山戸 結希 (監督)
映画『5つ数えれば君の夢』について
シネマライズにて公開中、他全国順次ロードショー
大学在学中に撮った自主映画『あの娘が海辺で踊ってる』が大ヒットとなり、注目を集める山戸結希監督。その待望の長編デビュー作『5つ数えれば君の夢』は、人気ボーカル&ダンスグループ東京女子流とタッグを組んだディープな青春群像劇。文化祭を間近に控えた女子高で恋や夢に葛藤する少女たちの鋭い感受性が、観念的な台詞と流麗な音楽、東京女子流の切実な演技によってスクリーンにあぶり出される。本作でまたも唯一無二の才能を見せ付けた山戸監督に作品について伺った。(取材:深谷直子)
――新井さんはダンスのシーンも印象的でしたが、ダンスができると知っていての当て書きだったんですか?
山戸 そうですね、初対面のときに「ダンスは誰がいちばん上手いですか?」って訊いたら、絶対みんな新井さんのほうを指してたのに、あとで聞いたら庄司(芽生)さんがいちばん上手いって言うんですよ~(笑)。
――そんな勘違いがあったんですか(笑)。もちろん女子流でダンスはやっていますけど、映画ではモダンダンスなのでそういうダンスとは違いますよね。新井さんはモダンダンスをやったことはあったんですか?
山戸 モダンダンスは初めてで、しかもダンス歴もアイドルになってからということでした。だからひとみちゃんはすごく大変だったと思うんですが、練習でも1回も弱音を吐きませんでした。本当にがんばってくれました。
――その甲斐あってダンス・シーンは素晴らしいものになりましたね。新井さんもすごいですが、監督の演出力や空間の使い方もダイナミックで素晴らしいなあと思いました。監督もダンスはされていたんですか?
山戸 ダンス自体には関わりがないですね。
――そうなんですか? 今までの作品でも毎回ダンスは出てきますよね。
山戸 今まで自分の友達とかを撮っていたので、初演技の女の子が50歳とか60歳とかの成熟した女優さんの持っている技巧的な瞬間に勝つということは大変に難しいことですよね。身体って何十年も流れてきた空気や歴史が表出するものだから。でも踊りは、バレエとか日本舞踊もそうですが、何百年とかかって作られてきたあるフォルムを肉体で再現するということだから、そういう歴史性を身体に刻印できるんですよね。若い女優さんが成熟した女優さんよりも素晴らしい演技をするためにはどうしたらいいのかな、ということを論理的に考えると、必然的にダンスが必要になりました。
――誰もが取り入れられる普遍的なツールというか。
山戸 それと同時に、魂のダンスを踊れるのはほんの一握りの人間だけだとも思います。スクリーンの上では、成熟した女優さんも新人の女優さんも対等なので、それに負けない強度で立っていてほしいと願っています。
――なるほど。それにしても、哲学というのは世界で起こる混沌としたものを言葉で明晰に表そうとする学問じゃないかと思うんですけど、そういうことを勉強してきた監督が、思考を超える人の肉体を使って表現する映画を撮るようになったのも面白いことに思えます。全然逆ですよね。監督に元々こういう志向があったということでしょうか?
山戸 そうですね、元々表現行為自体に興味がありました。絵も観るし本も読むし、演劇も映画も観に行くし音楽も聴くという感じで。大学2年の終わりぐらいまで哲学研究者を目指していましたが、言語の限界性みたいなものも感じざるを得ないところがありました。そういう中で本当にたまたま映画を撮る流れになったんですが、映画って脚本通りに絶対行かなくて。ネガティヴな意味でも、そして、ポジティヴな意味でも。しかも映画が輝くのはその瞬間なんです。そういう脚本にはない世界の外部性が入ってくる、他者性が入ってくるっていうことがすごく面白くて。世界の中で映画が歓迎される一瞬は確かにあるって思えて、流れとしても、そっちに自分が入っていってる気がしますね。
――思いがけないことが起きてしまうのが面白いと。
山戸 言語では、きっと一人称ということもあり、絶対に起こらないことが。言葉だと行き詰ったりするものが、映画だと思わぬ方向に開けていく。今はそっちのほうがどう考えても面白いと思ってしまいますね。
――『5つ数えれば君の夢』にも、狙っているのかどうか判断が微妙な感じのシーンが結構ありますよね。
山戸 そういうのは大体狙っていないと思います(笑)。
――いやいや(笑)、例えば印象的だったのは、小西彩乃さん演じる都が庄司さん演じる宇佐美に電話をかけているというシーンで、どんどんアップになって最後に小西さんがカメラ目線になるんですよね。そこでドキッとしました。
山戸 小西さんは、撮影現場に入って急にそうなったんですけど、カメラに入るとバチッと表情が決まるんです。もちろん遠目でも可愛いんですけど、顔に寄って小西さんがフレームに入るだけで決まる感じがあって、それにどんどん惹かれていって、どんどん寄ってもらいました。小西さんはびっくりしていましたね、こういうふうに撮られたことなかったって。
――カット割りは決まっていなかったんですか? ここまで寄るよ、というような。
山戸 もちろん現場でカット割りは決めてやっていたんですけど、脚本段階ではただ電話をするシーンという感じだったので。撮影の鈴木一博さんもすごくいいやり方をしてくださいましたね。
――鈴木一博さんは女の子の映画を撮ることが多くて、私の好きな作品をたくさん手掛けてらっしゃるんですが、独特の距離感がありますよね。委員長が差し入れを持ってきてくれたお兄さんと話す長いシーンがありますけど、あそこもカメラがふわふわ浮遊してちょっと怖い感じで。
山戸 私も一博さんの画が大好きで。あそこは夢の入り口なので、ふわふわ撮ってくださいってお願いしましたね。
――そういう監督のイメージをちゃんと理解して撮ってくれるんですね。今回はプロのスタッフとのコラボもすごく効いているなと思いました。音楽もよかったですね。ほとんど全編鳴りどおしという使い方がとても特徴的で。
山戸 Vampilliaさんが作ってくださって。今まで毎回自分で音楽を付けていたんですけど、今回は初めて外部にお任せしようということでお願いして、ああいう感じにしていただきました。
――すごく美しくて、ずっと鳴っているということでも陶酔感がありました。
山戸 基本的に自分の映画では音楽がずっと鳴っているので、その延長線上でそうしてくださったんだと思います。音楽がずっと鳴っているというのは、これは同世代の方からすごく共感されることなのですが、自分がMDウォークマンやiPodが全盛期の世代で、思春期の頃、歩いているときなどずっと音楽を聴いていたから、常に音楽が鳴ってる感覚があるんです。生活の中で、ずっと歌が鳴っている感じです。