話題作チェック
(2005 / アメリカ / テリー・ギリアム)
もっと忌まわしく! もっと鬼畜に!

鮫島 サメ子

 …コメントに苦慮しております。巷(ネット)の評判ってのは当たってるもんですねえ。 たしかに金返せってほどひどくはないし、117分の上映時間中、退屈で寝てしまうこともなかった。赤ずきん、シンデレラ、ラプンツェル、 ヘンゼルとグレーテル、白雪姫等々、童話のモチーフがそこかしこに使われてサービス満点、 ダーク系ファンタジーの雰囲気をきっちり出しているセットにもチープ感はない。モニカ・ベルッチは、 これくらい綺麗だったら根性悪くたっていいじゃーんと思わせる超弩級の美しさを披露し、主役のグリム兄弟を張るマット・デイモンとヒース・ レジャーも(この二人を使う必要性は特段感じられなかったが)、まあまあといえばまあまあ。カリカチュアライズされた悪役たちも、 これはこれ、なんだろう。しかし、見終わった後の徒労感といったら。なぜだ?

 舞台は19世紀、フランス占領下ドイツ。グリム兄弟は各地の民間伝承を利用し、 悪霊を退治する狂言で生活の糧を得ていたが、とうとうそのペテンがばれる日が。しかし、 ある村の森で10人もの少女が失踪した謎を解くことを条件にギロチンを免れる。かくして、嫌々ながら本物の呪い& 魔女と対決する羽目に陥った彼らの運命は…。

 一番の不満は、作品の「色」が曖昧な印象を受けたこと。 ヨーロッパの森がいかに深く暗あいものかはよくわかった。冷たく陰鬱な石造りの建物とともに、ああ、 こういう苛烈で重厚な自然や文化を持つ人々には神も悪魔も必然だったのだなとすげえ納得させられる。 優しくて薄っぺらくて清涼でほの暗い日本のソレとは対極ですもん。で、その深い闇の中には無論のこと残酷な官能が息づいているはずなのだが、 本作にはちょっとした嗜虐趣味や耽美性は認められるものの、ずえんぜんたいしたことない。 そしてコミカルな要素やラストの友情ごっこといった、あ・かるいテイストを散りばめつつ、 基本的にはファミリー向けでもお子様向きでもないようだ。だから、何だかもう中途半端な不完全燃焼感が残る。

 たとえば、その情けなさがキュートなジョニー・デップが活躍(?)する『スリーピー・ホロウ』 は一応ハッピーエンドであるものの、それまでに登場人物はほとんど殺されてるし陰惨な復讐話だし。極めつけは、 首なし騎士に血の接吻をされて地獄に引きずりこまれる継母の図という鬼畜な美学が全開だし。また『ジェヴォーダンの獣』も、 事件の黒幕である貴族が美しい妹に異常な愛情を注ぎ、ついには近親強姦しちゃうという素晴らし~い禁忌度を誇っている。おまけに、 語り手である公爵はフランス革命の嵐に翻弄され、ギロチン寸前というラスト。不健全系ファンタジーは、 このようにハッピーエンドだろうがその逆だろうがどこか徹底的にイッちゃってる部分が必要であって、 だからこそゾクゾクしてのめり込めるのだ。

 ところが、このグリム兄弟話はダークな匂いを趣味的に効かせつつも、 結局のところ道を踏み外すことはない。しかしどうせ健全路線なら、ディズニーのように徹底してその路線で愉しませてほしかったし、 また鬼畜は選択外としても、もっと特異な薄気味悪さを全面に押し出してソフトだけどエグイわあ~というテもあっただろう。 あっちもこっちもちょっとずつ欲張った結果、及第点はとれても印象の薄い作品となってしまったのではないか。 ホントはもっと面白くなる素材だったような気がしてならない。

 そして素朴な疑問がひとつ。笑顔がジャック・ニコルソンに酷似したテリー・ ギリアム自身がなぜ出演しなかったのか。これほど魅力的な悪人面はそうありまへん。

(2005.11.20)

2005/11/25/12:31 | トラックバック (3)
鮫島サメ子 ,話題作チェック
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