レビュー

ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション

( 2015 / アメリカ / クリストファー・マッカリー )
2015年8月7日(金)より全国公開
文句なしのシリーズ最高傑作!

岸 豊

『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』場面1ミッション:インポッシブル』シリーズの誕生から19年、シリーズ最新作にして第5弾の『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』(15)が、8月7日に全国公開を迎える。本作は、今年で53歳になったトム・クルーズがシリーズ最高レベルのアクションを見せていることに加え、監督・脚本を務めたクリストファー・マッカリーによるプロットが素晴らしく、シリーズ最高傑作と呼ぶに相応しい仕上がりになっている。そんな本作で描かれるのは、前作『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』(11)のエンディングで暗示されていたように、イーサン・ハント率いるIMFと、ならず者集団「シンジケート」が繰り広げる戦いだ。

IMFの超敏腕スパイ、イーサン・ハント(トム・クルーズ)は、「体制の破壊」を目的に世界中で暗躍するならず者集団「シンジケート」の行方を追っていた。そんなある日、イーサンはIMFのロンドン支部で「シンジケート」のボス、ソロモン・レーン(ショーン・ハリス)に遭遇する。レーンの策略によって捕らえられたイーサンだったが、「シンジケート」に潜入していた謎の女スパイ、イルサ・ファウスト(レベッカ・ファーガソン)の助けで脱出に成功。しかしその頃、アメリカではCIA局長アラン・ハンリー(アレック・ボールドウィン)の提言によって、IMFが解体されることに。CIAに追われる身となったイーサンは、仲間のベンジー(サイモン・ペグ)やブラント(ジェレミー・レナー)、ルーサー(ヴィング・レイムス)と共に、レーンとイルサの行方を追うのだが……。

アクション映画においては、オープニングの5分間で大きな見せ場を作ることが鑑賞者をストーリーに引き込む要因になると思う。その点で言えば、本作のオープニングは完璧だ。というのも、予告編で早い段階から解禁されていた、離陸するエアバス(A400機)にイーサンがしがみつくシーンこそが、本作のオープニングになっているのだ。勿論だが、このスタントはクルーズ自身が行っているもので、命を危険に曝すことでしか生まれ得ない圧倒的な緊張感が画面越しに強く伝わってくるシーンになっており、これだけで本作のアクションをシリーズ最高レベルに引き上げてしまっている。
クルーズは1962年生まれ。今年で53歳になった。世間的には初老と言われる年齢だ。しかし、アクションに対する熱い思いと命知らずっぷりは若き日から欠片も錆びることなく、CGへの依存度が高いアクション映画に出演したがる俳優や、スタントマン頼りの「自称アクション俳優」が多いハリウッドの中で、死と隣り合わせに自分の体を張り続ける彼の「本物のアクション俳優」としてのプロフェッショナリズムには敬服するほかない。
また、このシーンは超絶アクションとして成立していると同時に、技術担当のベンジー(サイモン・ペグ)が飛行機のドアをハッキングしようとするものの巧く開けられず、イーサンがツッこむというギャグとしても成立している。つまりクルーズは、「命懸けのアクション」で、「感嘆」と「笑い」を同時に生んでいるのだ。こんなアクションをこなせる人物は、現在のハリウッドには彼の他にいないだろう。

『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』場面2これほどの危険度を伴うアクションは、クライマックスで見せるものという先入観を、筆者含め多くの鑑賞者が抱いていたはずだが、マッカリーはこのシーンをあっさりとオープニングで見せてしまうことで、鑑賞者の予想を大胆かつ有効に裏切り、ストーリーに強く引き込んでしまう。その一方で、これほどのアクションをオープニングで見せてしまっては、これ以降に披露されるアクションが尻すぼみになるのではないか?と危惧する人もいるだろうが、その点は心配無用だ。中盤までに見られるオペラハウスの舞台装置やロープを使った連動性のある接近戦、「シンジケート」が隠し持っていたデータをすり替えるミッションでの6分以上にわたる潜水、その直後に描かれる車とバイクによる疾走感溢れるチェイス……これらのアクションは、エアバスのシーンと比較すればアクションの規模自体は小さくなっているものの、連動性、スピード感、クロスカッティングによって生まれる緊張、その緊張を不意に緩和するギャグが活かされており、鑑賞者を飽きさせることがない。

次に、ストーリーの構造について論じよう。シリーズを振り返ると、1作目では「裏切り」をテーマとすることで、かなり深読みしないと鑑賞者には予測できない展開がサスペンスを生むと同時に、シリーズを象徴する「宙吊り」や、列車の上でのアクションがスリルを与え、バランスの取れた仕上がりになっていた。しかし2作目では、オープニングのストーリーとは無関係のロック・クライミングの衝撃度が最も高く、アクションは尻すぼみになってしまい、今一つ魅力に欠けるタンディ・ニュートン演じるヒロインとイーサンのロマンスを主眼に置いたストーリーにも、鑑賞者を納得させるだけの力がなかった。その反省からか、3作目ではサスペンス性を重視し、今は亡きハリウッド史上最高の実力派俳優として知られるフィリップ・シーモア・ホフマンを悪役に据え、アクションを抑え目にする一方で、ラビットフッドという謎のアイテムをマクガフィン(サスペンスを生む小道具)として用いて、意外性のあるストーリーが描かれた。ところが、4作目では核の発射コードという使い古されたアイテムを巡る攻防を描いた結果、驚くような機能を持つガジェットや超高層ビルの外壁を用いたアクションには面白味がある一方で、再びストーリーの質が低下してしまった。

