山戸 結希 (監督)
映画『5つ数えれば君の夢』について
シネマライズにて公開中、他全国順次ロードショー
大学在学中に撮った自主映画『あの娘が海辺で踊ってる』が大ヒットとなり、注目を集める山戸結希監督。その待望の長編デビュー作『5つ数えれば君の夢』は、人気ボーカル&ダンスグループ東京女子流とタッグを組んだディープな青春群像劇。文化祭を間近に控えた女子高で恋や夢に葛藤する少女たちの鋭い感受性が、観念的な台詞と流麗な音楽、東京女子流の切実な演技によってスクリーンにあぶり出される。本作でまたも唯一無二の才能を見せ付けた山戸監督に作品について伺った。(取材:深谷直子)
――東京女子流が歌う主題歌の「月の気まぐれ」も名曲ですね。
山戸 (作詞・作曲の)きくおさんがエンディングを撮っている現場に来てくださって、そこから受けたインスピレーションを曲に反映してくださったので、すごくいい形で終われたんじゃないかと思います。きくおさんのあのスピード感、センスのおかげで、元々あった曲がガラッとイメージの違う曲になって。
――エンディングは映画のちょっと苦しい世界から解放される感じがあってよかったですね。女子流のみなさんの素の可愛さが眩しくてまた感動しました。この曲のワルツのリズムもお嬢様っぽい制服も今までの東京女子流のイメージとは違うものだと思いますが、制服のデザインは監督のアイディアですか?
山戸 いえ全然。(衣装制作の)フェリシモさんの熱意がすごくて、だからこそたまたま衣装からも火が点いて、ありがたかったです。
宣伝担当 制服がすごい人気なんですよ。着て観に行こうっていう動きが出てきているようで、新しい層の獲得でした(笑)。
山戸 「てごじょ」のミスコン、公開中のイベントでやりたいですね、お客さんと(笑)。
――あ、手越女子高で「てごじょ」というネーミングも変わっていますけど。
宣伝担当 ネーミングも監督が考えて。学校名は「TOKYO GIRLS' STYLE(東京女子流の英語名)」のTGSを当てはめて付けましょうということになったんですが、新井さんが手越しに太陽を見るポーズが印象的で、「てごし」でどうでしょう、って。
山戸 最初は助監督の方が考えてくださった「たぐさ」に決まりそうだったんです。TGSを学校名にするというアイディアはいいなと思ったので、ひとみちゃんがそういうポーズを取るのを思い浮かべてたらこれだと。タイトル・シーンで一瞬だけなんですけどね(笑)。ミスコンの貼り紙とかも手のデザインを使いましたね。
――ああ、そういうことなんだ。トリビアですね(笑)。
宣伝担当 そういう情報も入れたパンフレットも制作中で、初日までには完成します(笑)。
――先日の試写会では男性のお客さんが大半でしたが、制服が売れているということは女の子のファンも多いんですか?
山戸 正確には分からないですが、一般的な客層として男女差はあるのではないでしょうか。
――でもこの作品はガールズ・ムービーで、女の子を中心にいろんな方に観ていただきたいですよね。アイドル映画として括られると観客が限定されてしまいそうなところがありますが、突破してほしいなあと。
山戸 そうですね。アイドル映画と言って指すものは、今まで女性アイドルを男性の監督が撮ってという形で成立していたと思うので、また新しい難しさがあるかもしれませんね。
――でも東京女子流のみなさんが山戸監督の描くヘビーな世界を生きるというのがすごかったと思います。女子流の方たちにとってもアイドルとして可愛く撮られるのではなく、女優として扱われるのは新鮮な体験だったと思うし、女の子の生々しい感情が引き出されていて、どんな世代が観ても感じるものがある作品になったと思います。
宣伝担当 完成披露試写の感想でも、観たばかりなのに何回でも観たいというようなことを言ってくださる方が多いですね。リピートしてくれる方がかなり出てくるんじゃないかと。
山戸 特に女性の方には、そういう方が多くてありがたいです。
――1回観ただけでは捉え切れないというのもありますよね。台詞の量とかものすごくて。圧倒されてしまって1回だけでは整理が付かないなあと。こういう体験もなかなかできないと思うんですよ。
山戸 そうですね、普通の映画を撮る気が全然なくて(笑)。
――東京女子流のファンに向けてという感じじゃなくて、監督が自分の世界で撮られているなあと思いました。どんな題材でもこうしてしまうんだろうなあと。
山戸 私はアイドルのファンをしたことはないのですが、でもファンの方も、自分たちだけに向けられて作られたものよりも外に広がっていくもののほうを絶対に喜んでくれると思っていたので。それでも、敵役やシーンへの、ファンの方のリアクションは不安だったんですけど、試写会の反応も予想以上によくて驚きました。「ファン向けの映画としても成立するし、むしろ映画として作ってくれたことが嬉しい」と言ってくださって。それは、女子流さんのファンの寛容さだと思いますね。本当によかったです。
――高校生が主人公の作品が続きましたが、もっと他の世代や設定を撮りたい気持ちはありますか?
山戸 そうですね、今回は東京女子流さんが高校生なので自然に高校生役でした。でも今までは高校生を主役にした映画でも、大学の友達や同い年の女優さんを撮っていたんですよね。今回女子流さんは7歳下で、私も“少女監督”と言われたりしていたけど、もうお母さんなんだなあ、と思って(笑)。これからは“お母さん監督”としてやっていこうと思います(笑)。お母さん監督らしく成熟した女性、自分より年上の方とかも撮りたいなと思っているし、肉体っていうお題に当て書きしている感覚なので、男性もガチッと撮ってみたいなと思っています。どんな企画でできるかというのはありますが、少女以外を撮るというのは意志としてはありますね。
――お母さん監督では全然ないと思いますけど(笑)、一層の飛躍を期待しています。『5つ数えれば君の夢』もどんなふうに広がっていくのかとても楽しみです。
山戸 ありがとうございます。映画を撮っていていちばん楽しい瞬間はお客さんがスクリーンを見て熱狂しているのが感じられる瞬間なんです。映画を作っているときでも他者性というのは感じているんですけど、スクリーンでやっと、本当の他者に確かに出会っているんだなと思えるので、ひとりでも多くの方に観ていただきたいなと思いますね。
( 2014年2月27日 渋谷・映画美学校で 取材:深谷直子 )