堤防に一人腰掛けて、お弁当を広げた女がいる。その前に、郵便配達員のバイクがきて止まる。配達員が場を離れた時、
バイクは風に煽られて転倒する。散らばった手紙や葉書を拾ってあげる女に向かって、戻ってきた局員は罵声を浴びせかける。
彼女がバイクを蹴倒したと勘違いしたのだ。彼女は口を尖らすが抗弁できない。そこで観客は知る。女が口をきけないことを――。
勘違いに始まった出会いは、意外な成り行きを見せる。彼らは平凡だが幸福なカップルとなるのだ。ボウリング場で働く孤独な女は、
受付のオヤジに性行為を強要される日々と別れを告げ、郵便局員との恋にすべてを注ぎ込む。毎朝、甲斐甲斐しくお弁当をつくり、
彼が通勤の途中で通過する駅のホームでそれを手渡す。彼が忘れたら、わざわざ彼が勤める郵便局まで持参する。男とのセックスに夢中になる。
海で邪気なく戯れる。だが幸せは長く続かない。まだ自由でいたい若い男にとって、寡黙な年上女の熱烈な愛情は重荷に他ならない。
モーションをかけてくる豊満な肉体を持つ若い女に目移りもしてしまう。こうして二人の恋愛関係は、男によって一方的に終止符が打たれる。
時同じくして職場をも追われてしまった女は、彼との愛を、愛するボウリングを、永遠に自分の心に閉じ込めておくために、ある行動に出る――。
とにかくヒロインの林由美香が素晴らしい。
"お猿さんポーズでおどけてみせる""地団駄を踏む""浜辺を疾駆する"といった漫画チックな振る舞いが、一切のわざとらしさを排して、
コケティッシュな魅力として煌びやかに開花する。彼女の愛の純度の高さは、しばしば狂気となって顕れるが、それはジーナ・
ローランズが演じてきたそれのように獰猛なまでの破壊力を持ち得てはいない。しかし、両替をするためにコンビニ強盗までやらかしたり、
お弁当を入れるプラスティック容器を膨大に仕舞い込んでいたりする壊れっぷりは、妙に卑近で親しみやすい。若い女に目移りして、
挙句結婚の約束までさせられるふがいない郵便局員に対して、「お前、由美香ちゃんを大切にしてやれよ! 可哀相だろ!」
と一言言いたくなるのが人情というものだ。抱えきれないほどの愛を抱えた女性は、痛ましくも美しい。
誤解している向きもあるようだが、ピンク映画において、基本的に出演者は本番行為をしない。しかし、
この映画では俳優たちに本番行為をさせたという。その成果あってかどうか、男が女を組み敷きながら腰を使ったり、
女が目を閉じて荒い息をもらすだけの性描写には、"リアル"としか形容のしようがない、不可思議な生々しさがある。その声は、
これまたピンク映画には珍しく、同時録音されたという(ピンク映画ではアフレコが基本)。その「んっ」「うっ」「っあっ」という、
かすかにもれる彼女の喘ぎ声を聞きながら、平野勝之監督による異色ドキュメンタリー『由美香』('97)を思い出した。当時、
不倫関係にあった監督と林由美香が、自転車による北海道旅行を敢行した時の模様を記録したこの作品で、
二人はしばしばプライベートなセックスを披露する。そこでの行為は、見てくれのエロさが重要視されるAV作品とはちがい、きわめて地味で、
控えめで、そして愛で結ばれているという確かな温かさを感じさせるものだった。それと同じ温かさが、『たまもの』の節々に漂っている。
林由美香の、無垢なる倦怠を漂わす大きな瞳、白く滑らかな肌、わずかにふくらんだ乳房で一世を風靡したロリータ・アイドルとしての輝きは、
女優生活16年を経ても尚、古びておらず、現在三十歳前後の男性諸君は、郷愁に似た何かを誘われるだろう。
客を引き込む術に長けた完成度の高いシナリオ、的確な構図にぼんやりした詩情を滴らせたキャメラには、「傑作をものにしたぞ」という、
監督の確信犯の微笑すら窺える。一人の女優をとことん愛しぬく人間臭い感情と、女優の魅力を最大限に引き出すための冷静な思考とが、
この映画では穏かな一致をみせている。この映画を見ながら、弁当を喰いたい、セックスをしたいと痛切に思った客は、筆者一人ではないはずだ。
そんなことを思わせるのは、どんなに陰惨な結末を迎えようとも、これがヒューマンな優しさにみちた、愛の映画だという証左に他ならない。
いい映画だ!
(2004.11.29)
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