映画祭情報&レポート
第4回UNHCR難民映画祭(10/1~8)
「彼らの世界」と「私たちの世界」

夏目 深雪

2日目:『クロスロード』『戦場でワルツを』『ビルマVJ』

クロスロード
(c) 2006 DSCHOINT VENTSCHR FILMPRODUKTION AG
10/3(土)、それぞれ異なる事情で旧ユーゴスラビアからスイスに逃れてきた3人の女性を描いたアンドレア・スタカ監督の『クロスロード』から鑑賞。2006年ロカルノ国際映画祭で金豹賞(グランプリ)を受賞している。泊まる場所もない難民の若い女と、移民としてスイスに来て苦労して店を経営するまでになったものの孤独な中年女性との心の交流を描く。若い女は白血病を患っていて、その絶望から賭博にのめり込む。「難民」というテーマよりは、「女性の孤独」のようなものがむしろ前面に出ている気がした。

次はレバノン戦争、特に1982年に起きた「サブラ・シャティーラ大虐殺」を描いたアニメドキュメンタリー、アリ・フォルマン監督の『戦場でワルツを』。昨年の東京フィルメックスコンペティション部門で最優秀作品賞を受賞した作品。11/28(土)からロードショーが始まる前のお披露目も兼ねていて、おそらくこの映画祭の目玉の一つではないかと思われ、広い会場の客席がほぼ満席となった。あまりアニメーションに造詣が深くない筆者にとっては、だるそうな体の動きの重さまで表現できるアニメの技術的な進歩にまず驚く。ただクライマックスの「戦場でワルツを」踊るシーンとなると、やはり実写の方がこちらの胸に響くものはあったのではないかという気がした。ラストだけ実写に戻る作りは、「ああ、これは絵空事ではなく現実なんだ」と観客にショックを与えるという意味では非常に秀逸なものではあるが、逆に言えばショックだったのはその一瞬だけだったという意味で、優れたドキュメンタリーには叶わないとも言えると思う。或いは、この映画はフォルマン監督の実体験をもとにしているということなので、実写で撮るには生々しすぎたのかもしれないが……。
映画の後、バイオリニストの川井郁子さんが、バイオリンを演奏し、難民キャンプへの思いを語った。

ビルマVJ
(c) 2008 Magic Hour Films
ヤン・クログスガード
ヤン・クログスガード氏
最後はビルマ(ミャンマー)のビデオジャーナリストたちの姿を追ったドキュメンタリー、アンダース・オステルガルド監督の『ビルマVJ』。2009年サンダンス映画祭で世界映画ドキュメンタリー制作賞を受賞した。彼らが配信した、ジャーナリスト長井健司氏が銃弾に倒れるシーンは私もテレビで見、強く印象に残っている。ドキュメンタリーに関する言説において、「カメラは凶器である」「カメラの加害者性」などと言われることは多いのだが、「ビデオで撮った」というだけで銃撃されたり、逮捕されて終身刑になったりするような社会を目の当たりにすると、なんだかそんな言説は高等遊民の戯言のような気がしてくる。同時代において、これだけ命がけで撮った映像というものを存在するとは。手持ちカメラのブレが、何も写さなくなってしまったファインダーの闇が、撮影者の恐怖を現すものとして書いている今でもありありと感触として蘇る。

Q&Aは原案・脚本・助監督を務めたヤン・クログスガード氏が登場。企画は2003年から、2005年からVJたちと連絡を取り始めたので、完成まで7年を費やしたとのこと。普段VJたちは教育の問題などを撮ることが多いのだが、2007年の9月に長井氏の射殺事件が起きて、映画の方向性が定まったことなどを話してくれた。VJたちが撮った画像は非常に限られたもので18時間分しかなかったので、全てドキュメンタリーというわけではなく、再現シーンが含まれている。例えば僧侶たちがデモをするシーンなどは再現シーンであるということ。何故このような映画を撮ったかというと、クログスガード氏の父親が第二次世界大戦当時ドイツでひどい体験をし、そのせいで家族が全く機能しなくなってしまったというつらい思い出があるそう。そこから、人々の苦痛や、権力や圧力に人々がどう対抗していくかということに興味を持つようになったということであった。

3日目:『扉をたたく人』『ウォー・チャイルド』

扉をたたく人
(C) 2007 Visitor Holdings, LLC All Rights Reserved
Distributor in Japan: TOHO Co.Ltd, Longride
10/4(日)、まず今年の7月にロードショー公開されながら、見逃してしまっていたアメリカ映画、トム・マッカーシー監督の『扉をたたく人』。初老の大学教授ウォルターが、シリア出身の青年タレクと、そのセネガル出身の恋人とふとしたことから同居を始める。そしてタレクの演奏するジャンベに心ひかれ、交流を深めていく。タレクの最初は警戒心を顕にした、しかし徐々にみせる人懐こい表情、それと比例するかのように体と一緒に心がほぐれていくようなウォルターの風情が素晴らしく、やはりアメリカ映画、安心して見ていられると思っていた。
手違いでタレクが逮捕され、拘置所に拘束されてからも、ウォルターがなんとかしてくれるのだと、つい観客は期待してしまうのではないか。タレクの母、美しいモーナ(ヒアム・アッバスが素晴らしい)が現れ、ウォルターと共に暮らし始めた頃から、筆者はこれはアメリカ映画なんだから絶対にウォルターがモーナにプロポーズするはずだ、いつするんだろうと若干苛々しながら観ていたのだが、なんとウォルターはシリアに強制送還されたタレクを追って帰国するモーナに向かって「ここいいてほしいんだ」などと呟くのみ。モーナも「私もよ」などと言ってそのまま飛行機に向かってしまう。

