岩井 俊二 (監督)
映画『リップヴァンウィンクルの花嫁』について【4/8】
2016年3月26日(土)より全国公開中
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――『ヴァンパイア』は物語構造が多層的でなくストレートであるから。
岩井 ああいうのが本来好きで作りもそうしたいんだけど物語の道筋が見えないから脱線したりがある。もちろん内容次第なんだけど最初にはった伏線の処理とかもあるから。『リップヴァンウインクルの花嫁』が扱っている内容が分量的にも多いからそれは分かっているんだけど、それにしてもまだやり方の可能性はあったんじゃないかとは思っている。非常にモヤッとしたものはまだ残っているなと。
――そのモヤッとしたものは観る側にも残るし、2回観てもその点はあって良かったなと感じました。岩井さんにしても脚本の段階で全部こうなるだろうと予測して映画を作るわけではなく、今作も含めて今までしていないチャレンジングな面を残して撮影に臨み映画を完成させているのだろうなと。
岩井 そこの取捨選択、まあ映画の物語の伝え方と編集の話になるけど以前にも違うタイプの編集を1つの作品に対して作っていて。そうすると1つの映画に対して違う見え方や隙間があることに気付く。映画は通常は1つの編集しかしないから監督も映画編集者もこれしかないと思って編集しているけれども別ヴァージョン作っても結構悪くなくて。そうか、こういう映画でもあるんだと気付く。みんなが観る別ヴァージョンとかではないので、それを観るのはとても珍しいわけだけど本来はラフ編集の段階で3つか4つの大胆なヴァージョンを作って、この映画はどういう作品であるかを検証してみることはあってもいいのかなと思う。今回はそのことを強く思った。例えば、クライマックスをばっさりカットしたらどう見えるんだろうとか。クライマックスは絶対無きゃいけないと思い込んでいるけれど、もし今作のクライマックスが無かったらどういうストーリーの流れに見えるのだろうとか。そうすると実はこういう解決するとこの映画には一番いいんだとかもっと見えてきたりする。だったら少し撮影し直そうということもあった。そうするとまた良くなったりもする。1つの作品はとても長い準備をする。だから、その棋譜が見えきらないとそこで終わっちゃうんで、常に毎回やり直しがきかないという。だからやり直そうとすると全部ご破算にして別の作品でやらなきゃいけない。別の作品は別の棋譜になっていくから1つ1つの作品を自分で完全に納得して次の作品に行きたい。どうせ終わりにするんだから。その中でいうと『ヴァンパイア』はさほどやりようもなかった気もするし、試合でいうと割りと早く終わるタイプの試合だった。そしてうまく綺麗にまとまった気がする。『Love Letter』とか『リップヴァンウインクルの花嫁』は持ち込んできている最初の段階から盤目が多いし駒も多い状態。小さい盤ではなく大きな盤で試合する状態なんで、そうするとやるときの選択肢が無制限にあったりする。だから終わってみたときに当然に指し手のほうはどの打ち方をしても納得しないのかもしれない。いろんな可能性が残るけど全部の可能性をもし全部やったら8時間に及ぶ作品になったかもしれない。2、3時間にまとめるとしたら、どこかで不承不承まとめるしかない。ただ、大きな盤目でやっている醍醐味は当然ある。ヴォルテージも注ぎ込まれるカロリーも高くなってくる。そういう意味で、あっさりした作品にはやっぱりならない。
――こちらも映画では日常では見られない感情が高ぶる人物を見たいのはあります。内面的な感情でもいいのですが『その土曜日、7時58分』でフィリップ・シーモア・ホフマンが車の中で父親への抑えきれない感情を露わにするシーンのようなものです。『リップヴァンウインクルの花嫁』のはそういうシーンが幾つもあります。
岩井 そこをお客さんは求めているのかもしれない。突出して『Love Letter』だけが好かれているようなのもそうなのかなと。
監督・脚本:岩井俊二
エグゼクティブプロデューサー:杉田成道 プロデューサー:宮川朋之,水野昌,紀伊宗之
原作:岩井俊二『リップヴァンウィンクルの花嫁』(文藝春秋刊)
撮影:神戸千木 美術:部谷京子 スタイリスト:申谷弘美 メイク:外丸愛 音楽監督:桑原まこ
出演:黒木華,綾野剛,Cocco,原日出子,地曵豪,和田聰宏,金田明夫,毬谷友子,佐生有語,夏目ナナ,りりィ
制作プロダクション:ロックウェルアイズ 配給:東映 © RVWフィルムパートナーズ
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