撮り続ける意識とはどのようなものですか?
竹洞 (ピンク映画は)フィルムで撮れる。
――じゃあピンク映画にこだわっているというより、フィルムにこだわっている?
竹洞 最初のきっかけはそうですよ。フィルムでできるというからピンク業界に入った。それまでピンク映画なんて見たこともなかった。業界に入ってからも、自分の作品と助監督でついたのしか見てないけど(笑)。
サーモン 自分も竹洞と同じで、"ピンクだから"というのはそんなにない。映画学校の実習をフィルムでやったのは僕らが最後で、その下はもうデジタルビデオの世代。実習で16ミリとか扱ったんで、その質感にこだわりたいなと。役者としては、大予算の映画でどこに映っているのかわからないような役と、小さい規模の映画で色んな役ができることのどちらがいいのか、難しいところですね。どっちもやった方がいいんでしょうけど。
小松 いろいろできますよね、ピンクは。ただ、業界の斜陽化というのはどうしようもできない。
――それを肌身で感じる部分があると。
小松 うん……。製作本数減りゃ、いやでも感じるし、コヤがないと話になんない。
サーモン ピンクをやっていていちばん納得いかないのは、作品が大事にされないってことですね。ソフト化されなかったり、用済みのフィルムがジャンクされたり。そういう状況下で、諸々の制約と戦うことにどんな意味があるのかと思うところもある。そういう業界がいつまで続くのかなって。
――では、今後の展望を。
小松 とりあえずベタ路線が定着してきたんで、この際、ベタという言葉を独占したいなと。ベタはごまかしがきかない。よくある話をいかに飽きさせず60分間持たせるか。これはこれであんがいと……難しい。描きたいテーマとしては、まあ、言われたらなんでもやりますよ、これはもう。
サーモン えー、いろいろな体位をこなせるからだ作りをしようかなと(笑)。もともと俺は役者なんだろうかって疑問はあるんですけど。演出コース出身なんで(笑)。まあ自分を限定せずにやっていきたいです。
竹洞 自分たちは好きなことをやっているけど、趣味でやっているわけじゃない。商業映画を撮っている。仕事があれば何でもやりますよ。
――ありがとうございました。
(2007.5.31、新宿・喫茶店「西武」にて)
取材:膳場岳人/とくしん九郎 構成:膳場岳人
参考資料「PG102号」http://www2u.biglobe.ne.jp/~p-g/menu.htm
企画・配給: SPOTTED PRODUCTIONS
提供: オーピー映画
『R18 LOVE CINEMA SHOWCASE』Vol.3
7月7日(土)~13日(金)までポレポレ東中野でレイトショー
安倍まりあ/とくしん九郎による上映作品全レビュー
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