もちろんこのラストは9.11後のアメリカの現状や、アメリカ人の負った傷の深さを率直に反映しているのだろう。ラスト、ウォルターが地下鉄で一人ジャンべを叩き続けるシーンは、ウォルターの中に残ったであろう暖かなぬくもりと、それでも動かない現実の壁の厚さ、両方を現していて非常に秀逸ではある。しかししつこいようたが、もうアメリカ映画ではかつてあった魔法は起きないのかと思うと、淋しさはぬぐえない。
映画上映後、UNCHR駐日事務所ダニエル・アルカル首席法務官による難民保護に関するQ&Aが行われた。

ウォー・チャイルド
(c) 2008 18th Street Films
左:UNCHR駐日事務所ダニエル・アルカル首席法務官 右:C・カリム・クロボック監督
左:UNCHR駐日事務所ダニエル・アルカル首席法務官
右:C・カリム・クロボック監督@イタリア文化会館
次はスーダンの少年兵出身のラッパー、エマニュエル・ジャルを描いたドキュメンタリー、『ウォー・チャイルド』。エマニュエル・ジャル自体は確かに非常に魅力的だし、少年兵であった過去も壮絶ではあるのだが、映画としては戦略や工夫が足りない気がした。成功したラッパーが語る「少年兵であった過去」、観客はその過程こそが見たいのだと思うのだ。そこにこそ、苦闘が、挫折が、希望が、友愛が、映画にとってありとあらゆる大切なものが詰まっていると思うのだ。
Q&AではC・カリム・クロボック監督が登場。7年前、「ヒップホップを通じてグローバリゼーションを語る」という企画を考えていた監督が、12グループあったうちの一人であったエマニュエル・ジャルに興味を持ち、彼についての映画に方向転換したということ。アメリカの観客は戦争というテーマに疲弊しているので、音楽を通して少年兵や紛争の問題を語ろうとしたということ。「ヒップホップを通じてグローバリゼーションを語る」映画、というものに筆者は非常に興味を惹かれた。そちらもぜひ実現してほしい。

4日目:『神は僕らを見放した』『要塞』

10/7(水)、クリストファー・ディロン・クィン監督の『神は僕らを見放した』から。スーダンの内戦で孤児となった3人が難民キャンプからアメリカに移住し、生活の基盤を築いていく過程を描いたドキュメンタリー。制作にはブラッド・ピット、ナレーションにニコール・キッドマンが加わり、サンダンス映画祭のドキュメンタリー部門で審査員グランプリ賞を受賞した。この映画こそ、『ウォー・チャイルド』に足りないと思ったものが詰まっていた映画であった。「難民キャンプの住人」から「アメリカで仕事・生活する人」へ、その苦闘と、挫折と、希望と、友愛が、暖かい目線からユーモアを持って描かれ、観客を魅了する。
電気を使用するのも、洋式トイレを使用するのも、スーパーマーケットを見るのも初めての彼らの表情は好奇心と喜びでキラキラとして見え、しかしながら就くことができた仕事が工場での単純作業や夜警であったことには失望の色を隠せなかった。せっかく見つかった肉親から送金を迫られ仕事に追われ、悲願であった大学入学さえままならない者、誰もが道で声をかけ合うようなスーダンでの生活を思い出しホームシックにかかる者……。それでも希望と友愛を忘れない彼らを、「神は見放さなかった」。パンサーは大学を卒業し、スーダンで学校を作る目標のために頑張っている。他の2人も教育を受け、立派に仕事をしている。

神は僕らを見放した
(c) 2007 National Geographic Films/Newmarket
可笑しかったのは、難民キャンプから何年かぶりに息子を訪ね来米した母親が、空港で息子の姿を見た途端雄叫びをあげて踊り出したシーン。他にも、部族の習慣であるからとフォークやスプーンを使わず手で食べ続ける姿など、彼らに対する寛容が暖かいユーモアを醸しだしているシーンが随所にあった。「感動の」と枕詞をつけてしまうと何かが抜け落ちてしまう、難民や移民問題に関わる人全てに観てもらいたいドキュメンタリーであった。
上映後、モデルの道端ジェシカさんが、映画の感想と自身の難民問題への取り組みを披露した。

