インタビュー
熊切和嘉監督&近藤龍人撮影監督

熊切和嘉(映画監督)
近藤龍人(キャメラマン)

映画『ノン子36歳(家事手伝い)』について

公式

2008年12月20日より
銀座シネパトス、
ヒューマントラストシネマ文化村通り(シネ・アミューズ改め)、千葉劇場ほか全国ロードショー公開中

 熊切和嘉監督の新作「ノン子36歳(家事手伝い)」が素晴らしい。主演の坂井真紀は、熊切作品に数本出演しているが、その坂井真紀を念頭に置いて脚本が書かれただけに、坂井真紀も素晴らしい好演を見せている。若手の撮影監督では最も注目すべき逸材だと思っている、撮影の近藤龍人さんも同席してもらってインタビューを行った。インタビューの少し前に、ちば映画祭で『鬼畜大宴会』を初めてスクリーンで観たので、買った『鬼畜大宴会』(97)のパンフレットを持参するとお二人とも懐かしそうに見ていたのも印象的だった。二人が出会った作品から11年が経っているわけだが、その11年の歩みの成果が表れた傑作でもあるので、「ノン子36歳(家事手伝い)」は是非観てほしい。

熊切和嘉(監督/脚本)
1974年、北海道帯広市生まれ。大阪芸術大学の卒業制作「鬼畜大宴会」がPFFアワード97準グランプリ、イタリア・タオルミナ映画祭グランプリを受賞し、一般公開でもヒットを記録して一躍注目を浴びる。2作目の「空の穴」ではベルリン映画祭フォーラム部門などで上映。映画以外にも日本テレビの深夜ドラマ「トンスラ」の第10話なども手がける。
[他の監督作品]「アンテナ」(04)、「揮発性の女」(04)、「青春☆金属バット」(06)、「フリージア」(06)

近藤龍人(撮影)
1976年、愛知県生まれ。大阪芸術大学在学中に「鬼畜大宴会」にスタッフとして参加。その後、山下敦弘監督などの同期と短編をはじめ多くの作品を制作。CMやPVにも積極的に参加している。
[主な参加作品]「どんてん生活」(99) 「ばかのハコ船」(02)、「リアリズムの宿」(03)、「双子でDON」(05)、「かぞくのひけつ」(06) 、 「プライスタグ」(07)、 「天然コケッコー」(07)、「屋根の上の赤い女」(07)、「青空ポンチ」(08)、「ネコナデ」(08)、「ウルトラミラクルラブストーリー」(09)

熊切和嘉監督&近藤龍人撮影監督2――『ノン子36歳(家事手伝い)』(「ノン子」)、素晴らしかったです。先日、「ちば映画祭」で『鬼畜大宴会』を初めてスクリーンで観たのですが、ハードコアな意味で言えば「ノン子」は『鬼畜大宴会』と同じだと思いました。「ノン子」が年齢的にもう若くない女性をハードコアに描いたという意味でです。

熊切和嘉監督 そう言ってもらえて嬉しいです。「ノン子」は新たなデビュー作とも言える出来に仕上がったので、そういう意味では『鬼畜大宴会』と同じかもしれないです。

近藤龍人さん 『鬼畜大宴会』が初めて参加した映画なので、熊切監督と組むのは緊張しましたが、とても満足のいく出来に仕上がりました。

――赤犬の音楽もとてもいいですが、赤犬はどういう経緯で知ったのでしょうか?

熊切 赤犬のリーダーの松本章は同級生なので、昔は8ミリの自主映画に役者として出てもらったりしていて、鬼畜の撮影が終わった頃にたまたま章から電話があって、「今度こんな映画撮ってるんだけど、章、音楽やってくんない?」と何気なく話したろころ、「ええよ」と乗ってくれて、それ以来ずっと僕の作品の音楽をやってもらってます。

ノン子36歳(家事手伝い)1――実は、『青春☆金属バット』と『フリージア』があまり良い出来だと思えなくて、「『悪魔のいけにえ』のトビー・フーパーのように偉大な処女作の呪いにかかっているのかな」と思っていました。でも、人に薦められて観た前作の『揮発性の女』が良かったので、今作には期待していました。『揮発性の女』は良い出来なのに、観ている人が少ないのが残念です。

熊切 そうなんですよ(笑)。『揮発性の女』は公開規模も小さかったし、観ている人が少ないんですよ。このインタビューを読んでいる人にはレンタルででも是非観てほしいです。「ノン子」は、脚本を書いた宇治田と『揮発性の女』を撮ったときに考えたもう1本のプロットが元になっているんです。だから、僕らの中では当初、通称『揮発性の女2』と呼んでいました(笑)。

――近藤さんの撮影がすごくいいですね。『天然コケッコー』公開時にも近藤さんにはインタビューしましたが、いつも組んでいる照明の藤井勇氏との作業で、とても素晴らしい画面を作り上げていました。夜道でノン子が路上にあるものを蹴飛ばしていくシーンなど見事でした。

