富田 克也 ( 映画監督 )
映画『サウダーヂ』について
2011年10月22日(土)より、渋谷ユーロスペースにて公開中!!
既成の映画業界とも、いわゆるインディーズとも違った独自のやり方で活動を続ける映画製作集団「空族(くぞく)」。その歩みは速くもないし決して派手でもないが、祭りの行列のように人目を惹き、各方面に支持者を増やしつつある。本年度のロカルノ映画祭メイン・コンペティションにも招待された最新作『サウダーヂ』の公開を控えて意気上がる富田克也さん(監督・脚本・編集)と、高野貴子さん(撮影・編集)にお話を伺った。『サウダーヂ』撮影時のエピソードのみならず、空族ならではの映画の遊び方にまで、話題は果てしなく広がる。(取材:鈴木 並木)
消費されない映画体験に向かって
――『映画芸術』の記事で、高野さんが『サウダーヂ』の女性の描き方について難色を示したと書かれていましたが。
高野 第一稿の段階で読んだっていうのもあるんですけど、まったく書き足りてなかったんです。相澤と富田の中ではイメージが作られてるんだけど、伝わりきれてなかったっていうのはあります。主人公の男性ふたりのところは本当にしっかり書いてあった。それ以外の、女性に限らずブラジル人のところも、まったく書き足りてなかった。
――それに対して高野さんが具体的にアイディアを出されて?
高野 はい。
富田 すごい具体的です。
高野 ふふふ(笑)。
富田 ぼくと相澤は時間を密にして脚本を書くわけで、ふたりの中ではかなりできあがっていて、共有している部分も多くあり、でもシナリオを書き終わってそれをスタッフに伝えていく第一段階で、伝わりきらなかったわけですよね。こっちの意見としてはね、「オレたちのやり方はもう分かってるじゃん?」みたいな、シナリオなんてものは叩き台に過ぎなくて、そこにあらゆるものを付け足していくことを期待して現場に入っていくやり方なんで、「いいかげん高野だって分かってるでしょ、そんなこと」ってなるんだけど、考えてみると、ぼくら、4年とか3年とかおきにしか映画を撮らないから。感覚を取り戻すのに時間はかかる。これからやるぞっていうときに、高野は不安になったと思うんですよ。「あれ、わたし理解できてない? あんたたち何やってるの、なんなのこれ?」と。
高野 (苦笑)
富田 高野が不安になって、こっちはまあ話せば分かると思ってるから、とりあえず日がないから現場連れてっちゃおうぜって(笑)。そこから感触をみんなで取り戻していく作業が始まるんですけど、高野がプンプンしながら現場に到着して、テストも兼ねて穴の中で土方のシーンを撮った瞬間に、にこーって笑うわけですよ。そうすると現場が勢いを増していく。そうすると高野の言いたいこともこっちにより伝わってくる、具体的になってくる。するとこっちも、シナリオに足りないのはこういうところだと言われると、なるほどね、と。オレたちが考えたキャラクターが、肉体を持っていく。撮影っていうのはそういう高揚を生む場なんで。
――高野さんから、カメラマンとしてここを見てほしいというところはありますか。
富田 カメラマンとしてっていうのはオレも聞いてみたいな。空族の一員としてだったら、いつも言ってるようなことだからさあ。
高野 ……(考えている)
――富田さんや相澤さんは露出もされているし、発言を目にすることも多いわけですが、空族の映画を見ていて、撮影の高野さんの話も聞いてみたいと思うんです。富田監督が、「エドワード・ヤンでやってくれ」と指示を出したとの噂を小耳にはさんだんですが。
撮影・編集:高野貴子富田 指示っていうか、今回群像劇でこういうストーリーだから、「こんな感じで行きたいんだよね」みたいな、で、高野も当然好きだから、「この域に少しは近づきたいよね」みたいになりますよね当然。で、みんなで『クーリンチェ少年殺人事件』(1991年)なんかを見直してみたりして。どこがすごいんだろう?みたいな話をする中で、オレと相澤と高野で同じものを共有することで、意思疎通ができてきて。そういう意味でのイメージは作っていきましたけどね。エドワード・ヤンをやってくれとか、そういうアレでもないですよ。
高野 シーンによっては、「エドワード・ヤンっぽくない?」とかそういうことはありましたけど。
富田 単にミーハーみたいなね。
――それはどこらへんでしょうか?
富田 そんなこと言えるかっ!(笑)
高野 コメントを思いつきました。1回見ても分かる作りにはしてあるつもりなんですけど、2度3度見ると、映画の中で描かれている世界がより分かると思いますんで、ぜひ何度も見てください。
富田 じゃあ補足として。今の映画の作られ方として、あまりに観客をバカにしてるんじゃないかと。観客はこの程度のものだ、このくらいのものを与えとけば喜ぶんだ、みたいな、作り手側のそういうなめた感じがしてしようがない。それがすごくイヤで。それがなんなのか分からないけれどもとにかく、「うわっ、すごい」って思うものが貼り付いていて、10年たって見たときに新たな発見があるとかね。そういうのが豊かな映画だと思うんです。
高野 消費されない体験。
富田 観客を単純に安心させて、解決を見せて、観客もそれで満足してしまって帰っていくみたいな映画の作られ方が非常にイヤで、だったら自分たちが作る側に回ったときには、誠実に作っていきたい。『サウダーヂ』のストーリーは一見複雑だけれど、こっちは考えて考えて考え抜いて、あの見せ方をチョイスしているわけですね。安易に分かるようなものではないかもしれないけども、2度3度見ていくと、最後まで見終わったときに、初めて冒頭のシーンが意味を持ったりする。ぼくら空族の作品は、すべての作品がそれを呼び起こすものとして作ってあるから、『国道20号線』を見たあとに『サウダーヂ』を見るとまた発見がある。また、『サウダーヂ』を見たあとに『国道20号線』を見ると新たな発見があるはずなんですよ。一個の映画という意味でもそうだし、ほかの作品群としてもそうだし、同じクルーで、同じやり方で映画を撮り続けるからこそだと思います。
――『サウダーヂ』の公開もこれからという時点ですが、空族の次の一手はどのようなものになるのでしょう。
富田 構想はあるんですけど、それを具体的にどう撮っていこうっていうことはまだ全然考えられない状況なんですけど、2年後くらいにやりたいですね。来年は無理だろうな、来年は準備期間で、再来年くらいにやれれば、ほんとはいいですけどね。
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( 取材:鈴木 並木)
監督:富田克也 脚本:相澤虎之助/富田克也 撮影:高野貴子 録音・音響効果:山﨑厳
助監督:河上健太郎 編集:富田克也/高野貴子
エグゼクティブ・プロデューサー:笹本貴之 プロデューサー:伊達浩太朗/富田智美
出演:鷹野毅,伊藤仁,田我流(from stillichimiya),ディーチャイ・パウイーナ,尾﨑愛,工藤千枝,デニス・オリヴェイラ・デ・ハマツ, イエダ・デ・アルメイダ・ハマツ,野口雄介,村田進二,中島朋人(鉄割アルバトロスケット),亜矢乃,川瀬陽太 ほか
制作:空族/『サウダーヂ』製作委員会 (c)廣瀬育子
2010年10月22日(土)より、渋谷ユーロスペースにて公開中!!
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