鈴木 聖史 (監督)
映画『ホコリと幻想』について【1/4】
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2015年9月26日(土)より、ヒューマントラストシネマ渋谷(レイト)他全国順次ロードショー
9月12日(土)よりディノスシネマズ旭川/ディノスシネマズ札幌劇場北海道先行公開
北海道の旭川を拠点に、派手さはないものの誠実な作品作りで高い評価を得ている鈴木聖史監督の最新作で、TEAM NACSの戸次重幸を主演に迎えた『ホコリと幻想』(15)が、9月26日に全国公開を迎える。同作は、東京から旭川に出戻りしてきた自称「クリエイター」の主人公が、地元の幼馴染たちを巻き込んでモニュメントの製作を目指すものの、厳しい現実に打ちのめされる姿を描いたほろ苦いドラマだ。今回は鈴木聖史監督に、本作の製作に至った経緯やキャスティングの背景、印象的な演出などについてお話を伺った。 (取材:岸 豊)
STORY 高校卒業以来の帰郷で旭川の地を踏む松野(戸次重幸)は、同窓生たちとグラスを傾けていた。その中には元カノで今では人妻となった美樹(美波)もいた。東京でアーティストとして活躍してきたと自称する松野は、市が募集する木工モニュメント製作のチラシを目にし、同窓生たちに「これこそ自分のための企画だ」とぶちまけ、同窓生だけでなく市をも巻き込んだモニュメント作りに没頭していく。不思議なことに、この時間がずっと続けばイイと思った。これが、永遠に続けばイイと思った。しかし何も進まない。同窓生たちの間で「松野は本当にアーティストなのか?」という疑問が頭をもたげる。相変わらず時間だけが進んでいき、次第に追いつめられて行く松野。高校時代ならば行き詰まった時はいつも美樹が後ろから押してくれた。でも今は…。松野はもう一度自分を取り戻すために、改めてモニュメント製作と向かい合う。
――まず最初に、本作の製作に至った経緯をお聞かせ願えますか?
鈴木監督 3年前、地元の旭川で前作の『ある夜のできごと』の特別上映をした時に、同級生たちが手作りで色々と作ってくれたんです。それまでの僕はあまり地元に帰らず、よくいるタイプなんですけど、お盆とお正月くらいしか帰らなかったんですね。でも、上映会で色々な人と会ったり、映画についての色々な話をしたり、旭川の人々と会うに従って、「この街で、地元で映画を撮ってみたいな」と思うようになったんです。それがスタートでしたね。
――本作の舞台を監督の出身地である旭川に設定した背景には、主人公にご自身を投影しているものがあったのでしょうか?
鈴木監督 舞台に地元を選んだのは、純粋に地元の景色を撮りたいという思いが昔からあったんです。確かに主人公の松野のキャラクターには、自分を投影した部分があるんですが、あんなに破天荒ではないです(笑)
――『ある夜のできごと』の特別上映の際に、印象に残った出来事はありましたか?
鈴木監督 手伝ってくれた同級生の中には初めて会話をした人もいたんですが、同級生という括りだけで協力してくれた彼らとの触れ合いははっきりと覚えています。単純な話なんですが、「また(鈴木監督の映画を)観たいね」と言ってもらえたことが大きかったですね。 最初はやっぱり地元の中でも、「変な若造が来たな」という感覚だったらしいんですが(笑)、その中の1人の方が、「面白そうだね」と言ってくれたんです。その方は最後まで製作に携わってくれていた方だったんです。シンプルな一言が大きかったですね。
――「地元での友人との再会」というストーリーの枠組みは、前作『ある夜のできごと』でも用いられていました。監督の作劇においては重要なテーマなのでしょうか?
鈴木監督 そうですね。僕自身が高校を卒業してから地元を出ているので、地元との距離感、同級生との関わりは重要なテーマです。地元を出た人のスタンスというのは、ここ10年くらい考えていたことだったので、2作ともそういったテーマ性を持つ作品になりましたね。でもライフワークと言うわけではなくて、この10年はそれについて考えてきた時間だったという背景があったんです。
――2作品を通じて、地元に近づくことができたという感覚はありましたか?
鈴木監督 もっと近づけるのかなと思っていたんですが、映画を撮ってみると、ある意味では近くなったんですが、ある意味では遠くなった気もしたんです。というのも、地元を舞台とした作品なので、地元が地元ではなくなっている感じもあって。心の拠り所みたいなものとして帰っていた時期とは違って、何度も見ている地元になってしまったので、景色が変わってしまったという気もしているんです。