インタビュー
『サウダーヂ』富田克也監督

富田 克也 ( 映画監督 )

映画『サウダーヂ』について

公式 youtubeリンク『サウダーヂ』予告編

2011年10月22日(土)より、渋谷ユーロスペースにて公開中!!

既成の映画業界とも、いわゆるインディーズとも違った独自のやり方で活動を続ける映画製作集団「空族(くぞく)」。その歩みは速くもないし決して派手でもないが、祭りの行列のように人目を惹き、各方面に支持者を増やしつつある。本年度のロカルノ映画祭メイン・コンペティションにも招待された最新作『サウダーヂ』の公開を控えて意気上がる富田克也さん(監督・脚本・編集)と、高野貴子さん(撮影・編集)にお話を伺った。『サウダーヂ』撮影時のエピソードのみならず、空族ならではの映画の遊び方にまで、話題は果てしなく広がる。(取材:鈴木 並木

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ロカルノなんて知らなかった

――こういった、独自の作られ方の作品がロカルノ映画祭(スイス)で上映されること自体が驚きでした。経緯についてお聞かせいただけますか。

富田克也監督5富田 たまたまフランスの映画雑誌『カイエ・デュ・シネマ』で、日本のインディペンデント映画の状況みたいなものが記事になったんですね。フランス在住の日本人で小山内照太郎という男がいるんですけど、その彼がオレたちのところにインタビューに来たの、「こういう記事を書くことになりまして」って。今の日本映画界の状況がヨーロッパであまりにも知られてないと。で、日本国内で、ドメスティックな盛り上がりではあるけれど自主映画というものがあるとフランス人に言うと、驚くそうなんです。仕事しながら給料を製作費に回してなんてことをやってる奴らがいるのか、とみんなびっくりする。映画なんてそんな作り方をするもんじゃない、と。フランスでは映画には当然のように助成が出たりするじゃないですか。 6時間くらいあらゆることをしゃべって、それが記事になって、そしたらたまたま、ロカルノ映画祭のディレクターのオリヴィエ・ペールという、前年度までカンヌの監督週間のディレクターだった人が記事を読んで、「今からオレは日本に行くんだけど、用意されているリストの中に空族の『サウダーヂ』が入ってないじゃないか」と。ロカルノ映画祭とは聞いたことくらいはあったけど、実はそんなによく知らなかったし。オリヴィエが日本に到着する日に合わせてDVDをホテルの部屋に届けてくれと言うから、届けたんですよ。そしたら、着いて一発目に見て決めちゃったと。でも「SAMPLE」なんて画面に入ってるDVD見て『サウダーヂ』決定!って言われてもイヤだなと思って、ちょうど爆音映画祭用にフィルムのチェックをバウス・シアターでやってるから、フィルムで見せますからと。そしたらオリヴィエが来てくれて、フィルムで見て、「オレは決めたけどお前らはどうだ、いいのか」って言うから、「はい、ありがとうございます」みたいな。それでもオレたち、てっきり並行部門だと思ってたんです。そしたらメイン・コンペだと分かって、「メイン・コンペだったら……いいんじゃねえの?」と、そういう話です。 外国の映画祭に出品してネーム・バリューをつけることによって、国内で動員が増えるという効果があった時期もかつてはあった思うんですよ。でもそういう時代も一周したんじゃないかというイメージがあって、よっぽど、カンヌのパルムドールぐらいの冠がつかない限りそんなに効果はないんじゃないかと。ベルリン映画祭なんとか部門出品とかだと、どの映画のチラシを見てもみーんなくっついてるから。それだけに手をとられてしまって国内の興行が片手間になってしまうんだったら本末転倒だから、国内の公開は国内の公開で全精力を費やそうと。海外の映画祭に出て行く理由はまったく別物としてイメージをちゃんと持っていて、それは海外の人たちにオレたちの作品を観て貰う窓口として。そういうふうに分けて考えてたの。

