鈴木 聖史 (監督) 映画『ホコリと幻想』について【4/4】
公式サイト 公式twitter2015年9月26日(土)より、ヒューマントラストシネマ渋谷(レイト)他全国順次ロードショー
9月12日(土)よりディノスシネマズ旭川/ディノスシネマズ札幌劇場北海道先行公開
(取材:岸 豊)
――前作から5年を経て完成した本作ですが、この5年で監督の生活環境や映画の製作環境に変化はありましたか?
鈴木監督 生活の変化......サラリーマン業では、係長になりました(笑) 映画製作においては、前作よりも規模が大きくなりました。でも結局は、前作からの繋がり、積み上げがあったから今があると思います。
――監督としてはハリウッドのようなド派手な演出のある映画よりも、人間模様を描くような作品をこれからも撮っていきたいのでしょうか?
鈴木監督 一番アプローチしたいのはそこですね。ただ、小さい頃からハリウッド映画で育ってきたので、ああいうものにも憧れはあって、やってみたいとは思いますね。ダイレクトにアプローチして、脚本を書くという意味では、本作よりもう少し上の規模でやってみたいんですが、これからどう変わっていくかは分からないですね。
――監督は医療系のサラリーマンとしても働かれていらっしゃるとのことですが、映画のためのまとまった休みは通常であれば取りにくいと思います。監督との兼業をする上では、やはり難しさがあるのでしょうか?
鈴木監督 普通は、休みは取りにくいですね。でも僕の上司たちが協力的な方たちで、撮影期間やどうしても外せない期間については、有給の範囲内で休みをもらっていて、有給の範囲内で許可を頂いてやっています。
――学生時代に東映の撮影所で編集を学び、卒業後に医療系の会社に就職されたとのことですが、入社してからも映画も撮りたいという思いは変わらなかったのでしょうか?
鈴木監督 変わらなかったですね。学生の頃に、東映で学んだというよりは、色々な体験をさせてもらったんです。そのまま東映にいようかくらいの話だったんですけど、父とのいざこざもありまして(笑)、就職することにしたんです。今となっては15年働いているんですが、あの頃は、「とりあえず3年くらい働こう」くらいの気持ちだったので、お金を貯めたら映画を撮ろうという思いはありましたね。
――お父さんとのいざこざというお話がありましたが、本作では松野と父の不和は雪解けすることがなく、『ある夜のできごと』でも主人公が結局実家に帰らないという描写がありました。監督の作品が世に出ることで、お父さんに認められたと感じることはできましたか?
鈴木監督 ここまでやってきたので、ある程度は認めてくれているんじゃないかな(笑)。本作も楽しみにしてくれていたみたいで、観に行くと言ってくれていますし、今回も色々とサポートしてもらっていたんです。
――先ほど、ハリウッド映画からも影響を受けているというお話がありましたが、そもそも映画監督を志した背景には、具体的な監督や作品からの影響があったのでしょうか?
鈴木監督 映画を撮ろうと思ったのは、大学生くらいの頃でした。それまでは洋画しか観ていなかったんですが、当時注目を浴びていた岩井俊二監督の世界に引き込まれて、「撮ってみたいな」と思ったんです。憧れたのは、スタンリー・キューブリックですね。彼のレベルに到達できるとは思っていないんですが、彼の作品を観るまでは、いわゆる、分かりやすい作品」ばかり観ていたのに、それが全てぶっ壊された気がしたんです。今でも、彼の作品のような映画に着手できたらいいなと思っていますね。
――映画を作る上で、監督が大事にされているポリシーやルールはありますか?
鈴木監督 これは賛否両論あると思うんですが、自分で想像したものを100点とした場合に、それを完全にスタッフにやらせる、やってもらうという手法は好みではないですね。その手法では、99点しか取れないと思うんです。お芝居もそうですけど、極力周りのスタッフさんや俳優さんが積み上げてきたものを大事にしたいと考えていて、そうすると120点とか150点とか、自分の想像を超えるものができる気がするんです。とにかく話して、色々な人が考えていることをなるべく吸い上げたい。考えるプロセスを知って、あとは本番でどの選択肢を選ぶか、編集するかということですね。トップダウンみたいなやり方は嫌いで、面白くないと思っているんです。指示はしますが変な拘りはなくて、それを飛び越えてくるものこそ面白い。これはずっと思っていることですね。 以前、かなりトップダウンでやってしまったことがあって、俳優さんのお芝居を潰してしまった経験があるんです。相当悩ませましたし、セリフの言い方の全てに指示を出したんです。その作品は、あとで観返したら面白くなくて、当時は納得していたんでしょうけど、トップダウンでやるのならそれなりの覚悟を持っていないとダメでしょうね。僕は多分、その手法は自分には向いていないと思いますし、今の自分のスタイルの方が面白いと思いますね。
――では最後に、映画ファンへメッセージをお願いします。
鈴木監督 いわゆるハリウッド映画みたいな作品とは違うのかもしれないですけど、そういった作品にはない面白さはあると思っているので、そこを存分に感じてもらえたらと思っています。あとは戸次さんの、後半セリフが少なくなっていく、内側にこもっていくようなお芝居。これはテレビやTEAM NACSでもよく喋る戸次さんの、なかなか見ることがない新しい一面だと思うので。あとは、ラストの10分。僕の中でも結構悩んだ10分なんですが、僕は最大の売りだと思っているので、ぜひスクリーンで観ていただいて、賛否ともども意見を言っていただけたらなと思っています。
( 取材:岸 豊 )