「ひきこさんの惨劇」/吉川久岳監督、脚本・宮崎大祐

吉川 久岳 (監督)
宮崎 大祐 (脚本担当)
映画「ひきこさんの惨劇」について

公式

2013年8月2日(金)21:10~オーディトリウム渋谷にて1日限定レイトショー

Jホラーに新風を吹き込んだ『Not Found』シリーズの仕掛け人である気鋭、吉川久岳監督の新作『ひきこさんの惨劇』が、今夏、オーディトリウム渋谷で限定公開される。脚本を務めたのは、昨年『夜が終わる場所』でインディペンデント映画界を席巻した宮崎大祐。2011年、東日本大震災の余波のなかで企画が持ち上がり、幾度かの中断を挟んで書き接がれたという本作に、両人は如何なる思いを込めたのか?詳しくお話を伺った。(取材:後河大貴)

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『ひきこさんの惨劇』6 『ひきこさんの惨劇』7――そうした新しい試みの一方で、劇中に登場する「ひきこさん」は、例えばイプセンの近代劇なんかに登場するような、向こうから突如やってきて、自由に耐えられない人間を引きずっていく……ある種古典的な、得体の知れない力として描かれています。或いは、「そうしたくないからこそ、そうしてしまう」というような、無意識の不合理さ、みたいなもの。

宮崎 自由の問題と無意識の恐ろしさは、まさに「人間の問題」であり、自分が追求し続けたい問題だと思います。自分が普段参照している200年前の意識と、最新のモードの背景にある問題や意識は何も変わらないはずです。それから眼を逸らして、この御時世に映画制作をやる意義などあるのだろうかと、たまに顔を出す古典主義的宮崎が申しております。

吉川 「ひきこ」の造形に関しては、まあ、あるクリシェの切り貼りになっているのかもしれませんが、あまり固有名詞的なものにもしたくなかったんです。とある少年の書き込みに端を発して事件が起こるわけですけど、それ自体が亡霊化するんでなしに、それに便乗する無数の匿名的なネットユーザーや、“怪怪ちゃんねる”のスタッフたち――そうした複数性から「ひきこさん」が立ち上がってくるという。だから、誰かの怨念が超越的な存在として外側からやってくるわけではなく、あくまでも人間の内側から発生したものなんだと思うんです。だから、「ひきこさん」の出現には規則性がなくて、それも突然何か現実の裂け目からポコッと現れる。そこが怖いし、面白いんじゃないかと思ってましたね。

宮崎 内側と言えば、学生時代に、量子物理学の超表層的なところを齧って、まさにそういうフォビアに囚われて何週か寝込んじゃったことがあったんですよ。ブラックホールって、「今ここ」に発生する可能性がまったくゼロではないんですよね。だから、突如として地球が「プンッ」と消えちゃう可能性もゼロではない、と。それを知ってから異常な焦燥感に駆られて、「眼前にいきなり裂け目が出来て、いつ自分は死ぬかもわからない」みたいなフォビアに苛まれ続けていたことがあって。で、その予感をネタに短編まで作ったんですけど、それが常態化する事態が3.11に起こってしまった。「ひきこ」はそういうフォビアを具現化した存在ですね。一見何も変わっていないが、何か大きな厄災は誰にでも突然訪れ得る。

――そういう意味では、自分が日々の摩擦の中でなかば忘却しつつあった……3.11直後の神経症的な日常が、いきなり回帰してきたような気持ち悪さを感じました。生理的なレベルで感じていた疚しさや居心地の悪さというか。それはヒキコさんの造形のみならず、作劇にしてもそうです。とあるネットユーザーが放った悪意が、映画製作クルーの加害者意識に横滑りしていく展開であるとか。

『ひきこさんの惨劇』8 『ひきこさんの惨劇』9宮崎 やっぱりホラーだから約束事としてキャストの大半は死ぬのでしょうが、フィクションであれモキュメンタリーであれ、見ているこちら側の生にダイレクトに繋がってくる恐怖を描かなきゃいけないんじゃないか、と思うんです。フィクションとしてのホラー世界をガッチリ構築するのは予算的に厳しいかもしれませんが、こうしたリアリティだけは外したくない。例えば、どこかの公園でホームレスが死んだとか、川沿いで身元不明の死体が発見されたとか、普段トップニュースにはならずとも、現実には結構あるじゃないですか。そういう確実に起こっているんだけど、平常は看過しているような遠い暴力、無意識に沈潜している疚しさみたいなこところに引っ掛けて、「俺のせいで誰かが死んだんじゃないか、死んでいたんじゃないか」という飛躍が成立するラインを狙って書きました。あとはまあ、加害者意識というのは「連続する問題」と並び、僕の終生のテーマなので。いつもこう……書いているうちに勝手にタグとして出てくるという(笑)だから、取り立てて意識化していたわけではないですが、その着想から広がって、ちょうどアイデアを練っていた頃――震災から1年ぐらいの東京の空気や、福島について無意識に考えていたことがどこかで接合されて、ああいう形になったのかもしれません。先程のフォビアじゃないですけど、不合理極まりない形で突如現前し、全てを奪い去って行く、そして影響のあるなしは確率にのみよる……しかし、原因・当事者は確実に我々であって、忘れようとしても何らかのうしろめたさが不可避的にインベントされている、そういう感覚ですかね、あの出来事の。3.11以後、監督という立場でそれを具現化して記録する機会がなかったので、これがその最初の機会になれば。

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ひきこさんの惨劇 2013 / 日本 / 94分/ カラー
出演:吉川まりあ,鈴木祥二郎,川連廣明,松井功,落合孝裕,安亜希子,川籠石駿平,中野剛,芦原健介
監督・編集:吉川久岳
プロデューサー : 小田泰之 ライン プロデューサー : 古賀奏一郎
脚本 : 宮崎大祐 撮影 : 柿崎知也 メイク : 佐々木 愛 制作担当 : 湯澤靖典 監督助手 : 有馬志宏
製作・配給 : アムモ98 ©2013 amumo 98
公式

2013年8月2日(金)21:10~
オーディトリウム渋谷にて1日限定レイトショー

2013/07/20/22:44 | トラックバック (0)
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