塚本 晋也 (監督) 映画『斬、』について【3/5】
2018年11月24日(土)よりユーロスペースほか全国公開!
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――塚本監督も池松さんも蒼井さんも、お人柄はとても穏やかそうなのに、映画での化学反応はものすごかったです。今は3人で映画祭に参加したりインタビューを受けたりしていますが、表情や言葉から充実感が表れていますね。
塚本 みんな淡々と撮っているんですけれどもね。それぞれ個性とかクセは強いと思うんですけど、今回は純粋なスパークというか、きれいな火花が散ったような雰囲気でした。二人とも集中力がものすごくて、演技そのものも素晴らしいのですが、現場に挑む姿勢がまた大変素晴らしかったです。とても前向きに関わってくださいました。
――蒼井さんが、「台本がホチキス止めだった」とインタビューで話していたんですが、どういう形で俳優さんに渡しているんですか?
塚本 プロットも脚本も稿が変わるたびにメールで送って、マネージャーさんが印刷して俳優さんに渡してくださる感じです。ある時期から台本を作らなくなったんです。『野火』もありませんでした。以前は台本がむしろ旗みたいな感じで、力を込めて作って「よろしく!」と渡していたんですけど、せっかく作っても、直しが入ってもう一回刷ったりすることがあって。今はワープロのファイルで渡して「自分で刷ってください」とお願いしています。こっちで刷ると紙がたくさん要りますけど、一人ずつならそれぞれちょっとずつの紙を使って刷ってくれればいいだけなので。
――そうですね。こんなに豪華なキャストが出演していても、これは自主制作なんですよね。
塚本 そうです。脚本ができた瞬間に始められました。自主映画じゃなかったら、お金を集めるところからやらなければなりませんが、それは到底待ちきれなくて。急な話なのでスタッフたちがやってくれるかどうかというのは難しいところがあって、そこはちょっと申し訳なかったんですけど、結構強引にやってしまいました。
――ロケは庄内の映画村でしているんですよね。
塚本 はい、映画村のことは知っていて、「あそこなら撮れる」と、そこで撮るのが前提だったんです。でも使えなくなりそうになって、そうするとあちこちで撮って切り貼りのようなことをしなければならないので、大変なことになるぞ……と思っていたら、なんとか使えることになってよかったです。映画村を起点に、ほかにも同じ庄内に素晴らしい景色のところがたくさんあったので、庄内の中で風景をコラージュしていった感じですね。杉の木のすごく大きなのとか、時代劇ならではの画が撮れるところがいっぱいあったんです。
――庄内だけですべての撮影ができたのは、舞台が村の中だけに限られるからということでもありますよね。池松さん演じる杢之進は「人が斬れるのか?」と苦悩しながらも大義のある戦いのために旅立とうとしているんですが、村から一向に出られず無益な争いに巻き込まれていく……という悲劇のような物語になっています。
塚本 小さな宇宙の中にいろんな普遍的なものを、それこそ神話的・寓話的にシンプルに入れたいというのがありました。大作だったら、村から江戸に出て、京都の大乱闘に行って、壮絶な戦いをしてカタルシスがあって、ということになるんでしょうけど、そもそもカタルシスをもたらしたくないというのがあったので。江戸に出てなんぼという話なのに、そこに出れるか出れないかさえもわからない、行こうとするとみんなその前で倒れていくような、悲喜劇的な趣を出しながら、完結された中で寓話のようなものを出したかったんです。
監督、脚本、撮影、編集、製作:塚本晋也
出演:池松壮亮、蒼井優、中村達也、前田隆成、塚本晋也
製作:海獣シアター/配給:新日本映画社 © SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER
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