インタビュー

シリアスマン

ジュエルイーサン・コーエン兄弟公式インタビュー

http://www.ddp-movie.jp/seriousman/

2011年2月26日(土)より、ヒューマントラスト渋谷ほか全国順次公開

インタビュー
――なぜ『シリアスマン』の舞台を、1967年にしたのでしょうか?

ジュエル&イーサン・コーエン兄弟イーサン その時代が僕らにとって重要だったんだ。僕らが子どもの頃のことでこの映画に出てくる子どもと同じ年なんだよ。なぜ1967年ということに関してだけど、厳密に言えば何が決め手となったかはよくわからないんだよ。たぶん、ジェファーソン・エアプレインの歌かもしれない。アルバム「シュールリアリスティック・ピロー」が出たのが1967年の春だった。それが影響したかどうかはわらからないけど、参考にはなったね。それに、最初、僕らは第三次中東戦争(6日戦争)に関連した作品を作ろうとしていて、それが勃発したのはその年の6月だった。結局、それはあきらめたんだけどね。

――この作品の舞台を現代にすることを考えたことはなかったのですか?

ジョエル いや、ないね。僕らはずっとピリオド・ドラマとして考えていたから。正直言って、現代を背景にして、このストーリーっていうのはちょっと想像できないと思うよ。僕らが暮らしていた頃とはあまりにもかけ離れているから。ミッドウェストのユダヤ人コミュニティーについての映画をやりたいっていうことは、僕らがそのなかに息づいていなきゃ駄目だってことだからね。

イーサン 1968年とか1969年とか、1年違うと全体がまったく違ってみえただろう。1年遅くても早くても、全然違うんだよ。

ジョエル 時代という要素は、ある意味ではこの映画を概念化することの一助となったわけだ。この映画のオープニングに民話があるようにね。

――あなた方の子ども時代のことを描いているのに、なぜ息子のダニーではなくて、親のラリーに焦点を当てたのですか?

イーサン それは、いい質問だね。取り組み始めたときには、大人の視点と子供の視点がもっと等分に分かれていたと思うんだけど、脚本を書いているうちに、大人の方に引き寄せられていったんだ。なぜなのかはわからないが。でも、僕らはこの作品を自伝的なものだとは思っていない。舞台となっているのは確かに僕らが育った場所なんだけど……。

ジョエル その当時、僕らはダニーの年齢だった。でも僕らはダニーのキャラクターがなんらかの形で僕らを代弁するような存在だと思っていなかった。この設定の外側のストーリーの出来事は作り上げられたものだ。僕らはヘブライ学校に通い、バー・ミツバーの儀式をし、同じようなコミュニティーのなかで暮らし、父親は大学の教師だった。でも、ラリーとダニー親子に起こったことは、すべてフィクションだ。映画のなかでは音楽を聞いていたとしても、現実の僕らは授業中に音楽は聞かなかった。実際、ヘンドリックスとか、何曲かは1967年以降のものだから。

『シリアスマン』――この作品はあなた方の私的な映画だと言われていることについては、どう思いますか?

イーサン ある意味ではそうだと思う。なぜ全部肯定しないかって? この映画で描いているのは、僕らが育った場所であり、時代だけど、起こることについては、自伝的なものではないから……。でも設定は大きいよね。それが物語の全体の感じを決めるから、だから、その意味では、他の映画とは違って、僕ら個人につながるものはあるかもしれないけど。

ジョエル 僕らがここで描いていることが僕らの他の映画とは違っているように感じられるってこと? 僕はそう思わないな。設定だけじゃないよね。“私的”ってどういう意味なのかな? 僕らはユダヤ人だ。僕らがどこで育っていようが、それが僕らのアイデンディティーの重要な部分を占めている。僕らはミネソタで育ち、ミッドウェスタンの感性に特徴づけられている。それが、僕らは何者かということだ。でも、映画を作る過程で、自分が何者かということが影響することは確かなことだ。月に猿を送ることの映画だったとしてもね。まあ、皆がそんな風に言うのは理解できるけど。

――あなた方がこれまで作った映画のどれかで、あなた方のどちらかに近い作品はありますか?

ジョエル いいや、僕らの映画のどれも、僕らのどちらかに近いなんてことは思ったことはないな。

――なぜあなた方は、自分たちの映画の登場人物をいじめるのが好きなんですか?

