第29回東京国際映画祭 Japan Now部門
『ダゲレオタイプの女』黒沢清監督Q&Aレポート【2/4】
12月3日(土)より渋谷アップリンク、岡山シネマ・クレール、熊本Denkikan、鹿児島天文館シネマパラダイス、他全国公開中!
公式サイト 公式twitter 公式Facebook 映画祭公式サイト (取材:深谷直子)
安藤 また、大変ユニークだと思ったのは、想いが実体化してまるで幽霊のように出てきたマリーが、車に乗っている間に自立した女性になっていく。つまり『惑星ソラリス』のように想いがそのまま実体化して、それが自立してひとつの個体となって「自分は死んでいるはずなのに、どうしてこんなふうに彼と生きていられるんだろう?」というような、マジカル・リアリズム的なところに行っているのが非常にユニークで。こういう映画は観たことがなかったです。
黒沢 そのご指摘は本当に嬉しいというか、驚きというか。まさにこの映画を言い当てているように思われてなりません。というのは、全然意識はしていませんでしたが、『惑星ソラリス』は映画(72年/アンドレイ・タルコフスキー監督)も好きですし、スタニスラフ・レムの原作も何度も読んでいて、大好きな物語なんですね。今安藤さんがおっしゃったように、非現実なものが人の想いで実体化していく。一度実体化したら独立して、「私って、実体化しちゃったけど、どうすりゃいいんだろう?」と戸惑いながらがんばって生きていこうとする。最初は幻だったかもしれないものと生きている人間とが、本当に普通の人間関係のドラマを結んでいくという、大好きなSFの物語です。『ダゲレオタイプの女』でもマリーは途中で死んで幽霊になるわけですけど、幽霊になったからと言って、生きている者から見たら単に怖がる対象なのではなくて、死んでしまったけれども「人間」なわけですね。だからまあ、生きている人間が想像するのはなかなか難しいんですけれど、「死んでしまったらどんな感情を持つんだろう? 死んでしまったけれども、この世にとどまっていたとしたら、好きな相手が目の前にいたとしたら、どんなふうに戸惑いながらも現実世界で存在していこうとするだろうか?」と、一生懸命頭の中でイメージしながらマリーというキャラクターを作っていきました。それが僕の考える幽霊というものの存在のしかたなのかと思ってこういう作りにしてあります。
安藤 マリーが死んだあとに、ジャンが家に帰ってきたら「ありあわせのものだけど」っていって料理を作っている。あんな幽霊はいないですよね(笑)。
黒沢 でもいるかもしれないですよね。映画で初めて描かれた幽霊の実態じゃないかなと(笑)。
安藤 それがとても、「マジカル・リアリズム」というカテゴリーに嵌めちゃまずいかもしれないけど、そういう感じを受けますよね。
黒沢 「マジカル・リアリズム」というカテゴリーにはあんまり詳しくなかったんですけど、お話を聞いているとまさにそういうジャンルの作品だと胸を張って言えると思います。ただ、僕に言わせると、ホラーっていうのはここまで幅広くいろんな可能性を秘めているんだというふうに、ホラーのほうの弁護もしておきたいと思います(笑)。
監督・脚本:黒沢清
プロデューサー: 吉武美知子、ジェローム・ドプフェール
撮影:アレクシ・カビルシン 音楽:グレゴワール・エッツェル
主演:タハール・ラヒム、コンスタンス・ルソー、オリビエ・グルメ、マチュー・アマルリック
配給:ビターズ・エンド © FILM-IN-EVOLUTION - LES PRODUCTIONS BALTHAZAR - FRAKAS PRODUCTIONS - LFDLPA Japan Film Partners - ARTE France Cinéma
公式サイト 公式twitter 公式Facebook 映画祭公式サイト