中村 達也 (俳優・ドラマー) 映画『野火』について【6/8】
2015年7月25日(土)より、ユーロスペースほか全国公開
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――ああ、そういう映画のモチーフなどを直接音楽に取り入れるということはないかもしれませんが、達也さんがすごく自由になってきている気がしますよね。いろんな人と組んで、いろんなタイプの音楽をやって。そういうのはブランキーのころは思いもつかなかったことなので、映画で他の人の人生を演じたり、現場でいろいろな人と交わるようなことの影響もあるのではないかと思うんですが。
中村 音楽が、俺は何でも好きになってきちゃっているから。昔だったら「パンクしかイヤだ」とかいうのがあって、まあそう言いつつも「いとしのエリー」を演奏していたりもしていたんですけど(苦笑)。タイコを叩きたいっていう欲求があって、それは多分気持ちよくなりたいからなんだけど、それってオナニーと一緒じゃないか?ひとりでやりゃあいいじゃないか?ってことで。じゃあバンドをやりたいのはなんでか?っていうと、こういう音楽をみんなでやりたいと。その音楽というのはやっぱりパンクだったりジャズだったりするんだけど、じゃあバンドって何だ? オナニーじゃないなって。そういうのを朝まで考えていたりするんだけど……、まとまらず(苦笑)。
――あはは。
中村 そしてさっきの質問の、俺がいろんな人といろんな音楽をやるっていうのは、俺はドラムを極めたわけではなくてそれっぽいことができるというだけで、真似なんだよね。真似ができるの、ドラムで。じゃあ自分は何なんだろうか?と思って、ここのところずっと具合が悪かったの、それで。家の犬を殴ったり子供にコップ投げつけたり、イライラしてたわけ。
――えーっ、そんなに?
中村 で、さっきちょっと思ったのは、音楽みたいな整ったものではなくて、ドラムをただぶっ叩いて、それで人が感激したり感動したりわめき散らしたり、踊り狂ったり、絵を描きたくなったり、そういうふうに心を動かされるかもしれないことをやりたいんじゃないかという気がして。そんなことをちょっと思った。ほんの3時間ぐらい前に。
――え、本当ですか(笑)? 音楽とかそういう型にとらわれないで、衝動の赴くままにやりたいと。
中村 うん、そんな3時間後のワタシです(笑)。
――(笑)。7月1日に『野火』の爆激上映イベントがあって、そこで石川忠さんとライブをされますよね。
中村 ああ、それもね、この前リハをやったんだけど。1月に俺が50歳になった記念に今までやってきたバンドのライブを一気にやったとき(「中村達也 9 Souls -Anniversary of Drums Beast-」1月4日~2月16日)に、やっぱり音楽という縛りがあるし、ルールもあるし、曲もあるし、自由じゃなかったわけ。お客さん相手にずっと即興でやるわけにもいかないって思うようになってきているから、「ここはこうしましょう、ああしましょう」って考えてやっているから、完全に自由ではなかったわけ。で、黒田征太郎さんとやるときだけ、絵と音だから「やっと自由にやれるわ!」と思ったら、いちばん自由じゃなかった。冷や汗が出てきたもん、人前に立ったら。「何をやろう?」って思って。
――そうだったんですか? 私も見に行きましたけど、すごい真剣勝負だったなと。
中村 ひとまず叩き切ったけど、っていうだけの話で、ただ俺は音を出していただけ。
――自由にやっていたわけではなかったんですか。
中村 全然自由じゃない。なんにも出てこなかったけどクセでやっていただけ。前は黒田さんとやる喜びみたいのがあったけど、あの時間はずっとつらくて。俺はもうそういう即興演奏が苦手になっちゃったんだろうなと思っていたんだけど。だけどこないだ忠さんとやったときに、また自然にドシャドシャドシャ!っていうのが出てきたから。自分の想像力も働いて、それは「ああしようこうしよう」じゃなくて自然な想像力というか。でもそれは最初。1テイクめがそれで、2テイクめから「この音楽があるからこういうふうにしましょう、ああいうふうにしましょう」とかなっていくと、途端に「分かりました」って言ってドラマーとしての自分に返っちゃうわけ。普通のドラマーとして、ここをこう整理して叩こうって。まあそれもできるようになっちゃったんだけど。なんか商売のほうの情熱はうまく行っているんだけど、魂のほうの情熱は、まあしょうがないよね、ってあきらめているような。
原作:大岡昇平「野火」
出演:塚本晋也、リリー・フランキー、中村達也 監督・脚本・編集・撮影・製作:塚本晋也
配給:海獣シアター © Shinya Tsukamoto/海獣シアター
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