原作は、「ジンバルロック」「チェリーボーイズ」(ともに青林工藝舎) など童貞を主人公とした青春漫画の佳作で知られる古泉智浩が「ヤングチャンピオン」(秋田書店)誌上に連載していた同名漫画。 若いプータロー男と巨乳のアル中女が金属バット片手に強盗行為を繰り返す、という内容だ。それを映画化するのが、『鬼畜大宴会』 の熊切和嘉だというのだから、さぞ陰惨な描写が頻出するだろうと思いきや……。拍子抜けであった。 作品全体にまるで学生映画のように緩い空気が流れ、「どうしようもねえ奴らだなあ、ったく」 と苦笑しながらスクリーンを眺めているうちにジ・エンド。しかし、鑑賞後には不思議な充足感が残る。
元甲子園球児(ただし補欠)のバナンバこと難馬(竹原ピストル)は、27歳になった現在も安アパートで暮らしながら、
コンビニバイトを続ける毎日。友達もおらず、バイト仲間の女子高生(佐藤めぐみ)からは「キモい」と疎んじられている。
そんな彼の唯一の目標は、究極のスイングを体得すること。そのため毎日の素振りとバッティングセンター通いだけは怠らない。
ある夜、バナンバは、泥酔して他人のクルマをボコボコ蹴飛ばしていた巨乳女・エイコ(坂井真紀)
を発作的に連れ去り、なしくずし的に同棲生活が始まる。ところが昼夜問わず酒を呑み、
野球中継を観てはヤジを飛ばすエイコにバナンバは振り回される一方。やがて酒を買う金さえなくなった2人は、
不良高校生や仕事帰りのOLを金属バットで脅して金を奪う。
近所の交番に勤務する石岡巡査(安藤政信)は、ひょんなことから2人を発見するが、実は彼はバナンバの高校時代の同級生だった……。
この映画を一言で表すとすれば、“ダメ人間たちの見本市”である(何だか筋肉少女帯の名曲
「踊るダメ人間」を思い出してしまった)。
バナンバとエイコは、『俺たちに明日はない』のボニー&クライドや『ナチュラル・ボーン・キラーズ』
のミッキー&マロリーのようなアンチ・ヒーローとして脚光を浴びることはおそらく生涯ないだろうし、
ましてや格好良く生きようとする美学なんてあらかじめ持っちゃいない。だから、彼らには現状に対する問題意識というものもまったくない。
エイコが「このままではダメだ」と口走る場面があり、あ、こいつらもやっぱり問題意識を抱えているのか、と一瞬思うのだが、続く
「アンテナつけて」という彼女の言葉(つまり、このままではTVの映りが悪いのでダメだ、という意味だったのだ)で、
やはりこいつらにはその場しのぎの快楽しかないことが分かる。
かつては甲子園のエースだった石岡にしても、妻(江口のりこ)を性欲を解消するための道具としか思っておらず、
万引きをして捕まった美人妻に「パンツを見せろ」と迫るようなアホ野郎である。そして案の定、
妻が自分に愛想を尽かして他の男のもとへ走っても、そこから何ひとつ学習しようとはしないし、できない。
ただひたすらに身勝手な欲望(願望)だけを肥大させ、現実から逃避するのみ。そして、その鬱積した負のエネルギーが時として暴力的、
破壊的に炸裂する。これぞまさしく“童貞パワー”である。
熊切は、この“童貞パワー”を備えた主人公に野狐禅のボーカル&ギタリスト、竹原ピストルを起用した。これが大正解。
おそらくバナンバのキャラクターは、大学卒業後、親を騙して金をせびり、バイトもせずにだらだらと毎日を過ごしていたという竹原の心象に訴える部分も大きかったのだろう。
台詞こそ少ないが、フレームに収まった竹原の風体そのものに負のオーラがべったりとまとわりついているのだ。
坂井真紀は、TV「ココリコ ミラクルタイプ」でのブチキレ演技を経て一皮剥けたようでこれまでにない魅力を発揮しているし、安藤政信も
『キッズ・リターン』以来の無気力な青年像を好演している。
そうそう、“ベーブ・ルースの息子”役で登場する若松孝二のショボクレぶりも必見。
(2006.8.21)
(C)2006 古泉智浩・秋田書店/日本出版販売/ ビクターエンタテインメント
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