向井康介(脚本家)
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わたなべりんたろう
「HotFuzz」劇場公開を求める会主宰)
映画『ダウト』について&ヒップホップに関して
◆「ダウト」を見て
◆脚本家向井康介及びヒップホップ
◆日本映画に関してなど
「レボリューショナリー・ロード」を荒井晴彦さんと対談した第一回に続く、脚本家と一つの映画に関して対談するシリーズの第二回は向井康介くんと行った。対象になった作品は映画「ダウト」。思わぬヒップホップ談義にも途中なったが、興味深い内容になったと思う。
向井康介(脚本家)
1977年、徳島県生まれ。大阪芸術大学で山下敦弘と知り合い、二人で共同で脚本を書き始める。「鬼畜大宴会」、「どんてん生活」、「ばかのハコ船」、「リアリズムの宿」では照明、「悲しくなるほど不実な夜空に」、「ばかのハコ船」では撮影(共同)、「どんてん生活」では編集(共同)も手掛ける。代表作品:「どんてん生活」、「ばかのハコ船」、「リアリズムの宿」、「青い車」、「リンダリンダリンダ」、「松ヶ根乱射事件」、「神童」、「俺たちに明日はないッス」、「ニセ札」、「色即ぜねれいしょん」など
<日本映画に関してなど>
わたなべ さて「ダウト」ですけど、アフロアメリカンのお母さん、味ありますよね。2回しか出てこないけど。
向井 それでもすごく残りますからね。アフロアメリカンというのもあるんだろうけど。
わたなべ 2回目のときなんて、座ってるだけでしゃべらない。それでもアカデミー賞にノミネートですから。
向井 すごいですよね。
わたなべ ホフマンとエイミー・アダムスが外で話すシーンもいいですよね。
向井 いいですよね、タバコ吸いながら。
わたなべ この映画は話をどう転がすのかなって視点で見るじゃないですか。オチも含めて。荒井さんに見せたら「別にゲイとか古いよ、ナゾ解きものとして古い」と。そこが今作のやりたかったことじゃないとは思いましたが、ばっさりと言われました(笑)。
向井 ハハハっ、そうだね、荒井さんははっきりしていますね。
わたなべ 荒井さんは忙しそうですね。ぜんぜん会ってなくて、次の「映画芸術」ができたら、その打ち上げで会えるのかな。次号の「映画芸術」で何か書きました?
向井 青春映画の特集と「アバンチュールはパリで」を書きました。
わたなべ 「アバンチュールはパリで」は男と女で評価がばっさり分かれますよね。
向井 そういう映画ですよね。
わたなべ 女から見ると男がずるすぎるっていう。ホン・サンスの映画はいつもそこが面白いんだけど。
向井 勝手な男っていう。そりゃそうだけど(笑)。
わたなべ 恋愛映画を誠実につくったら面白くないでしょう。ウッディ・アレンを見ればわかるけど。それを分かってやってるわけじゃないですか。
向井 男の視点から見ると、あの女も勝手な女に見えますよ。お互い様でしょ、それが本音でしょ、こういうことでしょ恋愛って、ということですよね。
わたなべ なのに、思ってない通りの映画になってないとダメだって人、多いですよね。作り手の意図を見ない人が。
向井 作り手よりも、キャラクターに感情移入しすぎですよね。だから自分の考えからそれていくとダメっていうふうになる。この状況でこういうことを言うのはありえないとか、ウソっぽくてそこで冷めたとか。いやいやそうじゃなくてさ、そこを、ウソっぽくあえてしているのをなんで読み取ってくれないんだ、っていうのはある。そう思わせられなかった作り手が悪いと言われれば、もうなんとも言い返しようがないんだけども。
わたなべ あえてやってるかどうかを分かってほしいし、ウソっぽいと思ったら、なんでそう感じたのかを考えてほしいですよね。突きつけられたものに対して、自分の理解の幅を広げられるかどうかで映画の見方は変わるわけだから。
向井 本格的に映画を見はじめたのは高校、大学でしたけど、映画を見て分からなかった場合、俺が悪いんだと思ってましたからね(笑)。理解しようとしないといけないって。今、そういうふうな見方ってされないですよね。
わたなべ 分からない=だからダメだって。
