映画祭情報&レポート
黒沢清監督&安藤紘平氏/『ダゲレオタイプの女』Q&A

第29回東京国際映画祭 Japan Now部門『ダゲレオタイプの女』黒沢清監督Q&Aレポート【4/4】

12月3日(土)より渋谷アップリンク、岡山シネマ・クレール、熊本Denkikan、鹿児島天文館シネマパラダイス、他全国公開中!

公式サイト 公式twitter 公式Facebook 映画祭公式サイト (取材:深谷直子)

『ダゲレオタイプの女』場面2 『ダゲレオタイプの女』場面4

観客 監督はこの映画に日本の風景や雰囲気を持ち込む気はなかったとおっしゃいましたが、個人的に、監督の映画の中にはすごく日本的な感覚を受けることが多かったんです。逆に海外のところでそういうことを意識したところはあるんでしょうか?

黒沢 これはなかなか答えるのが難しい質問なんですが、僕はほとんど日本で映画を撮っていますが、正直言いまして日本を描きたいと思ったことは一度もないのです。でも映画というものの宿命で、日本で、しかも東京で撮っている限り、昔の映画と違ってスタジオの中ではなく全部ロケで撮りますから、現代の日本、しかも東京が映ってくるんですね。これは仕方のないことで、「映したい」とか「映したくない」とかいう以前に、日本で撮れば日本、現代の東京で撮れば現代の東京と、絶対に何らかの関係を持ってしまう、映画というのはそういう表現だと思っています。ですから宿命のように現代の日本を切り取りながら映画を作っていました。それで、初めてフランスで映画を撮ったんですが、現代のパリと、パリの近郊の田舎で実際に撮影していますから現代のパリが映っているはずで、実際に映っています。これは不思議な体験でしたね。パリは何度も行っている街ではあるんですが、フランス語もよくわからないし、映っているそれが何なのか?というのもよくわからないんですね。現代のパリが映っているはずなんですが、それがどこにどのように表れているか、正直まったくわかりません。わかるはずもないんですね、そこで生活していないから。だからどこかに現代のパリが映っていることだけを信じて、あとは不思議なほど自由に、パリからも現代からも、もちろん東京からも切り離されたところで人間の感情を描いてしまったように思います。いつもだったら東京からこっちも影響されながら撮っているわけですけど、パリの影響が自分にどうあったのかさっぱりわかりません。多分そこが外国人の弱みでもあり強みなんでしょう。ほとんど無視してやりたい放題、まあ俳優もスタッフもみなフランス人でしたから、「僕があまりにフランス人から見ておかしいことをやりそうになったら言ってくれ」とだけは言っておりましたが、生まれて初めて国籍とか自分が住んでいる街、生活のようなものから切り離された、純粋な人間のドラマを作ってしまったような気がしています。

観客 都市における開発に対して、悪いと思っていてもジャンはそちら側についてしまうのですが、社会的な意味での都市の変化や開発に関してどう思われますか?

黒沢 これは実はフランスでなくても、東京で映画を撮るときもいつも同じような世界観と言いますか、物語の構造になるんですけど、それは都市があってそのまわりに郊外が広がって、その境目あたりに大体現実と非現実の境目もあるというか、怪しいものが住んでいるというものです。それはときには殺人鬼だったり、ときには幽霊だったり、いろいろなんですけど、何か都市には都市のシステムがあり、田舎には田舎のシステムがあり、その境目あたりがどうもどちらのシステムもうまく働かない、あるいはぶつかる、いちばん危うい均衡が働いていて、そのあたりでいろいろと怪しいドラマが起きやすいんじゃないか?というような想いがあります。ですから今回フランスで撮った物語でもそのような舞台設定にいたしました。で、犯罪映画にしたかったんですよ。これは僕の個人的な好みというか思い込みですね(笑)。フランスで映画を撮れるというとホラーとか何かをどけて、僕がフランス映画というとすぐにイメージするのが、多分1960年代なんでしょうね、若い男女が何かセコイ犯罪を犯して車で逃げて警官に追われて自滅するとか、そういう映画をヌーヴェル・ヴァーグに限らないと思うんですけどたくさん観ていて、「大体若い男女は犯罪をするんだよな。で、パリから逃げていくんだよな」という(笑)。何かそういう想いがフランスで撮るというときに作用して、主人公のジャンをそういう小さな犯罪に加担させたい、小さな野望を持って将来をなんとか切り開こうとして失敗する、僕がいっぱい観たフランス映画の若い主人公に似せたかったというのがありました。

安藤 時間が来てしまったようなので、これで終了したいと思います。黒沢監督、本当に素敵な映画をありがとうございました。

(2016年10月27日 TOHOシネマズ六本木ヒルズで 取材:深谷直子)

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ダゲレオタイプの女 2016年/フランス=ベルギー=日本/131分/PG12
監督・脚本:黒沢清
プロデューサー: 吉武美知子、ジェローム・ドプフェール
撮影:アレクシ・カビルシン 音楽:グレゴワール・エッツェル
主演:タハール・ラヒム、コンスタンス・ルソー、オリビエ・グルメ、マチュー・アマルリック
配給:ビターズ・エンド © FILM-IN-EVOLUTION - LES PRODUCTIONS BALTHAZAR - FRAKAS PRODUCTIONS - LFDLPA Japan Film Partners - ARTE France Cinéma
公式サイト 公式twitter 公式Facebook 映画祭公式サイト

12月3日(土)より渋谷アップリンク、岡山シネマ・クレール、
熊本Denkikan、鹿児島天文館シネマパラダイス、他全国公開中!

2016/12/04/18:44 | トラックバック (0)
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