インタビュー
ハンネス・ホルム監督/『幸せなひとりぼっち』

ハンネス・ホルム (監督)
映画『幸せなひとりぼっち』について【1/2】

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12月17日(土)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国順次公開

スウェーデンでベストセラーとなった小説を基に、愛する妻を亡くして自殺しようとしていた老人オーヴェが、お隣に越してきたパルヴァネ一家と交流する中で生きる意味を見出す姿を描く映画『幸せなひとりぼっち』。12月17日に日本公開を迎える本作は、スウェーデン国内で『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』を超えるヒットを飛ばした話題作だ。去る11月某日、本作のメガホンを取ったハンネス・ホルム監督に、撮影風景や演出面でのこだわり、そして大ヒットの要因について話を聞いた。 (取材・文:岸 豊)
ハンネス・ホルム 62年スウェーデン生まれ。俳優としてキャリアをスタートさせ、81年に『Inter Rail』でデビュー。その後、TVシリーズにも出演し、出演、監督、脚本をこなしたコメディシリーズ「S*M*A*S*H」(90)で成功を収める。『One In a Million』(95)で長編監督としてデビュー。その後、スウェーデン映画史上興行成績ナンバー1となった『Adam & Eve』(97) など、多くのコメディ作品の脚本と演出を手がけ、マルティナ・ハーグ原作のベストセラーを映画化した『青空の背後』(10)は、トロント国際映画祭などで上映され、日本でも14年のスウェーデン映画祭で上映された。本作は、16年のゴールデン・ビートル賞で6部門にノミネートされ、観客賞など3部門を受賞した。

作品紹介 オーヴェ59歳、ひとりぼっち
愛する妻の死をきっかけに、寂しさと悲しみにくれるオーヴェ。ある日、彼の日常は隣に引っ越してきたパルヴァネ一家により一変する。車のバック駐車、ハシゴのレンタル、病院への送迎、娘たちの子守…。ことある毎に彼は一家の出来事に巻き込まれ、ケンカの毎日。だが、それはいつしかかけがえのない友人となり、凍てついた彼の心をゆっくりと溶かしてゆく……。原作は250万部の大ベストセラー。不器用ながらも全力で人を愛す彼だからこそ迎えられた幸せな結末は多くの観客の胸を打ち、スウェーデンのアカデミー賞と言われるゴールデン・ビートル賞で主演男優賞(ロルフ・ラスゴード)と観客賞をダブル受賞した。

「普通の人生の中に魔法がある物語は、ブロックバスターよりも影響力を持つ」

ハンネス・ホルム監督1
――そもそも、本作はどのようにスタートしたのでしょう?

ホルム監督 もともと私は、自分が脚本を書いた作品をたくさん手掛けていましたが、今回はスウェーデンでベストセラーとなった小説の映画化作品です。映画会社は原作をコメディだと思い、私がスウェーデン国内でコメディの監督として知られているので、彼らはオファーしたのだと思うのですが、最初はやりたいと思いませんでした。
なぜなら、ベストセラー小説の映画を監督するなんて、ばかげたことですから。熱心なファンが多いですし、ベストセラーの映画化はたいてい嫌われてしまいます。そういうわけで、「やらない」と断りました。しかし、オファーを断った日の夜に原作を読んでみると、ただのコメディではなく、人生についての物語があり、魔法のようなタッチもあることに気付いたのです。そして、プロデューサーに電話をかけて「オファーを受けるよ。この作品を撮りたいんだ」と伝えました。ほかの人が描いた物語を監督するのは、初めてのことでしたね。

――コメディに傾倒してきたとのことですが、その魅力は?

ホルム監督 コメディは、物語を語ると同時に、自分のことをうまく隠すことができる性質を持っています。でも年を取って、アマチュア以上になってからは、色々なものを織り交ぜていきたいと考えるようになりました。『フォレスト・ガンプ/一期一会』(94)のように、コメディと悲劇が美しいバランスで混ざっているような映画を。

――では、コメディを作るときに気を付けている点を教えてください。

ホルム監督 バランスを取ることです。観客に何かを伝えるという意味においては、笑いの要素が強すぎると伝えたいことが伝わりません。本作で主人公のオーヴェを演じてもらったロルフ・ラスゴードは、もともと演劇出身でドラマを中心に出演してきたので、笑いの場面は自信がなかったようです。しかし、私には笑いの経験があるので、彼を補うことができました。逆に私はドラマティックなシーンに自信がなかったのですが、そういった場面ではロルフが私を助けてくれました。

『幸せなひとりぼっち』 『幸せなひとりぼっち』場面1
――バランスというお話がありましたが、世界的に評価が高い黒澤明監督の作品には、そういったバランス感覚が見られると思います。

ホルム監督 若い頃に黒澤明監督の作品を見ましたが、彼の作品では「笑いと重要なこと」が良く混ざり合っていますよね。『デルス・ウザーラ』(75)を見た時もそう感じました。そういう意味では、スカンジナビアの映画と日本の映画の感覚は似ているのかもしれません。

――ロルフへの演出で、最も成功を実感したのは?

ホルム監督 「怖がらなくていい」というアドバイスです(笑)。というのも、私は彼がどれほど怖がっているか気づいていなかったのです。彼とは(オーヴェが)子供たちにおとぎ話をする場面など、私自身がすごく普通だと思うシーンについてよく話していました。彼は「面白くしなければ」と思っていたのです。でも、私にとってはいたって普通のシーンだったので、彼には「落ち着いて、そのまま演じてくれ」と言いました(笑)。また、オーヴェが亡き妻ソーニャの服の匂いをかぐシーンは、セリフがなく、カメラと照明でどう表現したものかと思っていたのですが、ロルフは感動的に演じてくれました。あまり演出せずに、ただ任せることが良い時もありましたね。

――劇中ではあちこちに青色が用いられています。国旗も青を基調としているように、スウェーデンでは青色が国民の生活に根差しているように思えるのですが、本作における青の意味は何でしょうか?

ホルム監督 青色の意味合いについては、原作本に書かれています。実は、オーヴェというキャラクターが持つ、唯一の色が青色なのです。そして、ソーニャが彼の人生に多彩な色をもたらすという枠組みになっている。青色は空に加えて、死を意味する色でもあります。人は死について考えるときに、よく空を見上げますよね。そういう意味で、青色は確かに映画の中で重要な色になっています。

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幸せなひとりぼっち 2015年/スウェーデン/原題:EN MAN SOM HETER OVE /5.1ch/116分/シネスコ
監督・脚本:ハンネス・ホルム 出演:ロルフ・ラスゴード,イーダ・エングヴォル,バハー・パール
原作:フレドリック・バックマン 訳:坂本あおい(早川書房刊)
日本語字幕:柏野文映 後援:スウェーデン大使館 配給・宣伝:アンプラグド
© Tre Vänner Produktion AB. All rights reserved.

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12月17日(土)より新宿シネマカリテ、
ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国順次公開

2016/12/06/20:01 | トラックバック (0)
岸豊 ,インタビュー
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