近藤 ありがとうございます。あの路上のシーンはうまく照明を仕込んであるのですが、藤井さんの技術も素晴らしくて、うまく撮ることができました。スタッフだけでなく、出演した俳優の方たちのモチベーションが高かったことも今作が良い出来になった要因だと思います。

熊切和嘉監督&近藤龍人撮影監督3熊切 近藤くんとは以前から組みたいと思っていたんです。山下くんと組んだ作品での撮影などとてもよかったからですね。近藤くんと組んだからこそ、「ノン子」は素晴らしい映画になったんだと思います。

――特に撮影が大変なシーンはありましたか?

熊切 低予算で撮影期間も短かったので、いろいろと大変なシーンはありましたが、坂井さん演じる主人公と星野源さん演じるマサルのラブシーンは大変でしたね。あのラブシーンの舞台になるノン子の部屋は本当に狭いんですよ。

近藤 あの部屋の狭さだと、俳優さんが演技するスペースを考えると、どこにカメラと照明を置くのかが大変でしたね。

熊切 あまりに狭いので、ノン子の部屋は別場所にセットを組もうかとも思ったんですが、あの部屋に行くたびに「ノン子の部屋として、この部屋はぴったりだ。ここで是非撮りたい」と思ってしまって(笑)、結局無理してでも撮ることにしました。

近藤 大変でしたけど、結果は良かったですね。

ノン子36歳(家事手伝い)2――熊切監督と、こちらは2回会っていて、1回目は『フリージア』のエキストラをした時、2回目は『TOKYO』でのレオス・カラックス監督編で熊切監督がメイキングを撮っている時でした。レオス・カラックスの現場を体験したことで影響されて、良い意味でふっきれて「ノン子」の出来につながったような気もしているのですが、いかがでしょうか? カラックスは『TOKYO』を観ても分かるようにかなりリスクを犯したことをやりきっていました。

熊切 はい、実はかなり影響を受けたと思います。でも、それは「ここまでやるんだ!」ってことではなくて、『映画監督も迷って当然なんだ』ってことを知ったことですかね。当然といえば当然のことなんですが。カラックスって準備中も、ロケハン中も、衣装合わせから何から、現場中も、ずっと迷っているんです(笑)。かなり優柔不断なんです。僕も職業映画監督となってから『監督が迷ってしまうとスタッフ全員が迷う』ので、現場では極力、迷いを見せないように僕なりに監督を演じたりもしていたわけです。演じきれていたかどうか微妙ですが……。
日本映画の現状、特に僕がやっているクラスの低予算映画では、予算と日数の関係で、ある程度は頭で想像して決断しなきゃいけない時があるのです。ですが、カラックスの場合は全て目の前に用意されないと決断出来ない、という感じなのです。 「頭で想像」の段階じゃなく、それが「実感」となるまで迷うというか。スタッフからは「レオスって想像力ないのかな?」とまで言われていました(笑)。でも、それはある意味正しいな、と思ったわけです。だから、僕も、現場での統率よりも、完成する映画のことだけを考えるようにしました。熊切和嘉監督迷っている時は、ちゃんと「迷っている」と周りに言うようにしました。考えたい時は、現場がストップしてでも考えるようにしました。そんな時、近藤君のように一緒にじっくり考えてくれるカメラマンは非常に非常にありがたかったですね。バリバリ叩き上げのカメラマンだったら、現場を成立させる為に、「どっちでもいいから監督が決めてくれ!」となりますから(笑)。それがカラックス組で影響を受けたことですかね。

――ありがとうございました。

取材/文:わたなべ りんたろう 写真撮影:内堀義之

ノン子36歳(家事手伝い) 2008年 日本
監督:熊切和嘉 脚本:宇治田隆史
音楽:赤犬 主題歌:「太陽のラ」PoPoyans(Good Records)
製作:安西崇,石井徹,日下部孝一 プロデューサー:小林智浩,佐藤現,日下部圭子
企画:木村俊樹 撮影:近藤龍人 照明:藤井勇 録音:吉田憲義
美術:古積弘二 編集:堀善介
出演:坂井真紀,星野源,津田寛治,佐藤仁美,新田恵利,宇津宮雅代,斉木しげる,鶴見辰吾
(C)2008 「ノン子36歳(家事手伝い)」Film Partners 
公式

2008年12月20日より銀座シネパトス、
ヒューマントラストシネマ文化村通り(シネ・アミューズ改め)
千葉劇場 ほか全国ロードショー

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監督:熊切和嘉
出演:三上純未子, 澤田俊輔, 木田茂
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発売日: 2002-06-25
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2008/12/28/20:56 | トラックバック (0)
わたなべりんたろう ,インタビュー
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