斎藤 久志 (監督) 映画『空の瞳とカタツムリ』について【5/5】
2019年2月23日(土)より池袋シネマ・ロサほか全国順次公開
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――劇中のピンク映画館のシーンは高崎の映画館で撮ったそうですね。とても雰囲気のあるところでした。
斎藤 映画館で死んでいる初老の男役で映画評論家の宇田川幸洋さんに出てもらっています。宇田川さんは僕のデビュー作の『フレンチドレッシング』(97)をすごく買ってくれて、それからの付き合いなんですけど、面白い人なんですよ、仙人のような。それでいつか宇田川さんを映画に出したいなと思っていました。今回、あそこに宇田川さんという存在がほしかったので「出てください」とお願いしたら、二つ返事で高崎まで来てくれました。
――監督は自主映画と商業映画を両方手がけられていますが、違いはなんでしょうか?
斎藤 自主映画からスタートしていますが、今は逆に自主映画の方が大変です。自由度は自主映画の方が断然高いですけど、全部自分でやらなければならないので、商業の方がラクといえばラクですね。これまでに僕が撮ってきたものに関しては、自主映画として撮るのと、こうしてオファーを受けて作るのとで映画の作り方にそんなに差はないですね。シネコンでかかるようなメジャー映画は撮っていませんが、商業映画だからこういう規制があって困ったとか、自主映画だからこんなに自由になれたとかいうことは特にないですね。
――どちらでもわりと思いどおりに作れていると。
斎藤 いや、極端に言うと思いどおりの映画なんて一度も作れたことはないですよ。映画は思いどおりにならないから面白かったりするわけで。もちろん人と作業することで大なり小なりのストレスはありますが、それは何をやったって付き物で、じゃあ自分の考えを貫徹したら面白いか?というとそうとも限らない。人が出した意見で何かが変わっていくのが映画の面白さだと思いますね。
――そうですね。この作品はまさに作ろうと思って作れない、コラボレーションによって生まれた素晴らしい映画で、反響が楽しみです。では最後に、今の若い人たちも生きにくさをいろいろと感じ、それをなかなか出せないでいると思うのですが、監督が若い世代に対して思うことはありますか?
斎藤 あんまり僕も彼らと変わらないと思うんですよね。“20代・30代の若い人たち”とは思っていなくて、自分も同じところをうろうろしている気がしているので、彼らの痛みは自分の痛みと同じだと思っていますね。僕の方が多少長く生きているので、傷のかばい方だとか痛みのやり過ごし方を知っているだけで、今でも彼らが感じる痛みは同じように感じていますし、逆にそこが感じられなくなったら表現ということができなくなっちゃうのかなと思います。この映画を観て何かを感じてもらえたら、そのことをきっかけに誰かと話してもらえたらいいなと思いますね。メッセージというのもあまり考えていないんです。警鐘を促したり、何かを伝えようというんじゃなくて、生きるということに対して肯定してやる。それが表現なんだと思います。どうやったって生きるってしんどいことがある。だけど生きているわけですよ。生きているってこと、死なないってことは、どこかで自分が美しいと信じているということなんだと思うんですよ。だったらそれを信じていってほしいなと思いますね。どんな人間であろうとも、肯定しようとすることが、映画を作るということだったり表現するということなのだと思います。
( 2019年1月29日 渋谷・ユーロスペースで 取材:深谷直子 )
出演:縄田かのん,中神円,三浦貴大,藤原隆介,利重剛,内田春菊,クノ真季子,柄本明
監督:斎藤久志 脚本:荒井美早 企画:荒井晴彦 タイトル:相米慎二
プロデューサー:成田尚哉 製作:橋本直樹,松枝佳紀 撮影:石井勲 音楽:阿藤芳史 照明:大坂章夫
録音:島津未来介 美術:福澤裕二 編集:細野優理子 衣装:江頭三枝 ヘアメイク:宮本真奈美
整音:竹田直樹 音響効果:井上奈津子 助監督:岸塚祐季 制作担当:三浦義信
製作:ウィルコ/アクターズ・ヴィジョン 配給:太秦 © そらひとフィルムパートナーズ
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