(2006 / アメリカ / クリストファー・ノーラン)
このハッタリズムは心地よい

佐藤 洋笑

プレステージ1 なかなか華やかで、色気があり、けっこうブットんでるといいますか、トン デモない部分もあります。今時珍しいキザな映画でもあります。すなわち、そ れはオレの好みであります。何しろ、映画会社マークに続いて現れるのは、「この映画の結末は決して誰にも言わないでください」とのクリストファー・ノ ーラン監督直筆のメッセージですから、このハッタリズムがなんとも心地よいではないですか。

 『プレステージ』は、かれこれ10年ほど前、クリストファー・プリーストが発表し世界幻想文学大賞を受賞し、「このミステリーがすごい」「SFが読みたい」などでも好評を博した『奇術師』を原作としています。二人のマジシャンの公私にわたる闘いの日々――芸のためなら(他人の)命も捨てるハードボイルドな修行にはじまり、細かい技の競い合い&小競り合いや、マジックのタネをめぐる間諜合戦を経て、本人の命=人生を犠牲にした大イリュージョンでの対決まで――を、ケレン味たっぷりに描いています。

プレステージ2  舞台は、19世紀末のロンドン。本作のプレスでは、「ガス灯が電気に変わり、空想が現実となり、奇術が科学へと姿を変える」と形容されている時代です。歴史教科書的表現で言うと世の中が一気に、近代だとか現代に様変わりを始めた時期であります。実際、世界でも最先端の巨大都市であった当時のロンドンはヨーロッパ、否、世界中から人々が集まり、人種や出自の異なる見知らぬ隣人が軒を連ねるカオス的な現代都市の雛形を作り出し、より洗練された芸能が孤独な人々の欲望を刺激する一方、資本主義に飲まれた労働者の悲惨な生活に憤ったマルクスが「資本論」を執筆し、市民生活に根ざした連続殺人者第一号切り裂きジャック氏が跋扈した都市であります。アカデミー賞では、撮影と美術でノミネートされたとのことでありますが、それも納得の華やかさと不穏な空気が全般に漲っており、中盤、プロットの詰め込みすぎで、少々、話が混乱しているあたりでもスクリーンに惹き込まれます。

プレステージ3  こうした背景――というより世界観ですかね――に加え、御大担ぎ出しといった雰囲気濃厚なマイケル・ケインの登板などには、たとえばかの『探偵―スルース―』であるとか『デストラップ』のような対立する二人の演技合戦といったものを期待する向きも多いはずです。実際、その点での期待も裏切られません。『Xメン』のヒュー・ジャックマン、『バットマン・ビギンズ』のクリスチャン・ベールと、虚構感が強い二人の主役が、リアリティよりはその場の雰囲気を重視した濃い演技で引っ張ります。つまり、二人とも、冷静に考えさせるスキを観客に与えると引かれてしまいそうな、エゴイスティックな動機で行動しているのですが、演出以上に巧みな編集や前述の優れた美術が目をくらませてくれるので、いい感じに濃い目のキャラのエゴのぶつけ合い=対決に没頭できるのですね。スカーレット・ヨハンソン、パイパー・ペラーボ、レベッカ・ホールと、なかなかの上玉をそろえた割りに、彼女らが印象に残らないのも、悪い意味ではなく、男二人の対決に映画の魅力が収斂されていたためかと思います。

プレステージ4  まあ、ぶっちゃけ、パズルの謎解きによるサプライズな結末とかを期待していると、中盤ぐらいで、オチが読める(まあ、これは、冒頭のメッセージも含め、変に「スゴイオチ」を強調しているから、観るこちらも意識しすぎてしまうからかも)映画なんですが、なんと申しましょうか、日本で言うなら江戸川乱歩センセに始まり、「怪奇大作戦」や数多の刑事ドラマで大展開され、「ケイゾク」「トリック」あたりに現在も継承されている、“ロジックや考証は無茶苦茶だけど、こうでもしてマニアックな心情を描きたい作者の気持ちがオレには良くわかるぜ!!”という、気分にさせてくれる変なパワーが実に魅力的なんですね。これは、“特撮”の魅力と相通じます。

 トリックを売りにしながらも、それはさておき、マニアックに生きる男二人のエモーションで押し切った感じの『プレステージ』。かなり、気に入っております。

(2007.6.25)

プレステージ 2006年 アメリカ
監督:クリストファー・ノーラン
脚本:クリストファー・ノーラン,ジョナサン・ノーラン
撮影:ウォーリー・フィスター
出演:ヒュー・ジャックマン,クリスチャン・ベール,マイケル・ケイン,
スカーレット・ヨハンソン,パイパー・ペラー,レベッカ・ホール,デヴィッド・ボウイ,アンディ・サーキス
公式
(C)2006 TOUCHSTONE PICTURES All rights reserved.

2007/06/25/17:44 | トラックバック (0)
佐藤洋笑 ,今週の一本 ,「ふ」行作品
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