ユージュアル・サスペクツ』(95)の脚本を担当し、緻密で伏線に満ちたエレガントなストーリーでハリウッドに衝撃を与えたマッカリーは、クレジットはされていないものの、実は前作『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』にも参加していたのだが、彼がメインで脚本を書いたわけではなかったからか、真新しさのないストーリーに終始する結果になってしまった。これに対して、本作ではドリュー・ピアースと共に自身の手で脚本を書き上げたことで、鮮やかで華麗なストーリーを完成させた。それを可能にしたのは、複数の裏切りを段階的に発生させるという、サスペンスの基本的な枠組みだ。
『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』場面3本作ではまず最初に、IMFに救われてきた立場にあるCIAの提言によって、IMFの解体が宣言され、イーサンが追われる立場になる(1つめの裏切り)。CIAの追跡から逃れつつ「シンジケート」を追うイーサンは、「シンジケート」の一員かと思われたイルサが潜入捜査員であることを見抜き共闘するが、イルサにまんまと利用されることになる(2つめの裏切り)。しかし、イーサンをうまく利用したはずだったイルサも、実は自分の雇い主である英国諜報部に利用されていたことを知る(3つめの「裏切り)。

「裏切りを段階的に発生させる」という手法はスパイものでは決して珍しいものではないが、「敵を限定」することがなく、「複数の対立関係」を生むことが可能になる優れた作劇術であり、シリーズの過去作品でも活用されている。シリーズ第1作と第3作では、序盤にイーサンが謂れのない罪で追われる立場になり、仲間の協力を得ながら無実を晴らす戦いに挑むという展開を辿るが、実は仲間(たち)にハメられていたという「予期せぬ裏切り」がストーリーの局面で描かれることで、厚みと幅のあるストーリーに仕上がっていた。一方で、第2作と第4作では、序盤に敵を限定する(イーサン×敵のボスという構図を作ってしまう)ことによってストーリーの明確性を担保した一方で、それ以降の展開において「予期せぬ裏切り」が描かれず、意外性や驚きに欠けるストーリーに終始してしまった。
本作でマッカリーは、第1作と第3作のスタイルを明確に踏襲している。その結果、イーサンの敵を「シンジケート」だけに限定することなく、イルサ、CIA、そして英国諜報部などが複雑に絡み合った対立関係を形成し、ストーリーに厚みと幅を与えることで、ハイレベルなアクションとのバランスを取っている。

作劇の面においては、「イーサンとイルサが織り成すロマンス」が、サブプロットとして効果的に機能しているのも素晴らしい。「女スパイとの共闘」は、シリーズ第2作で描かれたが、先述の通り単純なロマンスを描いただけだったので、深みを感じることはできなかった。しかし、本作で描かれるのは単純なロマンスではない。というのも、そもそもイーサンにはジュリア(ミシェル・モナハン)という妻がいるので(本作には登場しないが)、前作までを見てきた鑑賞者であれば、イーサンとイルサが結ばれることはないと分かっている。それでも、互いに惹かれ合うイーサンとイルサの間にちらつき続けるロマンスの可能性は、「イーサンがジュリアを裏切るのか?」という、本筋とは別のサスペンスを生む。これによってマッカリーは、本作のストーリーをより味わい深いものとすることに成功しているのだ。イルサの、「私を捜せるでしょ」という含みのあるセリフが、最後の最後まで活きているのもグッと来る。

イーサンとレーンの対決の結末も最高だ。シリーズでは、「敵のボスが死ぬ」ことでエンディングを迎えるというお決まりのパターンが繰り返されてきたが、本作はこの点でも一味違う。単純にイーサンがレーンを始末するのではなく、その上を行く、極めてエレガントな結末を迎えるのだ。レーンという自尊心を持つ巨悪をイーサンが完膚無きまでに叩きのめすラストには、思わず「よっしゃー!」と叫びたくなってしまう。ここでもやはり、マッカリーの作劇力がキラリと光る。

『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』場面4本作は、シリーズ最高レベルのアクションと鮮やかなストーリーが溶け合った結果、シリーズ最高傑作と称して差し支えない仕上がりになっている。それだけに、まだ製作は発表されていないが、仮に次回作が製作されることになった場合に、本作のクオリティを上回ることができるのかについては、一抹の不安を抱いてしまう。本作のクオリティの高さに加え、クルーズの年齢が大きな課題として立ちはだかるだろう。本作はシリーズの完結編として位置づけられているわけではないだけに、どうやってシリーズを終わらせるのかは重要な問題だと思う。アクションを売りにしているこのシリーズは、クルーズの年齢から言えば、次回作が最後になるだろう。1人のファンとしては、できることなら、商業主義的にダラダラと続くのではなく、美しく華麗な最後を迎えてくれることを祈るばかりだ。

(2015.8.4)

ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション ( 2015年/アメリカ/カラー/132分 )
監督:クリストファー・マッカリー
出演:トム・クルーズ,ジェレミー・レナー,サイモン・ペグ,ヴィング・レイムス,
レベッカ・ファーガソン,アレック・ボールドウィン
配給:パラマイウント © 2015 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
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2015年8月7日(金)より全国公開

2015/08/06/19:45 | トラックバック (6)
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