(2004 / フランス / クロード・シャブロル)
C・シャブロル監督による今年ベストの一本

わたなべ りんたろう

 

石の微笑1 「沈黙の女/ロウフィールド館の惨劇」(95)に続く、ルース・レンデル原作のクロード・シャブロル監督の04年作品。結論から先に書くと最高の部類の出来の作品で、今年のベストの1本に入る。1930年生まれなので、今年77歳のシャブロルは今作の後に、既にスリラー2本「L'Ivresse du pouvoir,」(06)「La Fille coupee en deux」(07)を撮っている(イザベル・ユペール主演の前者はコメディ要素があると言われている)。

 クロード・シャブロル監督作品なので面白いとは思っていたが、ここまでとは思わなかった。ジャンルとしてはスリラーだが、位相を少しずらしたような展開で先が読めずにグイグイ引っ張っていく。この感じはペドロ・アルモドバル監督の「ボルベール/帰郷」(奇しくも「石の微笑」と同日公開)で感じたのと同じ面白さで、映画的な豊穣さに溢れている。この豊穣さは工夫次第で日本映画にもとりいれられると思う。台詞も秀逸で以下のようなやりとりで笑わせるが、この台詞がきちんとキャラクター描写の始めの部分として作用しているのがさすがだ。

石の微笑2 女「18世紀が舞台のアメリカ映画に端役で出たの。ワンシーンだけだったけど、マルコヴィッチと共演したの。でもカットされちゃった」
 男「今イチだったの?」
 女「マルコヴィッチの演技がね」

 さりげないが、カメラワークと編集も本当に素晴らしい。例えば、海岸のシーンのカメラワークは実に秀逸。終盤の階段を上っていく主人公の男がドアを開けるショットの編集も良い。この階段のシーンでのタンゴのリズムの音楽が、階上で踊っているヒロインの母親と男性の踊りと呼応するシーンにもゾクッとさせられる。撮影監督はパトリス・ルコント作品を多く撮った後に、英語圏の映画を撮り始め、アカデミー賞の撮影賞の候補になった「鳩の翼」(97)で名をあげ、「アンブレイカブル」(00)、「真珠の耳飾りの少女」(03)、最近では「ブラッド・ダイヤモンド」(06)のエドゥアルド・セラ。

石の微笑3 107分の作品でシャブロルが共同で書いている脚本も素晴しいが、3幕ものの脚本の基本に忠実になっている。30分で雨で服が濡れたヒロインが主人公の男の前に現れ、ブレイクの1時間でヒロインの出生の秘密を主人公が知る。ヒロインが唱える「完全な人生のためにすべき4つのこと」が「1.木を植える、2.詩を書く、3.同性と寝る、4.人を殺す」なのが主人公が一笑に付しながらも何ともいえない不気味さを残す。随所にある細かいユーモアも絶妙で、尾行している刑事が犬の糞を踏むところはタイミングも最高。

 「ピアニスト」に続いてブノワ・マジメル(01)が、変わった女性から災難に遭う役を好演。ヒロイン役のローラ・スメットは、ジョニー・アリディとナタリー・バイを両親に持つ今年24歳の新鋭。脱ぎっぷりもよく、今後に期待できる女優だ。音楽のマチュー・シャブロルと刑事役のトマ・シャブロルは共に監督の息子である(脚本スーパーバイザーにもシャブロル姓の女性がいる)。

 イーストウッドや新藤兼人氏もそうだが、この年齢で次にどんな作品を撮るのかが良い意味で予想がつかないシャブロルの今後がとても楽しみだ。

(2007.6.25)

石の微笑 2004年 フランス
監督:クロード・シャブロル
脚本:クロード・シャブロル,ピエール・レシア
撮影:エドゥアルド・セラ
出演:ブノワ・マジメル,ローラ・スメット,オーロール・クレマン,
ベルナール・ル・コク,ソレーヌ・ブトン,ミシェル・デュショーソワ,
シュザンヌ・フロン,エリーク・セーニュ 他
公式

6月30日より渋谷Q-AXシネマにてレイトショー公開

2007/06/26/12:29 | トラックバック (0)
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