レビュー

ザ・レイド GOKUDO

( 2014 / インドネシア / ギャレス・エヴァンス )
2014年11月22日(土)全国ロードショー!
「アクション映画」に対する回答

岸 豊

ネタバレ有り『ザ・レイド GOKUDO』アジアのアクション映画に大きく影響を受けたウェールズ出身の映画監督、ギャレス・エヴァンスが監督した『ザ・レイド』(12)は、インドネシアの伝統武術「シラット」を用いた超高速で展開されるアクションが世界中で反響を呼び、大ヒットを記録した。その続編である『ザ・レイド GOKUDO』が、11月22日から遂に日本公開を迎える。本作は2014年のサンダンス映画祭でのプレミア上映直後から高評価を獲得し、アメリカの映画情報サイトIMDbのランキングTOP250に、インドネシア映画として初めてランクインした作品となった。(※11月現在はランク外となっているが)
なぜ本作は前作以上の評価を獲得することができたのだろうか?本作には前作と同じように、シラットを用いたアクションに期待する人が多いだろう。しかし、ギャレス・エヴァンスは本作を「シラットが凄いアクション映画」というレベルに留めず、巧みなストーリーテリングと美しい画面構成を用いることによって、その次のステージへと昇華させたのだ。

物語は前作のエンディングの2時間後から始まる。麻薬王のタマ・リヤディ(レイ・サヘタピー)が支配するビルから帰還したジャカルタ警察の新人SWAT隊員ラマ(イコ・ウワイス)は、タマを潰したことで、ジャカルタを牛耳る超大物マフィアに命を狙われることになってしまう。ブナワー(チョク・シンバラ)率いる「告発チーム」の保護による家族の確実な安全と引き換えに、ラマは潜入捜査官として、警察上層部とマフィアの癒着を証明するための作戦に加わる決意をする。そこでラマは、ジャカルタ・マフィアの帝王であるバンクン(ティオ・パクサド)の息子、ウチョ(アリフィン・プトラ)に近づくため、ウチョが収監されている刑務所に囚人として潜入する。刑務所でウチョの信頼を得たラマは、出所後にバンクンにも認められ、彼の組織へ加わる。しかし時を同じくして、ゴトウ(遠藤憲一)率いる日本のヤクザ「ゴトウ組」との緊張も高まりを見せていた。そして父の姿勢に不満を感じ始めたウチョに、ブジョ(アレックス・アバド)という謎の男が接近し、共謀を持ちかける――。

『ザ・レイド GOKUDO』場面1前作は106分という短い時間の中、1棟のビルを舞台にタマの確保を目指す過程で、ラマがどこからともなく現れてくる敵をひたすら倒していき、彼個人の目標だった兄のアンディ(ドニー・アラムシャー)との再会、共闘という展開を経て、マッド・ドッグ(ヤヤン・ルヒアン)とタマを倒してエンディング、という展開の早い直線的な構成だった。言い方を悪くすれば、シラットが余りにも凄いインパクトを残した一方で、ストーリー性は決して高くなかった。ところが本作は150分という長尺の中で、前作同様のハイレベルなアクションを披露すると同時に、キャラクターたちの思惑が交錯する中で繰り広げられる抗争によって、裏切りと報復に血塗られた悲劇的なドラマも描いている。
前作との違いを決定的に宣言しているのがオープニングだ。オープニングでは閑散とした農地が大写しとなり、ロングショットの長回しを用いながら、前作におけるキーパーソンだったアンディの処刑をゆっくりと、そして淡々と描く。これと同時に、ブジョという新キャラクターが登場する。彼は個性的な登場人物が多い本作の中でも、極めて異質なキャラクターである。彼が象徴しているのは「冷徹」だ。彼が画面に登場すると、画面の温度が一気に下がる感覚があるだろう。それは、どんよりとした曇り空、インドネシアという亜熱帯の国で彼が着ているコートであったり、表情を隠すサングラス、感情を隠した振る舞いなどに象徴されている。ギャレス・エヴァンスは、こうしてスローなオープニングと得体の知れない新キャラクターの登場を用いることによって、前作とは全く違う物語の展開を匂わせ、観る者を物語へ一気に引き込むことに成功している。

