大石 規湖 (監督)
映画『JUST ANOTHER』について【2/5】
2020年10月24日(土)より新宿K’s cinemaにてロードショー、以降全国順次公開!
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――撮影期間は2018年の今池まつり(名古屋市のお祭り)から翌年の今池まつりまでの丸1年で、the原爆オナニーズの方からの提案だったとのことですね。
大石 はい。TAYLOWさんに相談したら、TAYLOWさんはとても客観的な見方をする方なので「38年続いているバンドのヒストリーをさらって映画にするのは大石監督じゃなく他の人がやってくれるだろうから、大石監督の視点で1年を切り取るというのがいいんじゃない?」と言ってくれたんですよ。「だったら今池まつりから今池まつりまででちょうどいいですよね?」と。それで私の方でも“この期間にしかないthe原爆オナニーズの今”みたいにテーマを絞ることができました。「the原爆オナニーズのすべてを見せたい」とか言われていたら、私にはなかなか掘り下げられない時代も多いし、多分難しかったと思うんですけど、そこでいいよとTAYLOWさんが言ってくれたから絞りやすくなりました。
――とはいえ難しそうですよね。メンバー自身が「自分たちは面白みがないバンドだから」と言うくらいで特に大きなトピックもないですし、大石監督が求めるテーマに当てはまるのかもわからない。
大石 1作目の『MOTHER FUCKER』では毎日ハプニングがありすぎて全然思い通りではない完成形になったんですけど、今回もテーマに沿ったものには全然できないなあと。今回は今回で何も起こらない人たちだし、「バンドとかやりたいことを続けていくための方法を教えてくれる人たち」という感じで撮っていけるのかな?と始めたんですけど、なんで続いているのか?というのを言葉で直接教えてくれないし。やっぱりこれがドキュメンタリーだから仕方ないんだなあと途中で思って、困りながら撮っていましたね。
――でもそんなに起伏のない1年間を追うことで、普通の日常に刺激を見出しながら過ごしていくことの大切さが描かれることになって。コロナで日常のかけがえのなさに気づいた今となって観ると、なんでもない毎日を何十年も重ねてきたことがますます貴重に思えますね。
大石 確かに、例えばユーチューバーの方は毎日何かしらの面白おかしいトピックをあげたりしますけど、そういうことって普通に暮らしていたらあることじゃなくて、3年、4年続けていったらたまたまこの日花が咲いたみたいな、リアルな人の生活ってそういうものなんですよね。そういう意味では彼らも自分たちにしか変化のわからないような練習をすごく疲れた中で毎日毎日やっていて、これが何年かに一度、目指す演奏ができた!という日につながるんだな……というのを撮影して感じたりしましたね。
――ただ、1年間と言っても密着していたわけではないんですよね?
大石 そうなんですよ。本当は家に行ったり、ライブの前日スタジオに行ってその次の日まで密着したりできたらいいなと思っていたんですけど、彼らにはプライベートとバンドは別物という意思があって。バンドの姿勢としても、バンドを続ける方法を探っていった上で私生活を分けているのを感じたので、ベタ付きで撮るのはやめて、月に2、3回新幹線で行って撮影していました。だからたまに行くという感じになってしまって、せっかくいろいろお話をしてもらえそうな感じになったのに、次に会うときは「あ、久しぶり~」みたいにリセットされてしまうことが最初のうちは結構あって、崩していくのは難しかったです。
――ライブのあるときとか、インタビューしようというときに都合を訊いてスケジュールを組むというような感じだったんですか?
大石 そうです。みなさん家族のイベントというのもあるので、仕事がない日はOKというわけでもないんですよね。「2ヶ月後のこのぐらいにインタビューを撮りたいんですけど」と都合を訊いて、「ここらへんは仕事が忙しい」とか「この日は家族の誕生日だから」とか、「何時まではOKだけど夕飯は家族と一緒に食べるから帰ります」とかいうこともあったりして。それぞれが大事にしているものを尊重しながら、その中で撮影していった感じです。
――インタビューを受けるメンバーは話し振りもとても穏やかで、パンクバンドの人という感じには見えませんよね。SHINOBUさんだけタトゥーが入っていてバンドマンの風貌ですが。
大石 バリバリ入っていますけど、他の3人は普通で。JOHNNYさんはバンドのオシャレ番長なので毎回フレッドペリーとか着ているんですけど、まあ見た目普通のおじさんで、会社で働ける格好でバンドをやっているのもthe原爆オナニーズらしいなと。
――みんな冷静でマイペースだけど、音楽愛の深さはやっぱりビシビシ感じます。話の内容や、レコード屋で新しい音源をゲットしたときの嬉しそうな表情などからも。
大石 東京にライブで来ると、次の日は必ずレコ屋に行って新しい音源を買って帰るとか、若いころの話を聞いても音楽に対する情熱や新しい音楽を聴きたいという熱量がずっと変わらないなと。JOHNNYさんは家に帰ったら毎日パッドで練習しているそうです。練習しているところは撮れなかったんですけど、一緒にいるだけで感じるんですよね。生活の中の隙間隙間でバンドの時間を取って、好きなことをやり続けている感じが見えて。私が60歳になったときにこの熱量でいられるかな?と考えました。
――他のバンドのライブを見るのもすごく熱心で。TAYLOWさんがeastern youthのライブをステージ袖から見ている映像がいいんですよね。
大石 あれは完全なファンじゃないですか。あんなに跳ねながら見て。他のライブでも客席ですごいステップ踏みながら見ていることが多いです。TAYLOWさんは基本的には冷静な態度で客観的な意見を言う人なんですが、夢中なときは本能のままに動いていて、そのバランス感も面白いなと思いながら一緒にいましたね。
出演: the 原爆オナニーズ < TAYLOW、EDDIE、JOHNNY、SHINOBU >
JOJO 広重、 DJ ISHIKAWA、森田裕、黒崎栄介、リンコ 他
ライブ出演: eastern youth、 GAUZE、 GASOLINE、 Killerpass、 THE GUAYS、横山健
企画・制作・撮影・編集・監督:大石規湖 スチール:菊池茂夫
配給: SPACE SHOWER FILMS © 2020 SPACE SHOWER FILMS
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