ジョエル イーサンが今日さっき言ったように、良いことより、悪いことが起きるほうが、より面白いストーリーのネタになるんだよ。悪いことの方が、別のことにつながっていくんね。7月にクリスマス映画を撮るようなものだ。宝くじに当たると何か悪いことが起きる。そのほうが、ストーリーがダイナミックになるんだ。僕らはそのことを愉しんでいるんだよ。

イーサン 誰かに悪いことが起きるというのがコメディの常套手段だ。誰かの不幸っていうのは他人にとっては滑稽だからね。

――この映画にビッグ・スターを起用しなかったのはなぜですか?

イーサン 設定を伝え、リアリティを感じてもらいたかった。その当時の人生のちょっとした断片とかね。映画スターを使うと、リアリティを根付かせるのが難しくなってしまう。ラリーは普通の人だ。だけど、映画スターだとスターが醸しだす雰囲気が出てしまう。僕らはこの風変わりな環境に観客を没頭させたかった。映画スターだと、どうしてもそうならないんだよ。

『シリアスマン』3ジョエル 僕らはスター級のギャラを取らない映画スターを使って映画を作ってきた。そうすれば、予算に支配されることは決してない。もし、映画スターがやって来て、この映画にただで出演しようと言ってくれたとしても、それはそれで恐らくあまりいいアイディアではなかっただろう。だけれども、基本的に僕らにとって、マイケル・スタールバーグでも、ブラッド・ピットを使うにしても、フィルムメイカーとして撮影にはほとんど違いはないんだよ。

――この映画は最初からコメディにするつもりでしたか? シリアスなドラマにもなりえた題材だと思うのですが。

イーサン 僕らは決してわざとそうしているわけではないんだ。ストーリーはストーリーだし、自由に感じて、笑ってくれればと思う。どっちでもいいんだけど。僕らが選んでいるわけじゃなくて、話がひとりでに展開するんだ。

――『シリアスマン』が参考にした小説はありますか? たとえば「ヨブ記」とか?

イーサン それは面白いね。そんなことは思ったことがなかった。僕らの作品のように、感情が爆発することころがあるけど。でも、そんなことは考えたことがない。

ジョエル 『オー・ブラザー!』(‘00年)のときのように、オデッセーのような叙事詩的な物語の類は考えていなかった。だが、故郷に戻ってくる男についてのことだと思うと、ちょっと自意識過剰ぎみなところはあったな。もっと古典的な感じするかどうかは迷うところだった。でも、この映画が「ヨブ記」のようだとは僕らは思っていなかった。ただ、自分たちの映画を作っていただけだ。関連性については理解するが、僕らの考えではないね。

イーサン この映画はちょっとオタクっぽい小市民についての究極のジョークのようなものでもあるんだよ。そのオタクっぽい小市民に災難がふりかかるんだ。僕らの脚本には書き方の作法がない。僕らはただ部屋の中を行ったりきたりするだけ。結構だらしなく、行きつ戻りつしている。

――最初から今のような世界的な経済危機の時に、このようなタイプの映画を作れる自信がありましたか?

ジョエル このプロジェクトをスタジオに持ち込み、資金調達を頼んだ二年前より今のほうがこういう映画を作ることはより難しくなっているだろう。しかし、フォーカス・フィーチャーズとワーキング・タイトルの僕らがこれまでに一緒に仕事をした人々は、全面的に僕らの力になってくれた。この脚本は『ノーカントリー』('07年)の前に書かれていて、アカデミー受賞前には融資されていたんだから。

イーサン 『ノーカントリー』とこの作品の脚本が同時期に書かれていたのは興味深いことだよ。

『シリアスマン』作品情報はこちら

シリアスマン 原題:A Serious Man/2009年/アメリカ/106分/カラー/ドルビーデジタル/ビスタ
出演:マイケル・スタールバーグ,リチャード・カインド,フレッド・メラメッド,サリ・レニック,アーロン・ウルフ,ジェシカ・マクマヌス,アダム・アーキン
監督・脚本・プロデューサー:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン
エグゼクティブ・プロデューサー:ティム・ビーヴァン、エリック・フェルナー エグゼクティブ・プロデューサー:ロバート・グラフ
撮影監督:ロジャー・ディーキンス ASC, BSC 編集:ロデリック・ジェインズ プロダクション・デザイナー:ジェス・ゴンコール
衣装:メアリー・ゾファー 音楽:カーター・バーウェル キャスティング:エレン・チェノウェス、レイチェル・テナー
(c) 2009 Focus Features LLC. All Rights Reserved.
字幕翻訳・佐藤真紀/提供:Focus Feature International
配給:フェイス・トゥ・フェイス  宣伝:メゾン 公式サイト:http://www.ddp-movie.jp/seriousman/

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2011/02/04/19:50 | トラックバック (1)
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