山戸 結希 (監督)
映画『5つ数えれば君の夢』について
シネマライズにて公開中、他全国順次ロードショー
大学在学中に撮った自主映画『あの娘が海辺で踊ってる』が大ヒットとなり、注目を集める山戸結希監督。その待望の長編デビュー作『5つ数えれば君の夢』は、人気ボーカル&ダンスグループ東京女子流とタッグを組んだディープな青春群像劇。文化祭を間近に控えた女子高で恋や夢に葛藤する少女たちの鋭い感受性が、観念的な台詞と流麗な音楽、東京女子流の切実な演技によってスクリーンにあぶり出される。本作でまたも唯一無二の才能を見せ付けた山戸監督に作品について伺った。(取材:深谷直子)
――『5つ数えれば君の夢』は完成披露試写会で見せていただきました。東京女子流のライヴと舞台挨拶もあって、みなさん演技は初めてで大変だったけど新しい自分を引き出せてやりがいがあったという感想を言われていました。女子流のみなさんにとって映画出演は思いがけないものだったようなのですが、どういう経緯でこの作品を撮ることになったんですか?
山戸 東京女子流のCDジャケットなどのアート・ディレクションをしているアンサーの針谷(建二郎)さんが女子流さんで映画を撮ってみたいと思っていたそうなんです。そのお話を聞いたスポッテッドプロダクションズの直井(卓俊)さんが、映画だったら山戸さんがいますよと言ってくださって。そんなふうに、お二人が東京女子流と自分を推薦し合ってくださり、クリームソーダを飲みながらフワッとした感じで始まったお話なんですけど、急に動き出して急に撮り終えてましたね(笑)。
――じゃあ山戸監督にとっても思いがけないものだったんですね。東京女子流のことはそれまであまり知らなかったんですか?
山戸 はい、そのときはそうでしたね。
――1作目の『あの娘が海辺で踊ってる』(12)もアイドルを目指す女の子のお話でしたが、アイドルに興味はあるんですか?
山戸 基本的にはそんなにはないですね。たまたま最初にアイドルを目指す女の子の映画を撮って、題材としてはその1本で終わるはずだったんですけど、そのまま“バンドじゃないもん!”さんのMVを撮らせていただいたり、撮った方たちに対しては、ものすごく思い入れがありますね。
――山戸監督は上智大学で哲学を専攻されていたんですよね。哲学とアイドルというのも繋がらない気がするので面白いなあと。
山戸 そっか、そういえば、歴史アイドルや文学アイドルはいるけれど、まだ哲学アイドルは出てきていないですね(笑)。
――在学中に突如ご自分で映画研究会を立ち上げたというエピソードも異色ですよね。
山戸 今振り返るとそうかもしれないですね。大学3年生の春に映画研究会を立ち上げて、夏に『あの娘が海辺で踊ってる』を撮って、その反省を活かして冬に短編の『Her Res』(12)を撮ったら、翌年にその2本がそれぞれ東京学生映画祭とPFFで入選して劇場公開という流れになったので、作ったらすぐに映画祭や劇場公開でバタバタし始めたという感じでした。卒業間際に、MOOSIC LABの『おとぎ話みたい』(13)も撮影しました。
――『おとぎ話みたい』にはやられました。大絶賛を受けた『あの娘が海辺で踊ってる』も荒削りではありながら感性が光っていましたが、『おとぎ話みたい』はそこからすごく成長していきなり完成しているので本当に驚いて。これは一般公開されていないのがもったいないですよね。
山戸 ありがとうございます。『おとぎ話みたい』のほうは、今年の後半に正式に公開できればと思っています。去年の3月に撮って4月に公開してという状態だったので、作品のためにできることをもっとしてあげて、お客さんに対してもお誂え向きにして劇場公開したいという気持ちがあります。
――楽しみにしています。そして今回の『5つ数えれば君の夢』でも一段と成長が見られますね。女子高生たちの緊迫した関係と山戸監督らしい長い台詞に圧倒されました。今回シナリオを書くにあたっては、東京女子流のメンバーそれぞれのキャラクターなどを研究して合う役を作っていったんですか?
山戸 事前にメディアなどは全く見ていませんでした。アイドル映画によくあるフェイク・ドキュメンタリーやメタ・フィクションみたいなものを作るには、「この子はこういう性格なんだ」ということを知ることが必要だと思いますが、アイドル映画としてではなく強いフィクションの物語として作りたかったので、初めて会ったときの印象で、彼女たちの肉体に当て書きしました。でもプロデューサーさんは「これじゃ40分にしかならないよ」っておっしゃっていました(笑)。映画の現場に入ってしまうと、肉体というか、その存在がむき出しになって見えてくる部分があり、だんだんシーンも増えていきました。結局85分になっちゃいましたね。現場で必死に演出をして、合間に朦朧としながら台詞を書いて、そうしてできていきました。
――現場をやりながら脚本に加筆していったんですね。
山戸 ずっとパソコンを持ち歩いていましたね(笑)。
――じゃあ女子流のみなさんも大変でしたよね。どんどん新しく台詞ができてくる感じで。
山戸 みなさん、とっても大変だったと思います。
――しかも台詞はさすが哲学科の監督が書いたものだなという濃密なもので。あれを女子流のみなさんが覚えて自分の言葉のように話しているのがすごいですよね。
山戸 知らない漢字の読み方をまわりに訊いたりしてくれていて、可愛かったですね(笑)。単純にまだ中学3年生の子とかがいるので、学校で習っていないんですよね。
――中学3年生ですか。
山戸 (新井)ひとみちゃんはそうでしたね。