大石 規湖 (監督)
映画『MOTHER FUCKER』について【4/7】
2017年8月26日(土)~9月8日(金) 渋谷HUMAXシネマ
他 全国順次公開
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――共鳴くんは、自分のバンドのチーターズマニアの練習のときなどに泣き出しちゃったりするので、「小学生にこの生活は大変だなあ……」と思っていたんですけど、デビューライブを終えたあと「次をやりたい!すぐにやりたい!」と興奮して喋っているときの顔がYUKARIさんにそっくりで。これを見たら何も言えないなあと。
大石 そうですよね。血を引き継いでいるなあと。成功体験になっていたのかはわからないけど、あの歳であんなに「やったぞ!」って思えることってないじゃないですか。学校で教えてもらって勉強ができるようになりました、というのとは違って、自分で探して、自分で泣いて、それで掴んだもの。共鳴くんにしか味わえないあの体験というのは大きいですよね。
――バンドも共鳴くんから言い出してやっていることなんですよね。映画にも出てきますが、歌詞を自分で作ったりして。
大石 ライブのブッキングとか、誰と一緒にライブをやろうかというのも共鳴くんが全部考えていて、オファーの電話とかも共鳴くんが自分でしているんですよ。バンドのメンバーが一応サポートして、ちょっと難しいところだけ手を貸すんですけど、共鳴くんがしたいということをギリギリまで共鳴くんにさせているんです。子供だからと言って全部お膳立てする形ではないところもバンドになっているなと。私はYUKARIさんも谷ぐちさんもついていってはいないチーターズマニアの練習スタジオにも同行したんですけど、練習風景も、子供が相手だったら「ここはこうしたほうがいいよ」とかこと細かに言ってもおかしくないじゃないですか? そうじゃなくてバンドメンバーとして「ここでジャンプしようぜ!」とか声をかけて、それで共鳴くんがノッてくると声も出るし。YUKARIさんと谷ぐちさんだけではなく、まわりにいるみんながバンドメンバーとして子供じゃない扱いをしているんですよね。
――そう、子供としては見ていないんですけど、そうやって共鳴くんがノりやすいように声をかけてくるというのは、人を見て共鳴くんに合った接し方をしているっていうことですよね。映画の中では谷ぐちさんたちLess Than TV関係者の障がい者介助の仕事のことも描かれるんですが、それもそういうことだと思いました。やっぱりひとりひとりを見て接していると。
大石 そうですね。「子供だったらこうすればいい」という決まり切ったもので相手に接していないんですよね。谷ぐちさんの一家もそうだし、Less Thanまわりの人たちと過ごしてすごく感じたのは、ステレオタイプなものの見方をしない人たちだなと。女性で映像の仕事をしていると、現場が男性ばかりで「ああ、女の人が映像やってるのね」とかナメられたり、肩書とかでものごとを見るような人が結構いたりするんです。だけどそういうのがまったくなくて、男だから、女だからとかいうのもないし、そういうステレオタイプなところで人を見ない。ちゃんと話して、その人なりの接し方、関係の築き方を作っていく感じがして。カメラを持ってこの人たちの間に入っていってそれを感じました。カメラを持っていることによっても1枚隔たりを持たれることが多くて、そこをどう突破しようか?というのも最初の現場ではあるんですけど、谷ぐちさんたちと一緒にいろんな地方にも行って、地方ではホテルとかではなく友達の家だとかに雑魚寝するんですけど、カメラを持っていても警戒されることがなくて、「一緒にご飯食べに行こうよ」とか、そこの家の子供から「一緒にお風呂入ろうよ」とか言われたりして。谷ぐちさんと一緒にいるカメラの人だと思ってくれたからなのかもしれないですけど、それぐらいLess Thanまわりの人って偏見とか壁とかを作らずにちゃんと対峙してくれるんです。そういうのが今までの私の生活になかった気がしたんですよ。あったかもしれないけど、こんなに全員が全員フラットに接してくれることはないなあと。
――多分それはみんなにもそういう思いがあるからなんだろうなと。映画の中でどなたかがそういうお話をされていましたよね。障がい者の介助のお仕事についてのお話の中で。
大石 ああ、五味(秀明/THE ACT WE ACT)さんですね。
――はい、「バンドをやっていると人からわかってもらえないという経験があって、障がい者の方たちとわかってもらえなさが共通するのかなと思う」ということを言われていました。
大石 「どうして介助の仕事をしているパンクやハードコアの人が多いのだと思いますか?」という質問に対する答えがそれだったんです。「障がい者の人たちって、最初は怖いと思われたり、受け付けないという反応をされることも多くて、ハードコアの人たちも怖いと思われがちで、そういうところも似ていますよね」とも言っていました。それを聞いて私も「ああ!確かに」と思いました。どこかで私にもそういうところはあったんです。人がどんな部分で隔たりを感じるかというのは人によっていろいろあると思うんですけど、私は女性で映像の仕事をしているというところで「人にわかってもらえない」というのがあったから、五味さんが言っていることもわかったし、この人たちに共感できる部分があったのかなと思いました。
出演:谷ぐち順、 YUKARI、谷口共鳴(ともなり) 他バンド大量
監督・撮影・編集:大石規湖
企画:大石規湖、谷ぐち順、飯田仁一郎 制作:大石規湖+Less Than TV
製作:キングレコード+日本出版販売 プロデューサー:長谷川英行、近藤順也
配給:日本出版販売 © 2017 MFP All Rights Reserved.
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