岩井 俊二 (監督)
映画『リップヴァンウィンクルの花嫁』について【1/8】
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2016年3月26日(土)より全国公開中
アメリカで『ヴァンパイア』、昨年の『花とアリス殺人事件』では初のアニメーション映画と精力的に作品を発表している岩井俊二監督が、実写の日本映画としては久しぶりになる新作が『リップヴァンウィンクルの花嫁』である。3時間を感じさせない充実した内容の作品に仕上がっていてインタビューをさせていただいた。 (取材:わたなべりんたろう)
舞台は東京。派遣教員の皆川七海(黒木)はSNS で知り合った鉄也と結婚するが、結婚式の代理出席をなんでも屋の安室(綾野)に依頼する。新婚早々、鉄也の浮気が発覚すると、義母・カヤ子から逆に浮気の罪をかぶせられ、家を追い出される。苦境に立たされた七海に安室は奇妙なバイトを次々斡旋する。最初はあの代理出席のバイト。次は月100万円も稼げる住み込みのメイドだった。破天荒で自由なメイド仲間の里中真白(Cocco)に七海は好感を持つ。真白は体調が優れず、日に日に痩せていくが、仕事への情熱と浪費癖は衰えない。ある日、真白はウェディングドレスを買いたいと言い出す。
――今作を観て岩井さんはあらためてパンクだなと思いました。
岩井 パンク....そうなのかな。
――以前に『市川崑物語』を「映画秘宝」でインタビューさせていただいた時に「PCで多重録音ができると知った時にまず「犬神家の一族」のテーマ曲の各パートを自分で演奏して録音した」と言っていて、根源的なことをまずは自分自身で試してみることがパンクだなとその時に思ったことを思い出しました。
岩井 納得するまでやるのはそうかもしれない。
――今作に関して他のインタビューで「感情の変化を導線として演出をつながないようにした。ドキュメンタリーのスタイルにも近い作品なので」と岩井さんが言っていましたが、その点はどれぐらい意識はしていたのでしょうか? そのことが今作の映画作りとしてまずあり、自由な作風に感じるのかなと。
岩井 意識はしていたかもしれないけれど、そうは言っても物語なんで、ある程度はそういうつなぎももちろんあるんですけど、ドラマの基本というとどうしても目線だったりになってしまう。AがBを見たらAはBに気があるんだなとか。そういう目線芝居でつなぐことは普通にできるわけですけど、でもそれをやり過ぎるとベタなドラマにしかならないから表現として演出上いろいろ考えると今回はそういうのはやめておこうと。
――1か月ほど前に「ロックの会」(岩井監督、松田美由紀さん、小林武史さん、岩上安身さん3.11以降に集まった日本そして世界を地球を未来に繋げていくための環境問題を考える会)の2次会の帰りに岩井さんと話しましたが綾野剛さん演じる安室が途中でミステリアスな人物ではありながらも、あることを仕組んでいたところをあっさり見せるシーンがあります。通常のストーリーテリングなら、安室を敵か味方か曖昧にして引っ張っていきますが、この映画はそうはしない。
岩井 その時も言ったけどジャンルに落とし込まないようにしているのはあるかな。なぜかというと、例えばそのシーンでもし安室のしたことを明かさずに引っ張っていったらジャンル、この場合はスリラーになると思うけど、スリラーとしての展開をお客さんは期待してその後を観ることになる。だから結果から逆算して、この映画で何を最大のプライオリティにするのかというのがあって、それを生かすためにそれをさえぎるものをなるべく排除しなければならないなと。話の作り方に演繹法と帰納法があって、スリラーとかサスペンスは帰納法だと思うんだけど、あるファクターがあって回帰していくという。そっちに物語が収束していくのか、わらしべ長者のように広がっていくのかどっちの話かによるけど後者だとすればサスペンス要素を持ち込んでいくと衝突していってしまうし、やはり観客はそこに執着してそれ以外のことにあまり重要視して観てくれなくなる。それはあまり好きな映画ではないので。だから、他の映画作品を観ていると「これはやらないほうがいいのに」と思うことはあります。でもそれをやらないと物語の吸引力がなくなるからやっちゃうんだろうなと。でも果たしてそれでどうなんだろう?と思うことはよくありますね。
監督・脚本:岩井俊二
エグゼクティブプロデューサー:杉田成道 プロデューサー:宮川朋之,水野昌,紀伊宗之
原作:岩井俊二『リップヴァンウィンクルの花嫁』(文藝春秋刊)
撮影:神戸千木 美術:部谷京子 スタイリスト:申谷弘美 メイク:外丸愛 音楽監督:桑原まこ
出演:黒木華,綾野剛,Cocco,原日出子,地曵豪,和田聰宏,金田明夫,毬谷友子,佐生有語,夏目ナナ,りりィ
制作プロダクション:ロックウェルアイズ 配給:東映 © RVWフィルムパートナーズ
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