中村 達也 (俳優・ドラマー) 映画『野火』について【2/8】
2015年7月25日(土)より、ユーロスペースほか全国公開
公式サイト 公式Facebook (取材:深谷直子)
――『野火』は塚本監督が20年もあたためていた企画だったということなんですが、そういうお話もお聞きしていたんですか?
中村 そういう話は聞いていたけど、原作とか前の映画(『野火』59年/市川崑監督)とかは観なかった。
――原作は読まれなかったんですね。じゃあ台本だけでどんな話なのか知って。
中村 そう、台本だけ。
――戦争の映画なので、準備がかなり必要だったと思います。当時のことを調べたり、ダイエットなど肉体面でも。
中村 戦争の話は親からよく聞いていたから。おふくろは富山県生まれで富山の大空襲を10歳ぐらいで体験しているし、親父は名古屋にいて名古屋の大空襲のときに疎開しているから。おふくろの話が特に強烈で、大空襲のときに、神通川という川の水がものすごく熱くなっているんだけど、でもみんな焼かれているからどんどん飛び込んでいって、苦しみながら溺れていくのを見ていたって。親父はグラマンか何かにダダダダッと撃たれて、その真ん中を走って逃げ切ったって。絶対ウソなんだけど(笑)。
――(笑)。でもそういうふうに戦争体験を聞いていたんですね。
中村 うん。親父は軍国少年で、おととし死んだんだけど、酔っ払うと軍歌を歌うようになっていて。あと2、3年前の三宅洋平さんが選挙に立候補したりしていたころのことだけど、どっちかというとデモとかを見ると「若いやつは騒いでけしからん」とか言うような感じで。でもそれは震災あとの話だから、どんどん原発のことだとかが親父も分かってきて、「自分が信じ切っていたことはもしかしたら違うかもしれない」って思っていたようだった。テレビしか見ていないからさ。おふくろもそうだけど。
――ああ、複雑ですね。ではこの時代の人たちの思いというのを達也さんは知って演じていて。
中村 でも俺はレイテ島のことだとかは全然知らなくて。第2次世界大戦の末期がどんなものだったかも全然知らなかったから、映画を撮り終わってから興味が湧いていろいろと読んだりした。何かのツアーで博多に行ったときに若松孝二さんの『千年の愉楽』(12)を観て、それも日本の昔から引きずっている何か……、パンフレットを読んだら日本の昔のことがいろいろ書かれていて、これは読んでもらわないと俺はうまく説明できないんだけど。
――あ、読んでいます。私も大好きな作品です。差別の歴史が描かれた作品ですよね。
中村 そう、天皇がどうのこうのという、俺たちが植え付けられた教育とは別の、知らないことから始まっていて。それでその映画を観た帰りに『永遠の0』の小説を買って読んだらすごく面白くて。だって戦争のことを何も知らないから、本当のことを知りたいと思うから。ひどいなあと思ったね。軍の上の人たちに下の者はこき使われて、こんなにひどかったんだなあと思った。そしてここから脱線するんですけど、それを昔一緒にバンドをやっていたやつに「これ面白いから読んでみて」って読ませたら違う捉え方をして、「男はやっぱりこういうもんじゃないと!」とか言っていて(苦笑)。俺は逆にひどいなあと思ったんだけど、捉え方はいろいろだなと。あの作品は映画化もされたじゃん? でも映画館で予告を見たら俺が感じたことは映画にはなっていないなと思ったので、それは観ていない。
――私もあの作品には偏見を持ってしまっていて観ないままで。でもお話を聞いて小説を読みたくなりました。
中村 まあ映画を撮り終わってからそういうことがありつつも、撮影前はレイテ島の戦いとは何たるやも知らず、塚本さんが用意してくれた「何人死にました」とかの資料だけを見て、ピンとこないままダイエットとかの準備をしていきました。
原作:大岡昇平「野火」
出演:塚本晋也、リリー・フランキー、中村達也 監督・脚本・編集・撮影・製作:塚本晋也
配給:海獣シアター © Shinya Tsukamoto/海獣シアター
公式サイト 公式Facebook