木村 文洋 (映画監督)
映画『愛のゆくえ(仮)』について
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2012年12月1日(土)より、ポレポレ東中野にて上映中
大阪、名古屋、京都にて公開決定
前川麻子の同名戯曲をもとに、木村文洋監督が完成させた『愛のゆくえ(仮)』は、元オウム真理教の平田信と彼を隠匿した女をモデルにしながら、私たちに奇妙な「親密さ」を抱かせる映画だ。木村監督にとっては前作『へばの』(08)から約4年ぶりの新作。筆者が監督の話をおうかがいするのも『へばの』公開時以来となる。この間、木村監督はどんなことを思ってきたのか? また本作にこめられたメッセージとは?(取材/文:佐野 亨)
カレーライス、本棚、歌謡曲
――前半でのカレーライスをめぐる一連のやりとりは面白いですね。あそこは舞台版ではどういう感じなんですか?
木村 舞台版ではカレー自体出てこないんですよ。
――ああ、そうですか。あそこは長年連れ添った男女ならではの安心感と、一方でギリギリの破綻を抱えている緊張感が同居していて、惹きつけられますね。
木村 楽しすぎるんじゃないか、というくらい一種しあわせに見える時間なんですよね。前川さんのシナリオでは特に大事にされていた部分だし、やっぱりそこは残しておきたかった。
――あそこだけ見ると、遠藤賢司の歌に出てきそうなカップルですね(笑)。モデルになった2人のエピソードはどの程度参考にされているんですか?
木村 モデルになった女性は整体の仕事をしていて、そこで支給された食事代で毎日2人分の唐揚やコロッケ弁当を買っていた。それが当時よく報道されていたエピソードなんですが、カレーライスもときどき、平田がつくっていたらしいんです。僕には最初やはり、俗世の食べ物をふつうに食べて暮らしていたというのが印象的だった。 あとは唾液、ですね。女性は弁当は買っても割り箸は受け取らなかったらしいんです。ゴミで唾液が外に出ると、それが鑑定対象になって逮捕された例がある。重信房子が煙草の吸殻により本人だと割れ―逮捕されたみたいなんですが、女性はそれを知っていたという報道があった。それをああいう形で発展させました。「つらかっただろうな」というのは男の台詞なんですが、それを知ったときの僕の実感でもあったんです。
――2人が隠棲しているあの部屋は、どなたかの部屋を使用して撮影したんですか?
木村 さきほどお話した『息衝く』のプロデューサー・共同脚本の女性の部屋で撮影しました。実際に荻窪にあるアパートです。
――本棚に武田百合子の『富士日記』やサークル村の上野英信の息子さんが書いた本(上野朱『父を焼く』)が並んでいるのが目につきました。
木村 テーブルや本棚もすべて住んでいる彼女の持ち物をそのまま利用させてもらいました。本棚の本は……事前に彼女にシナリオを渡していたんですが、それへの彼女なりの解釈が、あの本棚の本だったのではないかと思います。
――サークル村というのも暗喩を感じさせますが、もしあの2人が『富士日記』を読んでいたら、と考えるとせつなくなりますね。武田百合子の清冽な視線をとおして見えた日常に、あの2人はなにを投影していたのだろうと。 『へばの』との共通要素で言えば、歌謡曲が今回も印象的に使われていましたね。『へばの』では安全地帯の「恋の予感」、本作では「グッド・バイ・マイ・ラブ」という。
木村 今回は完全にカメラマンの高橋(和博)さんの選曲です。僕はじつは、アン・ルイス自体これまで知らなかった。高橋さんに教えてもらった感じですね。聴いてみたら歌詞も内容にぴったり合い、太陽肛門スパパーンにカヴァーしてもらいました。スパパーンにカヴァーさせるという大胆な案も、高橋さんの発想。僕はああいった曲は、どうしてもヒロインに静かに口ずさませることしか思いつかない。
――石井隆さんのように歌謡曲使いが作家性の一つになってきたように感じました。つぎに何を使われるのか楽しみです。
木村 いやいや(笑)。
監督:木村文洋 出演:前川麻子/寺十吾
プロデューサー:高橋和博 脚本:前川麻子/木村文洋 撮影:高橋和博 録音:丹下音響 助監督:遠藤晶 編集:上田茂
音楽制作:太陽肛門工房/丹下音響 宣伝美術:竹内幸生 宣伝協力:加瀬修一 製作・配給:team judas2012
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