アクションも前作とは大きく異なる。前作では一棟のビル内部で展開される狭い空間での戦闘が見所だった。しかし本作のストーリーはジャカルタという都市全体で展開される。これによりAV工場、レストラン、クラブ、市街地などの広い空間を活かしたゲリラ戦が展開されることで、アクションに幅が生まれている。そしてアクションの撮影では、前作には見られなかった「視点の移動」が多く取り入れられている。キャラクターたちのアクションに合わせて、カメラマン自身もジャンプやカメラの反転などの動きを加えることで、前作以上の臨場感を生み出すことに成功している。そしてブジョに仕える殺し屋のハンマー・ガール(ジュリー・エステル)やベースボール・バットマン(ヴェリ・トリ・ユリスマン)、キラー・マスター(セセプ・アリフ・ラフマン)らが暴れまわる後半では、クロスカッティングを多用することで複数のアクションを同時に描き、スピード感と緊張感を巧みに引き出している。また高層が激化する終盤にはカーアクションも取り入れられ、ド派手なクラッシュは勿論、車中でのアクションを長回しで撮りつつ車外でのカーチェイスに繋げるなど、撮影の妙技が発揮されている。
ちなみに本作における素手でのアクションは全てフルコンタクトとなっている。これはギャレス・エヴァンスがリアリティを追求した結果である。昨今の「アクション映画」はカット割りや効果音で誤魔化している「ヌルい」作品も数多い。極端に言えば、老婆でもアクション・スターにすることができる。そんな彼の拘りが込められたフルコンタクト・アクションは、昨今の作品に対するアンチテーゼなのだろう。

『ザ・レイド GOKUDO』場面2本作では洗練されたアクションに加えて、前作では見られなかった「画面構成における美意識」が明確に打ち出されている点にも注目して欲しい。何気ない瞬間やアクションのシーンに至るまでシンメトリーの画が多く作られていることに加え、随所で見られる赤と黒、赤と白の色使いが生むコントラストが美しい。特にバンクンに仕える殺し屋のプラコソ(ヤヤン・ルヒアン)の死の場面は本作最高の名場面だ。このシーンでは、ジャカルタではありえない雪景色が映されている。この雪は、プラコソが流す血の赤との美しいコントラストを形成しているだけでなく、プラコソという哀れな暗殺者の悲劇性、そして対面するキラー・マスターやブジョの冷徹さを強く印象づけるシュールレアリスティックな演出として機能している。このシーンではヘンデルの「サラバンド」が挿入されており、本作で形作られているシンメトリーの画面構成が、スタンリー・キューブリック(『バリー・リンドン』(75)で同曲を使用)からの影響だということが示されてもいる。また、ブジョのレストラン、ゴトウ組の事務所などのシーンから伝わるように、不要なものが一切排除された、絵画のように美しく、上品で静的なシーンが多く登場するのも、キューブリックのスタイルからの影響だろう。このようにしてギャレス・エヴァンスは、激しいアクションと対照的な、静的で美しい画面構成を両立させることにも成功している。

前作でのラマは「正義」として描かれていた。しかし本作では「正義」のために「悪」の側に身を置き、バンクンとウチョの親子関係と抗争に翻弄されながら、正義としてのアイデンティティを失っていく。そして抗争が激化する中で、マフィアとして警察の人間を何の躊躇いもなく傷つけてしまう自身の姿に激しく葛藤する。これに対する終盤での「お前の正体(アイデンティティ)はバレていない」というブナワーからの電話が皮肉だ。激闘の末、遂にバンクン・ファミリーとブジョ一味を壊滅させたラマの表情は、「正義」の男でありながら、喪失感に満ちた敗北者のようだ。善悪の間で自分を見失っただけでなく、兄弟のような関係になっていたウチョを自分の手で殺めたからだ。ラマはオープニングで実の兄を失い、エンディングでウチョという擬似的な兄を失う。本作におけるラマは、喪失に始まり、家族と切り離され、喪失に終わるという孤独な存在として描かれている。こうして本作は前作とは対照的に、悲劇的で皮肉な結末となっていることで観る者に重い余韻を残し、主人公が単純に勝って終わり、というありがちで深みのない「アクション映画」とは一線を画す。

『ザ・レイド GOKUDO』場面3本作で遠藤憲一や松田龍平、北村一輝などの日本人キャストは、独特な存在感を残している一方で大きな活躍を見せていない。しかしこれは、次回作への布石である。シリーズ3作目は東京を舞台にする予定であり、ストーリーは本作のエンディングの3時間前から始まる予定とのこと。タイのアクションスター、トニー・ジャーの出演も噂されており、今度はいったいどんなストーリーとアクションを見せてくれるのか、今後もギャレス・エヴァンスから目が離せない。

(2014.11.09)

ザ・レイド GOKUDO 2014年/インドネシア映画/146分/カラー/シネスコープ/R15+
出演:イコ・ウワイス『ザ・レイド』、アリフィン・プトラ、オカ・アンタラ、ティオ・パクサデウォ、松田龍平、遠藤憲一、北村一輝
監督・脚本:ギャレス・エヴァンス『ザ・レイド』
原題:The Raid 2: Berandal 配給:KADOKAWA ©2013 PT Merantau Films
公式サイト youtubeリンク

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2014/11/11/19:34 | トラックバック (0)
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