次はスイスで、難民としての庇護希望者を一時的に収容する施設の実態に迫ったドキュメンタリー『要塞』。ロカルノ国際映画祭で金豹賞を受賞し、この後の山形国際ドキュメンタリー映画祭のコンペティション部門への出品も決まっている。スイスの山に囲まれた施設は、施設というよりはむしろ拘置所のような印象である。様々な事情により様々な国からここに来た人々の不安を炙りだしながら、カメラは難民申請の実態に迫る。アフリカでふくらはぎを後ろから撃たれたものの一ヵ月半歩き続け、その後50人でボートに乗り込んだが、途中で水も食糧も尽き、小さな男の子が死んだのでみんなでそれを貪ったと淡々と語る黒人。聞いている職員は涙を浮かべて黒人の手を握ったが、その後急に場面が変わり、女性職員が「結果から言うと(申請)却下よ」と冷たく言い放つ。「話に信憑性がない」「ふくらはぎを撃たれて一ヶ月半も歩ける?」「聞きかじった話を話しているように、部分的に話す」などと、冷たく言い放つ。

カメラは収容者同士の交流や施設職員の暖かい気遣いなどを、捉えることをしないわけでもないのだが、どちらかというと無機質なニュートラルさが勝つ。そしてロマの家族の面接になり、女性職員が「娘さんはどうして今日車椅子に? こないだは歩いてたわよね」と言う。会場から失笑が漏れる。「急に歩けなくなっちゃったんです」母親は必死の形相で訴える。映画のラストシーンは、そのロマの家族が他の施設に移送されるシーンであった。
娘が乗った車椅子を押しながら歩く家族。職員が追いかけていき、車椅子を返却してもらう。兄らしき青年が少女をおぶり、家族は歩いていく。その先が、その家族にとってハッピーエンドであるのか、そうではないのか、観客には掴みかねる。

要塞
(c) 2008 Association Climage
フェルナンド・メルガー監督
フェルナンド・メルガー監督@イタリア文化会館
Q&Aには、フェルナンド・メルガー監督が登場。3年位前からヨーロッパは右傾化が進み、難民が選挙の道具として使われるような事態になっているとのこと。スイスでも物事は悪い方向に物事が進んでいて、警察は令状なしに家宅捜索ができ、難民を無断で家に泊めると一年間の刑事罰を受けるなど、難民にとって不利な法律が可決されている。監督自身はこのような事態を残念だと受け止める一方、「難民申請者の人間的な側面を描きたいと思った」とのこと。そこで、監督から観客に質問。女性職員に見咎められたロマの車椅子の少女だが、「あの少女が本当は歩けると思った人、この中でどの位いますか?」会場では半数位が手を挙げただろうか。「みなさん、大人の見方をする方が多いんですね」と切り出した監督は、「このケースこそが難民申請の実態を現しているんです」と力説。「あの少女は本当に歩けなかったんです。あの少女はあの後、手術をした。難民には様々なストレスがかかり、心理的なストレスがもとで、ある日突然歩けなくなってしまうというようなことが、あり得るのです」とのこと。

観客(映画のカメラマンをしている方だそう)から、反論。「私は先程手を挙げました。それは、私は監督自身が、アフリカから来た人の申請内容を「嘘だ」と言う職員を撮ったり、そういう「嘘を言う申請者もいるんだ」ということを観客に刷り込んでいるんだと思うんです。難民のことを考えるのであれば、何故そのようなことをするのですか」。監督は、「私は政治的な映画を撮りたいと思ったわけではない、一筋縄ではいかない審査の現実を描きたかったのだ」という答え。
映画のみならず、この映画祭で筆者にとって最もスリリングなQ&Aの瞬間であった。これはひとえに、常にニュートラルな冷静さを保ち、時には観客を挑発することさえ辞さないメルガー監督の強い意志と知性の賜物であろう。観客は、監督この質問によって、「彼らの世界」と「私たちの世界」の間に境界線を引く瞬間を、身を持って体現してしまったのだ。

レポート1レポート2 - レポート3

第4回UNHCR難民映画祭 (10/1~8) 公式
『クロスロード』( 2006年/スイス/監督:アンドレア・スタカ )
『戦場でワルツを』( 2008年/イスラエル、ドイツ、フランス、アメリカ/監督:アリ・フォルマン )
『ビルマVJ』( 2008年/デンマーク/監督:アンダース・オステルガルド )
『扉をたたく人』( 2007年/アメリカ/監督:トム・マッカーシー )
『ウォー・チャイルド』( 2008年/アメリカ/監督:C・カリム・クロボック )
『神は僕らを見放した』( 2006年/アメリカ/監督:クリストファー・ディロン・クィン )
『要塞』( 2008年/スイス/監督:フェルナンド・メルガー )

扉をたたく人 [DVD] 扉をたたく人 [DVD]
  • 監督:トム・マッカーシー
  • 出演:リチャード・ジェンキンス, ヒアム・アッバス, ハーズ・スレイマン
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2009/10/12/18:38 | トラックバック (0)
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