「アクション・ムービーの最高傑作が誕生した! 俺が待ち望んでいたのはコレだ!」とクエンティン・タランティーノが絶賛しているので今作に興味を持ったら、一昨年公開の「Running Scared」(06)だった。今作は公開時はそれほど評価を得なかったが、DVDリリース後に段々と評価を高めていった作品である。確かに随所に才気が感じられる作品で、タランティーノが気に入ったのも分かる。
一丁の拳銃をめぐるストーリーは、日本映画の「リボルバー」や「トカレフ」も想起させるが、予想のつかない展開で観客を魅きつける。イタリアン・マフィアに所属する主人公は、対立するイタリアン・マフィアとロシアン・マフィアに加えて、警察からも追われるストーリーだが、実の主人公はロシアン・マフィアの子供のオレグが主人公である。このオレグを演じるキャメロン・ブライトが素晴らしい。04年の「アダム/神の使い 悪魔の子」、「記憶の棘」、 「バタフライ・エフェクト」で注目された後に、06年には今作に加えて「X-MEN:ファイナル ディシジョン」、「ウルトラヴァイオレット」、「サンキュー・スモーキング」と出ていて「最近、やたらと売れている子役だなあ」と思っていた。不機嫌だったりミステリアスだったりする子供を演じるのが得意で、今作でも「決して笑わないロシア人のガキ」と形容される。だからこそ、終盤で一度だけ見せる笑顔が印象に残る。ヒロインのヴェラ・ファーミガは「ディパーテッド」で覚えた女優だが、今作でも確かな演技力を披露している。ヴェラ・ファーミガが注目された、日本未公開のインディ作品「Down to the Bone」(04)を見てみようと思う。 監督のウィエン・クラマーは、アレック・ボールドウィンを復活させ(アカデミー賞助演男優賞ノミネートなど)、マリア・ヴェロを注目させるきっかけになりながらも、なぜか日本未公開でDVDすら出ていない秀作「The Cooler」(03)で注目された才人である。レニー・ハーリンの「マインドハンターズ」(04)の原案と脚本を書いていて、インディ作品を監督しながらもアクション大作の脚本も書いていることで、個人的に注目していた。最新作は96年の自作「Crossing Over」のリメイクの「Crossing Over」(08)で、ハリソン・フォードとショーン・ペンが主演である。ポール・ハギスの「クラッシュ」のような群像劇で出来がいいと伝えられている期待作だ。
今作は脚本の出来からキャストやスタッフが集まって製作が始まったというだけあって(本来、映画とは脚本優先でそうあるべきだが)、構成や台詞がよく練られている。特にクレジットカードのCMの「プライスレス!」を使った皮肉な台詞には爆笑した。やたらと「Fuck」が出てくるのも(328回らしい)、タランティーノが気に入った要因の一つかも。そして、ジョン・ウェインのネタの台詞はタランティーノが書きそうな台詞でもある。
今作で興味深いのはロケ場所で、ニュージャージーの設定をチェコスロヴァキアで撮っている。アメリカの設定をスペインのバルセロナで撮った「マシニスト」と同じく予算の節約もあってのことだが、プロダクション・デザイナーの腕の見せどころであり、見事に成功させている(さすがに建物の寄りの画などはニュージャージーで撮っているが)。チェコスロヴァキアで撮ったアメリカ映画は「ヘルボーイ」などのファンタジー色の強いアクション映画が多いが、リアリティを重視したアクション映画なのである。構成やポン引きのキャラクター設定から、夜の街を徘徊する少年のダーク・ファンタジーや寓話の要素も今作にはあるのだが、チェコスロヴァキアでのロケがそのムードをより付加しているのも監督の才気を感じさせる。このジャンルのアクション映画としては、122分と少々長めなので110分以内には収めてほしかったが、決して飽きさせることはない。「サム・ペキンパー、ブライアン・デ・パルマ、ウォルター・ヒルに捧ぐ」とエンドクレジットの最後に出てくるのが、これらの監督を好きなこちらとしても嬉しかったし、その心意気も十分感じられた。「ワイルド・バレット」は見逃されがちな作品かもしれないが、後にも語られることになる可能性もある作品なので、2年遅れで日本でもやっと公開されたことでもあるので是非スクリーンで観てほしい。
(2008.10.13)
ワイルドバレット 2006年 アメリカ・ドイツ
監督・脚本:ウェイン・クラマー
出演:ポール・ウォーカー,キャメロン・ブライト,アレックス・ヌーベルガー,ヴェラ・ファーミガ,チャズ・パルミンテリ
(C)2006 Media 8 Entertainment All Rights Reserved.
2008年10月11日より、
新宿トーア他全国順次ロードショー!
監督:ジョン・ストックウェル
出演:ジェシカ・アルバ,ポール・ウォーカー,スコット・カーン
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
発売日: 2006-11-03
おすすめ度:
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主なキャスト / スタッフ
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