インタビュー
『サウダーヂ』富田克也監督

富田 克也 ( 映画監督 )

映画『サウダーヂ』について

公式 youtubeリンク『サウダーヂ』予告編

2011年10月22日(土)より、渋谷ユーロスペースにて公開中!!

既成の映画業界とも、いわゆるインディーズとも違った独自のやり方で活動を続ける映画製作集団「空族(くぞく)」。その歩みは速くもないし決して派手でもないが、祭りの行列のように人目を惹き、各方面に支持者を増やしつつある。本年度のロカルノ映画祭メイン・コンペティションにも招待された最新作『サウダーヂ』の公開を控えて意気上がる富田克也さん(監督・脚本・編集)と、高野貴子さん(撮影・編集)にお話を伺った。『サウダーヂ』撮影時のエピソードのみならず、空族ならではの映画の遊び方にまで、話題は果てしなく広がる。(取材:鈴木 並木

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空族、ケモノ道を往く

――空族の制作システムは、いわゆるインディーズ界でも独自のものだと思います。今日はいらっしゃってませんが、相澤さんの役割も含めて、お聞きしたいのですが。

富田克也監督4高野 『雲の上』のころからみんなで一緒にやってはいたんですけど。

富田 虎ちゃんは『雲の上』のときはあくまで役者として来てたから。でも彼も映画作ってるし、「オレは役者だ」なんてふんぞりかえってる奴はひとりもいない現場だから、虎ちゃんもなにかあるとせわしなく動いてはくれるけど、でもまだ当時は遠慮しいしい、みたいな感じだった。『雲の上』のときはほぼ全部ひとりで脚本を書いていたのが、相澤が来て初めて、ゼロの状態から他人と一緒にシナリオを書くようになって、徐々に自分たちの映画の中に他人を受け入れていく、巻き込んでいくようになっていった。『雲の上』のときは、たとえばカメラにしてもフレームは高野に作ってもらうけれど、自分でスイッチ押して覗いていないと気が済まなかったりね。『国道20号線』からはフレーム覗くのやめたの、それは高野にゆだねた。で、脚本も相澤と一緒に書く。いちばん顕著だったのは、役者ってことなんですよ。自分が2年もかけて『雲の上』のシナリオ書いて、最終的にそれを演じる人間が入ったときに、人が演じるってこんなことなのかと。人は自分の思い通りになんかならないんだって気付いた。

高野 あと、場所の変化だよね。たとえば団地が解体されていく、あれがいちばん劇的だったね。

富田 シナリオになかったお寺の改修工事が始まるとか、そういう、現場にあるものに合わせて、こっちが思い入れたっぷりに書いたシナリオがどんどん変わっていく。オレたちが、撮りながらそういう成長の仕方をしていった映画だった。時間をかけて作っていくうちに役者も面白がってくれ始めて、練習する中で、こんなセリフはどうだ、こんなシチュエーションはどうだ、と向こうから意見が次々に出てくる。それをどんどん取り入れていく。風景も変わっていったら、じゃあこれも取り入れようと。それを『雲の上』で徹底的に体験したから。しょっぱなにあんな映画体験ができたっていうのはオレたちにとって大きかったですね。それは今にもずーっと続いている、映画を撮ることの面白さのいちばん根底にある部分だと思うんです。

高野 犬のエピソードを考えていたら、実際に犬の死体があったり。

富田 あれもね、あの世界の中でぞっとするような何かがあるといいなと。それをどうやって象徴させるか、と考えたら、犬のエピソードが出てきた。それで撮影していたら、たまたま犬の死体が橋の下にあったと。「うわー!」なんて逃げてきちゃって、でも暫くして「あ! 犬のエピソード考えてたよね?」って。

――『サウダーヂ』では、製作の規模はいままでとは比べ物にならないくらい大きくなったと思いますが。

高野 関わる人数は増えましたね。

富田 製作委員会方式って言っても、あくまで寄付をいただくときに、こちらの口座にお振込みよろしくお願いしますということで、富田克也の個人の口座というのも変なんで、まあその程度のものなんですよ。甲府側のプロデューサーを立てて、協力者が増えたことで、そこら辺はきちんとできたと思いますね。うん。

――撮影の実務的なことはだいぶ楽になりましたか。

富田 結局ぼくらは、週末ごとに向こうに行って、土曜日に1泊して撮って、日曜の夜に東京に帰ってくることを延々と繰り返したから、まず土曜日どこに泊まるの? ということになるわけです。それを全面的に引き受けてくれる人がいて。泊まらせてくれて、ぼくらが撮影を終えて帰ると料理がぱっと並んでいて、食べさせてくれて、寝かせてくれて、次の日は行っといでーって弁当持たせてくれて。それがものすごく大きかったですね。次にこんなことを引き受けてくれる人は二度と出てこないんじゃないかって思っちゃうくらい。その人も一回でもうこりごりって言ってるんで(笑)。次どうすんだろうオレたち。