――字幕で、細かいニュアンスの伝わり具合はどうだったんでしょう。

富田 英語字幕と、投影でフランス語字幕つきでしたけど、やっぱりどうしても表現がシンプルに、シンプルにされていくんですね。一応、相澤が校正入れたんですけど、印象としては、細かいニュアンスうんぬんというよりは、言葉のひとつひとつが強烈に出る感じ。ポリティカルなメッセージが前面に出るような雰囲気だったらしいです。相澤も、それはそれで非常に面白いと。会場の反応も、いい反応でした。

――現地のお客さんにしてみたら、日本のお金持ちのイメージがくつがえされたような印象だったんでしょうか。

富田 日本が抱えている問題をシンプルに受け取ってくれた。ぼくらが海外の映画を見てもその国の状況だとか事情だとか、そういうのが分かるのが面白いわけじゃないですか。移民問題はヨーロッパが日常的に抱えているものでもあるしね。フランスのフィリップ・アズーリだとか、ポルトガルのフランシスコ・フェレイラだとかいった批評家たちが非常に気に入ってくれたんですけど、彼らに聞いてみると、もちろんそういうのはあるんだけど、それだけじゃない、いわゆる映画美学的な部分に関してもすばらしさがあった、と、そこを褒めてくれたのはうれしかったですね。

――たしかに、アウトラインだけ聞いた人には、『サウダーヂ』はいわゆる社会派映画なのかなと受け止められる可能性もあるかと思います。

富田克也監督5富田 ぼくらは、社会的な問題みたいなものは映画の中にすべて入ってるもんだと当然のように思ってるし、人間を撮るにしてもなんにしても、むしろそれを排除するほうが無理、それが映画でしょと思っているから。あとは映画の技術的なことについていえば、『国道20号線』で一部評価して下さった方々もいましたけど、自主映画っていうエクスキューズをはさんで褒められてるんじゃないかみたいな、モワモワした感じはありました。自分たちに自信がないところも当然あるわけです。そういうところは日々鍛錬していこうと思ってるんで、それを『サウダーヂ』に込めたところはあるし、だから35ミリに挑戦したかったし、ヨーロッパの歴史ある映画祭に出て行くっていうのは腕試しでもあったから、向こうの人たちが、自主映画だなんて状況を知りもしない中で普通に褒めてくれたのは嬉しかったですね。

――外国の人から見て、メジャーとかインディーズとかの意識はないものですかね。

富田 ぼくらがジャ・ジャンクーやペドロ・コスタの映画を初めて見たときにね、作られ方の違いは雰囲気として明らかに分かるわけです。分かったところで、そんなことをふまえて褒めたりけなしたりはしないですよね。個人個人の持っているある一定の水準の中で評価したり感動したりするわけですからね。フィリップ・アズーリが言ってくれたのは、いまや映画界が忘れてしまったある種の自由さで撮られている映画だと。裏を返せば、メジャーの映画産業の中で作られてないってことも踏まえているとは思うんですけど、だからといって、さっき言ったような「エクスキューズ」は挟んでいないと思うし。

高野 作られ方が新しいかどうかということだと思うんです。世界中の映画が、みんな似通ってきちゃってるのもあると思うんですよね。作られ方なり、流れ方なり。

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サウダーヂ 2011年/日本/167min/35㎜/カラー
監督:富田克也 脚本:相澤虎之助/富田克也 撮影:高野貴子 録音・音響効果:山﨑厳
助監督:河上健太郎 編集:富田克也/高野貴子
エグゼクティブ・プロデューサー:笹本貴之 プロデューサー:伊達浩太朗/富田智美
出演:鷹野毅,伊藤仁,田我流(from stillichimiya),ディーチャイ・パウイーナ,尾﨑愛,工藤千枝,デニス・オリヴェイラ・デ・ハマツ, イエダ・デ・アルメイダ・ハマツ,野口雄介,村田進二,中島朋人(鉄割アルバトロスケット),亜矢乃,川瀬陽太 ほか
制作:空族/『サウダーヂ』製作委員会 (c)廣瀬育子
公式 youtubeリンク『サウダーヂ』予告編

2010年10月22日(土)より、渋谷ユーロスペースにて公開中!!

2011/10/24/20:12 | トラックバック (0)
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