三原光尋,水谷俊之,蛭子能収,宮島竜治,矢口史靖,おさだたつや,山口晃ニ)
かのタモリ氏がミュージカルを毛嫌いしているのは有名ですが、音楽と映像の融合というのはなかなか難しいものであります。それこそ、歌、それも日本語の歌を、たとえばタイトル・バック以外で映画に挿入するというのは、相当に根性の要ることです。自立した言葉を持つ歌が突如、ドラマに闖入する瞬間。そこで、作者が映像と音楽の距離を測り損ねれば、場内に苦笑を招く見るも無残なタンゴが聞こえることでしょう。
しかし、音楽映画というのは多くの映像作家にとってチャレンジしてみたい世界の一つのはずです。久々に、それに果敢に挑んだのは、やっぱりアルタミラ・ピクチャーズ。宣伝文句をズバリ引用させていただきますと「昭和のポップソング選りすぐりの12曲をモチーフに、個性豊かな監督たちが大胆に発想し自由な完成で作り上げた<歌謡トリビュート映画劇場>がここに開幕!」とのことであります。
なるへそ、オレのような飽きっぽい人間にはオムニバスはちょうどいい、と足を運んだわけですが、まあ、これがなかなか興味深い。宣伝文句を鵜呑みにすることは出来ませんし、自由な発想というには歌に囚われて、映像もドラマ硬直した凡庸な作品も少なからずありましたが、映画と歌の距離の測定についての興味深いサンプルを12通り見ることが出来ました。叙情、慕情、ノスタルジアと、ご家族安心な有良物件が並んでいるのも今時風なのではないでしょうか。好き勝手にやっていそうで、商売は商売とフトコロの茶封筒が目に浮かぶ手堅い仕事のアルタミラ・ピクチャーズ。その真髄を見る思いでごわす。
しかし、そんな中でも教師の話を聞かないコマッタちゃんは存在するものでして、このオムニバスの中では蛭子能収大センセがブチかましてくれています。心ある人ならば先刻承知のことでしょうが、念のため記しておきますと、蛭子センセは元来『地獄に落ちた教師ども』とか『私はバカになりたい』とか『馬鹿バンザイ』とか、ヒドいタイトルで、中身もバッチリ非道い漫画を乱発し、遠藤ミチロウの『ベトナム伝説』に原稿を書き下ろし、ムーンライダーズの「だるい人」を作詞した男の中の男。率直に申し上げて、市原悦子や宮沢りえと共演して茶の間に顔を出す資格などはない、孤高のアウトサイダー・アーティストなのです。怖くなったので、いまさらの様に書き添えておきますと、この表現は有り余る愛情ゆえです。なにとぞ、ご了承ください。
とまれ、そんな蛭子センセが、武田真治、インリン・オブ・ジョイトイ、矢沢心、長井秀和と凡庸とも捉えられかねないテレビ風のキャストを並べた「いとしのマックス/マックス・ア・ゴーゴー」の期待通りのハジケぶりと大量の血ノリは痛ましい事故現場に遭遇したような衝撃とでもって観客を気楽に娯楽させません。また、よりによって荒木一郎の曲がモチーフというのがいいじゃありませんか。荒木一郎という人も、まあ、過去のスキャンダルを書き連ねる気はありませんが、いわゆるインテリ・ヤクザ系の二枚目俳優兼シンガー・ソングライターのイメージではくくりきれないココロの闇を感じさせる音楽を多く生み出し、変装に近いメーキャップをして怪作『0課の女 赤い手錠』に出演したりしてきた男の中の男です。そうした荒木テイストと蛭子センセの虚無と見事に共鳴しております。それこそ、作者の体内に漲るビートが映像&音像として具象化される、映画×ロックの見事なかけ算との久々の遭遇でした。
この映画の主要客層の多くが目を背けたであろう瞬間でしょう。でもね、オレにとっては、ココロの高揚を覚えた瞬間でした。
(2007.5.30)
歌謡曲だよ、人生は 2006年 日本
第一話「僕は泣いちっち」
監督・脚本:磯村一路
出演:青木崇高,伴杏里,六平直政,下元史朗
第二話「これが青春だ」
監督・脚本:七字幸久
出演:松尾諭,加藤理恵,池田貴美子,徳井優,田中要次
第三話「小指の想い出」
監督・脚本:タナカ・T
出演:大杉漣,高松いく,中山卓也
第四話「ラブユー東京」
監督・脚本:片岡英子
出演:正名僕蔵,本田大輔,千崎若菜
第五話「女のみち」
監督・脚本:三原光尋
出演:宮史郎,久野雅弘,板谷由夏
第六話「ざんげの値打ちもない」
監督・脚本:水谷俊之
出演:余貴美子,山路和弘,吉高由里子,山根和馬
第七話「いとしのマックス/マックス・ア・ゴーゴー」
監督・脚本:蛭子能収
出演:武田真治,久保麻衣子,インリン・オブ・ジョイトイ,矢沢心,希和,長井秀和
第八話「乙女のワルツ」
監督・脚本:宮島竜治
出演:マモル・マヌー,内田朝陽,高橋真唯,山下敦弘,エディ藩,鈴木ヒロミツ,梅沢昌代
第九話「逢いたくて逢いたくて」
監督・脚本:矢口史靖
出演:妻夫木聡,伊藤歩,ベンガル,江口のりこ,堺沢隆史,寺部智英,小林トシ江
第十話「みんな夢の中」
監督・脚本:おさだたつや
出演:高橋惠子,烏丸せつこ,松金よね子,キムラ緑子,本田博太郎,田山涼成,北見敏之,村松利史
エンディング「東京ラプソディ」
監督・脚本:山口晃ニ
出演:瀬戸朝香,田口浩正
撮影:小川真司,永森芳伸,斉藤幸一,池内義浩,栢野直樹,長田勇市,芦澤明子,志賀葉一,柴主高秀,釘宮慎治
美術:新田隆之,池谷仙克
主なキャスト / スタッフ
- おさだたつや
- インリン・オブ・ジョイトイ
- エディ藩
- キムラ緑子
- タナカ・T
- ベンガル
- マモル・マヌー
- 七字幸久
- 三原光尋
- 下元史朗
- 中山卓也
- 久保麻衣子
- 久野雅弘
- 伊藤歩
- 伴杏里
- 余貴美子
- 六平直政
- 内田朝陽
- 加藤理恵
- 北見敏之
- 千崎若菜
- 吉高由里子
- 堺沢隆史
- 大杉漣
- 妻夫木聡
- 宮史郎
- 宮島竜治
- 寺部智英
- 小林トシ江
- 山下敦弘
- 山口晃ニ
- 山根和馬
- 山路和弘
- 希和
- 徳井優
- 本田博太郎
- 本田大輔
- 村松利史
- 松尾諭
- 松金よね子
- 板谷由夏
- 梅沢昌代
- 正名僕蔵
- 武田真治
- 水谷俊之
- 江口のりこ
- 池田貴美子
- 瀬戸朝香
- 烏丸せつこ
- 片岡英子
- 田中要次
- 田口浩正
- 田山涼成
- 矢口史靖
- 矢沢心
- 磯村一路
- 蛭子能収
- 鈴木ヒロミツ
- 長井秀和
- 青木崇高
- 高松いく
- 高橋惠子
- 高橋真唯
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