高野貴子
撮影・編集:高野貴子
高野 また違うやり方を考えないといけないですね。今回は、おかげさまで強力な協力者がたくさんいてくださって。

――撮影は週末と盆暮れ正月というスタイルとのことですが、集中的に撮影できないデメリットみたいなものはありませんか。

富田 それが、そんなに感じないんですよね。むしろ、いいことのほうが多いですね、オレたちには。『雲の上』も3年かけて撮ったことで、シナリオでは想定し得ない不確定要素が次から次へと入り込む余地がある、むしろそれを探し求めてるところもあるから、たとえば『サウダーヂ』ではイオンの建設予定地、あんな土地だってぼくらは想定していなかったわけです。整地されてあの状態になっているのを見つけたら、「ここしかないでしょ」って話になるし、そういう偶然も含め、土地の変化とか、人の変化とか、そういうものが撮っていけるっていう意味で、メリットしか感じたことがないです。

ただ、ちょっとキツかったのは、ブラジル人たちの生活があんまり厳しい状況だったんで、いつ彼らが帰ってしまうか分からなかったこと。だから順位として、ブラジル人のシーンを最優先、次に、夏の映画なので外の土方のシーン。で、室内は全部冬に回せと。そういう順序だけは決めておきましたけどね。

長きに渡ってやることで集中力が途切れるんじゃないかと質問されますけど、ぼくらそれ以外のやり方をあんまりイメージしてないから、むしろ集中力として高まるんですよね。ぎゅっとやってパッと発散して、次の撮影までに1週間あると体力もある程度取り戻していけるし、1週間分の人生があるわけですよね、仕事なり何なりの。そこでまた新たなエピソードなりを蓄えられる。それが次のシーンを撮るときに生かされることがすごく多い。

高野 それでシーンが追加されて、ふくらんでいくと。

――空族のメンバーには、既存の日本映画の業界というかスタジオ・システムにスタッフとして関わった経験をお持ちの方はいらっしゃるんですか。

高野 いないです。

富田 ないです、ないです。

――今後はそうしたものとの関わりも必然的に増えてくると思います。それについてはどう考えておられますか。具体的には、今回はプロの俳優さんが参加しておられますよね。

富田 ぼくらはそもそも対象ありきの映画作り、つまり映画の側が興味のある対象に寄って行く作り方ですよね。映画に人を合わさせるわけじゃない。ただ、これだけに固執しているということでも、実はなくて。ほかの形で映画が撮れる状況がもし来たとしたら、その中でやり方を模索するということは当然考えてますよ。だからといって、それだけを積極的に探していくかというと、そうではない。こういうものはめぐり合わせだったり縁だったりするから、相手から話が来た、ぼくらが企画を持っている、それで両方が融合できてうまく撮れるか、ということ。もちろん、完全に向こう側に合わせてやらなきゃならない状況がもし来たら、またそこで考えざるを得ないですよねー。それを拒絶しているつもりはないです。

――今までに、そういった声がかかったことはあったんですか。

富田 茶飲み話のレベルでも、ないです。強調しますけど。

高野 なんででしょうね(笑)。

富田 笑っちゃうくらい、ないです。茶飲み話でも、ない。こんなの、真剣な話でもどんどん沸いては消え沸いては消えの世界のはずなのに、その茶飲み話ですら、ないですよ、オレたちは。なんでだろうね。

――既存の映画界に警戒されてるんですかね?

富田 誰も知らないんじゃないですかね。

高野 すごいお金かかっちゃうと思われてるとか。

富田 『サウダーヂ』を撮り終えてみて、ちらほらと言われるようになったのは、なんか、自分たちだけでできるじゃん、と。何人かからはそういった趣旨のことを言われましたね。

――可能性としては、空族がどこかから話を受けて、ユニット的にぱっと行ってぱっと撮ってくることもありえますよね?

富田 いいですよね。楽しいですよね、やらせてほしいですよ。

page1 page3 page4 レビュー

サウダーヂ 2011年/日本/167min/35㎜/カラー
監督:富田克也 脚本:相澤虎之助/富田克也 撮影:高野貴子 録音・音響効果:山﨑厳
助監督:河上健太郎 編集:富田克也/高野貴子
エグゼクティブ・プロデューサー:笹本貴之 プロデューサー:伊達浩太朗/富田智美
出演:鷹野毅,伊藤仁,田我流(from stillichimiya),ディーチャイ・パウイーナ,尾﨑愛,工藤千枝,デニス・オリヴェイラ・デ・ハマツ, イエダ・デ・アルメイダ・ハマツ,野口雄介,村田進二,中島朋人(鉄割アルバトロスケット),亜矢乃,川瀬陽太 ほか
制作:空族/『サウダーヂ』製作委員会 (c)廣瀬育子
公式 youtubeリンク『サウダーヂ』予告編

2010年10月22日(土)より、渋谷ユーロスペースにて公開中!!

2011/10/24/20:11 | トラックバック (0)
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