インタビュー
「美が私たちの決断をいっそう強めたのだろう/足立正生」

フィリップ・グランドリュー (映像作家)
足立 正生 (映画監督)
映画「美が私たちの決断をいっそう
強めたのだろう/足立正生」について

公式

2012年12月1日(土)より、渋谷アップリンクほか全国順次公開

特異な前衛政治作家を被写体とするドキュメンタリー・シリーズ『美が私たちの決断をいっそう強めたのだろう』の第1弾として、フランス人映像作家フィリップ・グランドリューが取り上げたのは、今年逝去した若松孝二らとともに「性と革命」を主題とする映画をつくり続けてきた足立正生である。作家・AVライターの東良美季が、フィリップ・グランドリューと足立正生におこなったロングインタビューの成果を、ここに掲載する。(取材/文:東良美季)

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 つまり、小さな奇跡を生まれたということですね? と僕は問いかけてみた。
 たとえば冒頭のシーン。美しい冬の夕暮れ。ブランコに乗る幼い少女がいて、その背中を押す足立氏の姿があり、彼もまたブランコに乗って揺れる。それは人も光も風景も、すべてが一体となって溶け合っているように見えます。そして突然、何処からともなく日本のオーソドックスな、そして懐かしい童謡の「夕やけ小やけ」が聞こえて来る──。
「まさにそうだと思います。あの日、撮影を始めながらも、私には何をどうすればいいのか自分の進むべき方向が見定まりませんでした。何をやっても上手くいかず、ココと思った場所では雑音が多く撮影が出来なかったりしました。そのようにして何となくあの公園に近づいていったのです。すると、だんだんと夕暮れが来て光が乏しくなって来た。その時は私不意に、自分が自分の作っている映画の中に入り込むことが出来たと感じたのです。私はごく自然にカメラのフォーカスをぼかし、絞りも一段広げていました。沈みゆく太陽が眩しいようにわざと逆光にもしました。そしてあの音楽が聞こえて来たのです。もちろんその時、私はそれが童謡であるとも何とも知りませんでした。しかし私には奇跡のように思えました。あのシーンにあった光の乏しさ暗さ、そして沈みゆく夕陽の若干の眩しさからきている全体のメランコリーが、まさにあの音楽と対応していたからです」
 つまり眼の前にあるものが突然出来た、自然に命を持って生まれたわけですね?
「ええ、そうです。そして私もまた、その生まれて来たものの中に含まれていたわけです」
 それに関して足立氏はこう語る。
「結局のところさっきから言っているように僕も彼も、知らないものやわけのわからないものを目指している。そういう時、まさにこの映画にも出てくるけれど、親しい友人、家族、あるいはその『夕やけ小やけ』に代表されるような原風景ですね、そういったものがつきまとってくる。しかしそういったものから自由になるということもまた大切なわけです。僕も彼も、家族も友人もそしてあなたも、違った人間なんだと。だからどうしても、誰もがストレンジャーになってしまうわけだね(笑)。しかし私も映画監督だから言うけれど、映画というのはそういった知性とか感性とか存在論といったものを、すべて総体として表現出来るものなんです。『美が私たちの決断をいっそう強めたのだろう/足立正生』場面4彼が言ったように、ある日ポンと眼の前に出来上がって来る。つまりお互い違うものなんだ、別個の命なんだということを意識しながら模索していくと、ある時出会えるものなんですね。今回も時間はなかったし制作条件も貧しかったけれど、やってみたら出会えたじゃないかと。僕はフィリップにそう言われたような気がして、これはとても説得力があった。だって実際に出会えたわけだからね」

 冒頭にも少し書いたが、足立正生という人は我々の世代にとって謎の存在だった。しかしそれは足立氏本人だけには限らない。
 最後に極めて個人的なことを記すのをお許し頂きたい。僕の父親は戸浦六宏という芸名を持つ役者であった。大島渚監督1968年の作品『絞死刑』では医務官を演じ、保安課長役の足立正生氏と共演している。また足立監督の代表作のひとつと言っていいだろう、『赤軍-PFLP・世界戦争宣言』(1971年)ではナレーションを務めた。父は20年前に死に、未だ断絶も謎も残っている。しかしそれは個人的なものではあるが決して固有のものではないはずだ。多くの父と子が、そしてある世代とある世代は、少なからず断絶と謎を抱えて生きている。フィリップ・グランドリュー監督は偶然だが、僕の兄と同い年である。彼もまたパリ五月革命を闘った世代、さらにその上の世代に対して謎を抱いているかもしれない。
 かつて政治の季節があり革命の嵐があり、闘争の日々があった。そして現代の東京は『ブレイドランナー』に描かれた、そしてアンドレイ・タルコフスキーが『惑星ソラリス』で垣間見たような、冷たい近未来になっているのかもしれない。
 しかし映画はその壁を一瞬にして越える。我々は映画を通して父の世代、叔父の世代、革命の世代と一体になれるのだ。その意味で『美が私たちの決断をいっそう強めたのだろう/足立正生』は、フィリップ・グランドリューと足立正生が時間と空間を越えて手を握り合った、友情の映画なのだ。

 最後にグランドリュー氏はこのように語った。
「メルシー、そう言って頂けてとても嬉しいです。もしも映画に力があるとするならば、それこそが映画の力なのではないでしょうか。我々は一瞬にして何かを捉えることが出来る。すなわちそれは、現実や知性が分配してくれる意味を越えたところにある何かが、私たちを捉えてくれるということです。つまり世界の現実は、いわゆる意味を越えたところにあるのです。そうそう、今ひとつのエピソードを思い出しました。ある日ピカソが絵を描いていると、通りかかった人が覗き込んでこう問うたといいます。『いったい何を描いているのですか、それに何の意味があるのですか、私にはさっぱり判らない』。それに対してピカソはこう答えたそうです。『それでは逆にお訊きしますが、ひなげしの花の咲く野原には、いったい何の意味があるのですか?』と」

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( 取材/文:東良美季 編集:佐野 亨 )

美が私たちの決断をいっそう強めたのだろう/足立正生
シリーズ企画:ニコル・ブルネーズ、フィリップ・グランドリュー
監督・撮影・編集・音響:フィリップ・グランドリュー
助監督・通訳:シャルル・ラムロ 音楽:フェルディナンド・グランドリュー/プロデューサー:アニック・ルモニエ(Epileptic)
出演:足立正生、小野沢稔彦
2011年/フランス/カラー/モノクロ/74分/HD/ステレオ © EPILEPTIC
http://www.uplink.co.jp/bigawatashitachi/

2012年12月1日(土)より、渋谷アップリンクほか全国順次公開

2012/11/28/16:45 | BBS | トラックバック (0)
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