唸る鋼鉄ヨーヨー、はためくセーラーっ!あの伝説のトンでもアクションドラマが性懲りもなくスクリーンに戻ってきた!
「スケバン刑事」とは和田慎二の少女漫画だが、
原作漫画よりも1985年から1987年にかけてフジテレビで放映されたTVドラマ版の方で記憶している人が殆どであろう。
斉藤由貴、南野陽子、浅香唯という当時のトップアイドルがセーラー服で戦う、
というファン心理を巧みに衝いたコンセプトが受けに受け、絶大な人気を誇ったTVドラマシリーズである。
この三代に渡って「麻宮サキ」という名を受け継いでいくスケバン刑事シリーズ中でも、筆者に強い印象を残したのは「鉄仮面少女」
を南野陽子が演じた二代目であった。「麻宮サキ」の名を引き継ぐ最強スケバンは、幼い頃から「鉄仮面」
を被せられて育った少女だったというのだ!
ヨーヨーを武器に戦う少女という設定の更に上をいくあり得ない基本設定がなされた二代目は、それに合わせたかのように仲間も「ビー玉」
やら「ふくさ」やらで敵と戦うという、トンでもない設定のTVドラマだったのだ。筆者的に「スケバン刑事」と言えば、「あり得ないドラマ」
というイメージが記憶の奥深くに刻印されたのである。
さて、今回松浦亜弥が襲名することとなった「四代目」である。今回の映画化で最も危惧されたのは「当世アイドル映画」であるだけに、 「適当なアクション映画になってしまうのではないか?」ということであった。基本コンセプトを踏襲しただけの無難な作りなら、 「スケバン刑事」である必要はない。筆者が求めていたのは、どこまでも「あり得ないドラマ」であり、真面目なC級おバカ映画のテイストだ。 「スケバン」も「ヨーヨー」も絶滅した平成の現在に、それを敢えて持ちこみどのような形で観せてくれるか、この一点に尽きると言っていい。 しかし、そんな筆者の危惧は、冒頭間もないうちに簡単に払拭された。
本作で「四代目」を襲名する少女は、 ニューヨークから日本へ強制送還された凶暴な少女という設定である。彼女を引き渡しに来たCIAエージェントが、 竹内力扮する警視庁特務機関エージェントに引き継ぐ際にこう言う――「彼女のような少女を、日本ではなんと言うんだったかしらね… …そうそう『スゥケィバァン』?」
あぁ、筆者が求めていたのは、まさにこれなのだ!この馬鹿馬鹿しさ。このあり得なさ、この無理矢理さ! この神がかった台詞を聞いた瞬間に、筆者はこの映画がこちらの期待を裏切らないアホ映画であることを確信したのは言うまでもないだろう。
自身と同時に逮捕された母親を釈放する司法取引と引き替えに、「スケバン刑事」となることを要求された少女が、 爆死した前任特命刑事に代わって聖泉学園に潜入捜査を開始する、という筋立ても大概のものだが、三日間という余りにもアレな潜入期間、 微妙にリンクしていない事件、投げっぱなしの伏線の数々など、突っ込みどころも満載。「アイドル映画」 のはずなのに出演者がちっとも魅力的に映っていないことや、いかにもCG臭の漂うベタベタな特撮映像も素敵すぎる!警視庁特務機関の司令、 通称「暗闇指令」をテレビシリーズの長門裕之自身が扮しているのも嬉しいぞ!どうせなら直属エージェントは竹内力ではなく、 蟹江慶三にやってもらいたかったが、それは贅沢と言うものだろうか。
まさにC級おバカ映画の醍醐味を大いに堪能させてくれる本作だが、唯一不満に感じたのは、
ラストバトルで松浦亜弥がラバー系特殊強化スーツに着替えてしまうことだ。一応、
セーラ服をモティーフにデザインされているようだが、それでもこれは頂けない。「コスプレAVを借りてきたはずなのに、
いつの間にか女優が素っ裸になってイタしていました」というような、軽い失望を覚える人は少なくないだろう。「スケバン刑事」
はセーラー服で戦うのが面白いのであって、「セーラー服っぽいもの」で戦うんじゃ、その面白さも半減するというものだ。
確かに普通のセーラー服より、特殊強化スーツを使った方がアクションや演出の幅が広がるのかもしれないが、
クリエイターの欲求を実現するためだけに基本コンセプトを改変することには疑問を覚えずにはいられない。
それで基本コンセプトを凌駕するような、独創的で圧倒的な映像を観せてくれるのならまだ許せもするが、
そうして表現された映像の多くは中途半端なものばかりだったりするから困りものだ。
本作も特殊強化スーツが存分に活かされたアクションシーンや演出があったとは到底思えない。
そもそも太腿に仕込んだヨーヨーホルダーという魅惑のギミックを用意しておきながら、それをあっさり放棄するとは何事か!
(2006.10.2)
(C)2006「スケバン刑事 コードネーム=麻宮サキ」製作委員会
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