第29回東京国際映画祭 Japan Now部門『ダゲレオタイプの女』黒沢清監督Q&Aレポート【3/4】
12月3日(土)より渋谷アップリンク、岡山シネマ・クレール、熊本Denkikan、鹿児島天文館シネマパラダイス、他全国公開中!
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安藤 観客の方に質問をいただきたいと思います。
観客 本当に美しい旅のような映画でした。実は今日は死にそうな親を救急病棟に置いて観に来たんですけど、観に来てよかったなと思います。というのは、おばあさんがポートレートを撮ってもらうシーンでの台詞が、今日の意識があるのかどうかわからない母に伝えたい台詞だったんですね。どんな女優さんで、どんなキャラクターなのか知りたいとか、いろんなことを考えているうちに涙が止まったんですが。この映画館にいる我々も全員死ぬんですけど、みんながみんな幽霊になるわけじゃない。でもその中で、たとえ自分が生きていようと死んでいようと、今日の映画のあのシーンというのは本当に忘れがたいもので感動しました。あのおばあさんについて教えてください。
黒沢 ありがとうございます。この映画のほうもあなたと出会えて喜んでいると思います。あの女優さんは無名な方ですが、とても重要な役なので、何人かオーディションをしていちばんふさわしいと思われる方にお願いいたしました。実はあのシーンは脚本を書いているいちばん最後に付け足したシーンだったんですね。彼女は「死は幻です」って言うのですけど、その台詞をふと思い付き、僕がどうしても入れたくなった。若い人にはわからないかもしれないけれども、死が間近に迫った者には「死は幻なんですよ」と。これを誰かに言わせたかったんですね。ただなかなか、誰にどのタイミングで言わせていいかわからなくて、シナリオになかなか入れることができなかったんですが、最後の最後に「ああ、そうか、ここでこういう老婆が出てきて写真家である父親のステファンに『写真を撮ってくれ』と言えば、その撮影中にこの台詞が言えるな」と思い付いてあそこに入れたといういきさつがあります。なんでそんな台詞を入れたくなったのかというのにはいろいろあって、まああんまり自分でも分析的には考えられないんですが、ひとつ言えるのは僕が年をとったからだろうなあという気がします。自分の死が近いとかいうようなカッコイイことではないんですが、やっぱり年をとってくると死んだ知り合いがたくさん増えてくるんですね。肉親もそうですし、友人、先輩、まあ当たり前のことですが「あの人も死んでしまった、この人も死んでしまった」と、年をとればとるほど死んだ知り合いが多くなる。で、現実の世界にはいないんですが、「あの人だったらどう思うかな? この映画をあの人に見せたら何と思うだろう?」とか、結構考えるんですよ、その人はもう死んでしまっているのに。だから何か、その人と僕の間には、「死」って境目とは思えない、何か幻のようなものだなあという実感が何となくあったからこの台詞を入れてしまいました。そうやって僕が最後にちょろっと付け加えたそのシーンをちゃんと見ていただいて指摘していただいたのは本当に嬉しいです。ありがとうございました。
監督・脚本:黒沢清
プロデューサー: 吉武美知子、ジェローム・ドプフェール
撮影:アレクシ・カビルシン 音楽:グレゴワール・エッツェル
主演:タハール・ラヒム、コンスタンス・ルソー、オリビエ・グルメ、マチュー・アマルリック
配給:ビターズ・エンド © FILM-IN-EVOLUTION - LES PRODUCTIONS BALTHAZAR - FRAKAS PRODUCTIONS - LFDLPA Japan Film Partners - ARTE France Cinéma
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