インタビュー

木村 文洋 (映画監督)
映画『愛のゆくえ(仮)』について

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2012年12月1日(土)より、ポレポレ東中野にて上映中
大阪、名古屋、京都にて公開決定

前川麻子の同名戯曲をもとに、木村文洋監督が完成させた『愛のゆくえ(仮)』は、元オウム真理教の平田信と彼を隠匿した女をモデルにしながら、私たちに奇妙な「親密さ」を抱かせる映画だ。木村監督にとっては前作『へばの』(08)から約4年ぶりの新作。筆者が監督の話をおうかがいするのも『へばの』公開時以来となる。この間、木村監督はどんなことを思ってきたのか? また本作にこめられたメッセージとは?(取材/文:佐野 亨)

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偶然の発見

『愛のゆくえ(仮)』場面1――こういうミニマムなつくりの映画だと、当然、部屋のなかだけでドラマの集中力を高めてゆく方法もあったと思うんです。それをあえてあのような制御不能な外の画を入れてゆくというのは、なかなか勇気がいることだと思うのですが……。

木村 そうかもしれませんね。でもなにより彼にとって、外へ出てゆくというのは、すごく怖い行動だったと思うんですよ。もう戻ってこれないかもしれないわけですから。一人で、か細くても――長く拠って立っていた時間を、街の人々とか社会とか、大きな時間の忘却といったものにあっという間に呑み込まれてしまうのではないか、という恐怖ですね。『へばの』の頃からそういったことへの恐怖は抱いているんですが、まあ、怖いことでもそういう画を撮ろうとすることは、必要だと思っているんでしょうね。ただ、最後の新宿あたり――男が嘔吐してしまう下りなどは、演出ではなくて寺十さんが自ら即興で演じたんです。僕はあのときはクルーとはぐれてしまって、本当に文字通り俳優とカメラマンが制御不能なまま、延々3時間ほど撮影をおこなっていました(笑)。

――あっ、そうなんですか。

木村 朝の通勤ラッシュ時だったので。乗り込む直前まではそばにいましたが、電車が到着するともみくちゃにされてしまい、カメラマンと音声だけは寺十さんと一緒の車両に入れたんですけれど、僕ははじかれてうしろのほうの車両に乗っていたんです。

――室内の緊迫感のある芝居に比べると、あの外のシーンは当然すごく不安定ですし、ほとんど投げやりと言ってもいい(笑)。

木村 いったん違う車両に乗ってしまったら、新宿へ到着してからもぜんぜん姿が見えず、完全にはぐれてしまったんです。あのあと新宿の街なかで3時間くらい撮影をしていたんですけれど、その間も僕は立ち会っていなくて、新宿(警察)署の前でようやく合流したんです。

――コースを決めていたんですか?

木村 寺十さんにお金を渡して、新宿で電車を降りてもらい、途中でなにかメシを食ってから、最終的に新宿署へ行くという、おおまかな流れだけは決めていました。でも、新宿に着いてから警察署へ行くまでの行動はすべて寺十さんの即興です。

――そこで3時間ねばったという(笑)。

木村 そういうことですね(笑)。

――思い切ったことをされますね。一歩間違えば、作品そのものが破綻しかねない。

木村 いや、本当に。

――前半はそれに比べると非常に統制されている印象を受けたのですが、役者さんのアドリブなどはあったのですか?

木村 脚本は2ヶ月くらい共作期間がありました。細かな言葉づかいなど結構時間をかけて詰めていったんです。出来上がったのがまあ、あれだけの会話量のシナリオで。でも、あらためて驚いたのは、お二人とも現場では完全にセリフが頭に入っているんですよ。アドリブはほとんどありませんでした。

――それだけだと非常によくできた舞台劇で終わってしまうところですが、カメラのポジショニングなどもとても計算されていて巧いですね。前川さんが服を脱いで洗濯機に入れてゆくところで、奥の鏡に寺十さんの顔が映り込むでしょう。あそこなんか絶妙な位置を計算されているなと思いました。

木村 あれは偶然に現場で発見しました(笑)。あのシーンは、女が洗濯をするために服を脱いで裸になると、男が彼女の背中にすっと手を当てるまでが1シーンで、カットもコンテでは割っていました。背中を撮るか、手を撮るか、を考えて。ところがどうもそれが上手くいかない。それで最初に女の顔を押さえる位置にカメラを置くところから始めて、僕はモニタを持ってトイレに隠れ、芝居の一連をリハーサルでやりました。すると寺十さんが前川さんの背後を何度か横切るあたりから、部屋の空気が一気に張り詰めたような感じになっていった。本来はカットをかけるべきところで声が出なくなり、そのまま次のシーンまで観たくなっちゃったんですね。演者にしたら「段取りにない」ということで芝居を止めることもできたんでしょうけれど、それでも全権はこちらに預けてくださっているので、芝居が続いていく。そうしたら、あの部屋の奥で姿が見えない男と、女の小さな背中との会話が映って……ああなんかこれ観たことあるなあ、と思ったんです。子どもの頃、夜中に廊下で切羽詰まった両親の会話を聴いたよな、と。僕が子どもの頃といえば両親は40代なんですけれど、この2人はあの時期の両親の年齢と違わないんだな、とかそういったことを思ったりした。それでカメラマンと、あそこは1カットでいくと方針を決めたんです。

――なるほど、あそこは偶然でしたか。でもそれが映画の撮影の面白さですね。

木村 朝イチから撮影していて、疲労もたまっていて、あのシーンは深夜になっていて…ちょっと怖い時間でした。「あそこは男を鏡に映さないほうがよかったんじゃないか」という意見もあるんですけどね。

――僕はあそこでほぼ途切れずに2人の表情が見えるのがよいと思いましたけどね。しかし屋外での撮影シーンといい、室内シーンといい、カメラマンの裁量や現場の雰囲気で決めていったことも多かったのですか?

木村 後半は特にそういう要素が強くなってきたかもしれません。

――順撮りですか?

木村 室内の会話はほとんど順撮りです。新宿の街なかのシーンだけは、2日目の朝に撮影しました。

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愛のゆくえ(仮) 2012年/日本/カラー/HDV/16:9/86分
監督:木村文洋 出演:前川麻子/寺十吾
プロデューサー:高橋和博 脚本:前川麻子/木村文洋 撮影:高橋和博 録音:丹下音響 助監督:遠藤晶 編集:上田茂
音楽制作:太陽肛門工房/丹下音響 宣伝美術:竹内幸生 宣伝協力:加瀬修一 製作・配給:team judas2012
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2012年12月1日(土)より、ポレポレ東中野にて上映中
大阪、名古屋、京都にて公開決定

2012/12/20/22:46 | BBS | トラックバック (0)
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