映画『さよならも出来ない』トークイベントレポート【1/2】
松野泉監督 × 遠藤ミチロウ(ミュージシャン・映画監督)
2017年10月7日(土)~10月13日(金)、兵庫・元町映画館にて公開
京都を拠点に活動する松野泉監督が、講師を務める「シネマカレッジ京都」の俳優ワークショップ修了作品として制作した最新作『さよならも出来ない』が、9月9日~15日、新宿ケイズシネマにて上映された。さらに公開記念として松野監督が録音、音楽、出演などで携わった作品の特集上映「音も、映画も、さよなら出来ない。~松野泉の仕事~」も同時開催。それぞれでトークイベントも行われ、多彩なゲストにより映画スタッフとしても多くの作品に貢献してきた松野監督の魅力が紹介された。9月12日にはミュージシャンの遠藤ミチロウ氏が登壇して独特な感性で本作を語り、また松野監督がスタッフとして関わった遠藤氏の監督作『お母さん、いい加減あなたの顔は忘れてしまいました』制作上でのおふたりの信頼関係などが明かされていった。 (取材:深谷直子)
松野泉監督松野監督と遠藤氏との関係は、2011年に撮影され、2016年に公開された遠藤氏監督・主演のドキュメンタリー『お母さん、いい加減あなたの顔は忘れてしまいました』(15)で松野監督が録音と編集を担当したことに始まるものだそう。「そういうご縁があって、遠藤さんには全然関係ない映画ではあるんですが、観ていただきたいなと思って来ていただきました。まずは聞くのはちょっと怖いところもあるんですが、感想などうかがえたら」と遠慮がちに尋ねた松野監督だったが、遠藤氏は別れたのに同棲を続ける若い男女の恋愛模様を描く『さよならも出来ない』をとても楽しんだ様子。
「これ同棲している話じゃないですか。しかも普通は同棲していてそのまま結婚しちゃうとか、まあそのまま終わっちゃうかもしれないんですが、これは恋愛関係が終わったところから映画が始まって、そして最後にこういう感じになるというのが、なんか逆回しを見ているような感じがしたんですよね。僕も同棲って長いことやっていたんで同棲の感覚は自分なりにすごいあるんですけど、『なんでこういうことするのかな?』って微妙にもどかしい感じがずーっと付きまとっていて、最後にフッと納得するみたいな感じがありました」と感心したように話す遠藤氏に、松野監督は「ありがとうございます。終わりから始まりに戻るという意見は初めてもらって、僕は全然意識していなかったんですけど、確かにそういうことなのかもしれないなとちょっと思って。実はこの作品は俳優のワークショップで作った作品なんですが、俳優たちの恋愛体験談を聞いていく中で『今の彼氏と前の彼氏と3人で同棲している』という話を聞いて、そういうことがあるんだなと。もうひとつ僕の中にも男女関係のマンネリについて『もうマンネリしちゃったらそれ以上はないな』というあきらめみたいなのと『でもそういうのを打開することはできないか?』みたいな思いもちょっとあって、ちょうどそういう話を聞いたので、ひとつの物語にしてみようかなというので企画が始まりました」と、不思議な物語が生まれた経緯を説明した。
別れたのに同棲を続ける主人公たちは、家の中で様々なルールを決め、几帳面にそれを守って暮らす。そんな奇妙な設定についても遠藤氏は独特な感性を光らせ、「恋愛という関係の中ではルールもクソもなかったのが、人間関係が作られていくときにだんだん距離感を感じる暗黙のルールみたいなのができていくのかな?とすごく感じて。いちばん最初に、片足は裸足で片足は靴下を履いていて、裸足のほうの足が床に着いたときに『ヌチャッ』という音がするじゃないですか。それがすごくおかしかったというか、すごくルールを象徴しているような気がしたんですよね。『こっちが男でこっちが女なのかな?』みたいな感じがしたんですけど」と語ると、松井監督はまたその意外な感想に顔をほころばせつつ、「別にすごい演出してやったんじゃないんですけど、『用意スタート!』って言って彼が出てきたら半分靴下が脱げていたんですね。ああ、面白いなと僕が思って(笑)」と明かした。
遠藤ミチロウ氏遠藤氏が『ヌチャッ』という音に着目したのは、自分の監督作で松野監督に録音を担当してもらい、また松野監督もミュージシャンであるため、音のことを気にしながら映画を観ていたからとのこと。他にも「部屋の遠くで『ボーッ、ボーッ』と鳴るじゃないですか。あれは何なんだ?とかね」と言うと、松野監督は、そこもそんなに意識はしていなかったと言いつつも、「実は撮影していた場所が京都の山科というヤンチャな人が多く住む地域だったんですね。僕らはマンションの2階で撮影していたんですけど、1階がすごく子供を怒鳴りまくるヤンキーな親が住んでいる家で、上の階は1日中子供が走り回っている放任主義の家で。だからあれは子供が走り回っている音なんですけど、準備や撮影でそこに入るといつもその音がしていて、『そんなに子供って1日中走り回っているものかな?』みたいな、なんか不気味な感じもあって。それが逆に面白いなと思ったし、ふたりの関係性の不和みたいなものも象徴したような感じもして。実際の撮影でもああいう音がしていたときもあるんですけど、逆に鳴っていないときでもちょっと足してみたりして、自分の中でも象徴的な音ではあったんです」と認めた。
遠藤氏は出演俳優についても鋭い指摘を。「叔母さんが出てくるじゃないですか? あの叔母さんだけがなんか感じが他の人と違うんですよね。なんか臭うっていうか、変にリアルな存在感があって。普通はどっちかと言ったら主役だとかの人がそういうタイプになると思うんですけど、それがなんか奇妙な感じがしましたよね」と言うと、松野監督は「これは俳優のワークショップで始めた映画で、あまりお芝居をする感じにはしないで、その人自身の魅力が映るものにしたいなと思っていたんです。あの叔母さん役と、その相方の叔父さん役だけはわりと演技の経験がある方で、他の方はほとんど映画とかは出たことがないというような方で。そういう人たちはワークショップの僕のやり方にわりと柔軟に対応できるんですけど、もともと素養のある人は逆にそういうやり方を求めるとなかなか難しくて、でもそれで無理やりお芝居を抑えてもらうというのもその人の魅力がまた失われる部分もあるかなと思ったので、そのふたりに関しては物語上も田舎から来たことにして、しかも方言で喋ってもらうことにして、違和感が何とかなじめばいいなということだったんです」と答えた。遠藤氏は俳優たちがプロではないということをそこで初めて知って驚いた顔を見せながらも、「そうか、それも靴下を脱いだ『ヌチャッ』というのの流れに感じたんですよね。『ヌチャッ』という感じじゃないですか、あの叔母さん(笑)」と言い、観る人それぞれでいろんな想像を働かせて楽しめる映画の面白さをあらためて教えてもらえた気がした。
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シネマカレッジ京都 俳優コース制作実践クラス14-2 修了作品
出演:野里佳忍、土手理恵子、上野伸弥、日永貴子、長尾寿充、龍見良葉
余部雅子、柳本展明、上西愛理、今井理惠、宮前咲子、篠原松志、田辺泰信、堀田直蔵、辻凪子
監督・編集:松野泉
撮影・編集:宮本杜朗 美術:塩川節子 録音:斎藤愛子 制作:鶴岡由貴 録音・助監督:斗内秀和
メイク:森島恵 音楽:光永惟行 WEB制作:境隆太 デザイン:中西晶子 プロデューサー:田中誠一
制作・配給:シマフィルム株式会社
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