向井 もうそうなっちゃうじゃないですか、簡単に。分からない=面白くないになっちゃう。もったいないなって思いますよね。
わたなべ 映画ってアートだけど、アートっていっても商業性も強くあるのが面白いと思う。分かる、分からないじゃないんですよね。分からないものも、一度自分の中にいれる。音楽なんて聴き始めは分からないことだらけだったのと同じように。
向井 分からないところは考えて、各々の想像力で答えを出していっていいと思うんです。正解はひとつじゃない、観た人それぞれが持ってるんですから。
わたなべ 日本映画を見てると何重にも説明してくれますからね。シーンの描写でも台詞でも音楽でも。やめようよって思うんだけど、悪い意味でのテレビじゃないんだから。
向井 合わせようとするんですよね、作り手が。お客さんに理解されないってことが怖いんですよ。
わたなべ この間、東映のテレビなどを書いてる脚本家の人と話したんですけど、制約ばかりでたいへんみたいですね。作り手だとプロデューサーで脚本を読む能力があまりないような人がいる。だからテレビのプロットって動きまでベタで全部書いたりするわけですよね。普通に言うところのプロットじゃなくて、脚本よりも丁寧に書いてあるストーリー紹介になっている。そういうプロットはいくつも書かされて疲れ果ててしまう脚本家も出てくる。
向井 厳しいですよね。
わたなべ だから逆にそこでやってる人は本当にすごいなって思いましたね。
向井 たいへんですよ、テレビでやってる人は。
わたなべ みんなすごい苦労して現場と戦っているんですよね、プロデューサーだけでなく、俳優とその事務所とかと。
向井 もちろん戦ってるでしょうね。
わたなべ ただ当然そんなことは見る側には分からないわけで。ただつまらないだけで終わっちゃう。しょうがないといえば、しょうがないけど発展性があまりにない。でも今ってアメリカのテレビドラマが流行ってるけど、それはいいことだと思うんですよね。しっかり脚本が作られてるあの世界に基準が合ってくれば進化はあるかなと。やはり日本で脚本家としてやっていくのは大変?
向井 ………そうですねぇ、大変ですね。
わたなべ どう生き残ればいいんですかね。数をやるのかいいものを書くのか。
向井 どうなんですかねぇ。必死ですよ。ほんとに。だって、不況の時勢柄か、企画の話が減りましたしね。でも今は「色即ぜねれいしょん」と「ニセ札」と、ちょっと他人の色の強いものが続きましたから。それで得たものもあるんで、次の山下組で、ノブとは3年ぶりに撮るんですけど、ここをまずはしっかりやらなければと思いますね。
わたなべ 山下向井コンビの作品は、もう3年も撮っていないんだ。携帯ドラマやWOWOWで山下向井コンビの作品があるので、そんな印象はあまりないけど。
向井 イメージはないですよね。
わたなべ 日本では今撮ってない人がいっぱいいますよね、「NANA」の大谷監督とか「フラガール」の李監督とか。行定監督は2本撮りましたよね。「今度は愛妻家」とか。まだ観てないで言っていますが、今こういうのって企画通りやすいじゃないとかとも思うんです。年配ものっていうのかな。「引き出しの中のラブレター」とか。
向井 団塊に向けてるんでしょうか。
わたなべ ヤンキーものも企画が通りやすいみたいですね。
向井 「パッチギ」以降そうなのかな(笑)。最近では「クローズドゼロ」とか。
わたなべ そういうヤンキーものや団塊向けみたいな企画は向井くんにこない?
向井 ないですね。やりたいですけどね、大人の恋愛もの。もう童貞ものは卒業してね(笑)。この間、「童貞放浪記」のパンフレット用に対談したときにも「童貞ものはもういいです」と言いましたから(笑)。まず今はノブとの新作に集中して、それが終わればオリジナルをやりたいなって思いますね。願わくば、人の人生を変えてしまうような作品を作りたいですよね。俺自身がそうだったから。あれを見て、僕は映画の世界を目指しましたという、そんな作品が手がけられたら、あとはもうなんにも言うことないです。
わたなべ 楽しみに待っています。今日はありがとうございました。
文:わたなべ りんたろう 協力:小山内隆
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