ヒュー・ボネヴィル (俳優)
公式インタビュー
映画『英国総督 最後の家』について【1/2】
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新宿武蔵野館にて公開中、全国順次ロードショー
1947年、独立前夜。混迷を深める激動のインドを舞台に、主権譲渡のため任命された新総督のマウントバッテン卿夫妻を軸に、歴史に翻弄された人々を鮮やかに描いた人間ドラマ『英国総督 最後の家』が8月11日(土・祝)より新宿武蔵野館ほかで公開されている。ぴあ映画初日満足度ランキング1位を獲得するなど、重厚な歴史ドラマとしても見応え十分の本作で、インド・パキスタンの分離独立に深く関わったマウントバッテン卿を演じたヒュー・ボネヴィルの公式インタビューをお届けする。
1947年の6か月間、ルイス・マウントバッテン(ヒュー・ボネヴィル)は、英国領だったインドを返還する為に、最後の総督の役職を引き受けた。彼は妻と娘と共に2階に、下の階には500人のヒンドゥー教徒、イスラム教徒、シク教徒の使用人が住んでいた。2階では政治のエリートたちが、インド独立の論議を行い衝突、世界に多大な影響を与える歴史的な決断がなされようとしていた。彼らはインド植民地をインドとパキスタンという二つの国家として分離独立させ、人類史上もっとも大きく急激な民族大移動を引き起こした。
――『英国総督 最後の家』は監督のファミリーヒストリーを元にしたリアルなストーリーですが、役のオファーがきたときの感想を聞かせてください。
H・ボネヴィル まず、役の話を頂いた時は、このマウントバッテン卿と僕は似ても似つかないと思いました。仮にエレベーターに顔を挟んだとしても、ああいう面長な顔にはならないと、これはご本人(マウントバッテン卿)の娘さんにも言ったのですが、あなたのお父様は映画スターのような非常にハンサムな方ですが、僕はそうじゃないから、いかがなものかと思っていました。監督からは別にこのマウントバッテン卿を真似できるような人、あるいはルックスが似ている人を探しているわけではなくて、その精神性を表現できる、そしてそのストーリーを語ることができる人を探しているというお話を頂きました。
――これまでイギリス人として歴史上の人物として思い描いていたマウントバッテン卿と、本作が描くマウントバッテン卿というのは、同じ印象でしたでしょうか。それとも違いましたでしょうか。
H・ボネヴィル 僕らの世代は、マウントバッテン卿はイギリス領インドの最後の総督であった、これは皆知っていることで、そして彼は王族の中でもかなり重要な立ち位置にいて、たとえばフィリップ殿下を今のエリザベス女王(2世)に紹介する役目を果たした、ですとか、イギリスの王族の中でもとても際立ったある種煌びやかな存在で、父親的な存在でした。またチャールズ皇太子の好きな大叔父であったということもありますし、そういったイメージは昔からありましたが、彼が第二次世界大戦の最中にどういった仕事をしていたかなどはもちろん詳細には知りませんでしたし、そのインド統治の終盤でどういった仕事をしたのかは知らなかったので、その資料を読み進めていく中で、この時期、この時代にはこういった時代の一幕があったのか、この人はこういう人だったんだと改めて見えてきました。
――チャーダ監督は、徹底したイギリス的な礼儀正しさと公正さを具現化した男性としてマウントバッテン卿役にボネヴィル氏をキャスティングされたそうですが、脚本を読まれて、クランクインまでにどのような準備をされましたでしょうか。
H・ボネヴィル この人物に関しては、正直に申しあげると、資料を読めば読むほど分からなくなってくるんですね。そういう準備の過程の中で思い知ったのは、“やはり歴史には一つの客観的な事実というのはないんだ”ということだと思います。ある物語やある歴史的事実を色んな人が語っている訳ですが、その人がシンさんっていう人であったり、ジョンストンだったりパテルだったり、色んな人が書くわけですけれども、その書く人によって色んな視点があったり色眼鏡で語られるわけですから、分からないものだと思うのですが、マウントバッテン卿に関しても然りで、彼がどういったアイデンティティを持った人なのか、やはりなかなか紐解くのが難しく、人によっては「あの職には就くべき人でなかった」「能力は十分になかった」という人もいたり、あるいは「あんなとてつもない状況に投げ込まれて、ベストを尽くしたんだ」っていう人もいたりで、やはり真実がどこにあるのか分からない。ただ役者として意識するのはやはり、人となりがどうたったのかというところなんですけれど、これに関してはご遺族の方とお話しをしましたし、総督を務めたあとの晩年のホームムービーを見せてもらったりしたんですけれど、そういうところから色んな特徴をつかんだりしました。一つわかるのは、非常に虚栄心がある方なんですね。プライドがとても高い方なんです。そして、考えるよりもまず行動だ、という主義を貫いた方。僕に言わせるならば、彼はベストを尽くしたんだと思います。劇中でも誰かが言っていますが、「インドは既に燃えたぎる船なんだ」と。そういう中でベストを尽くしたんだと思います。彼が戦時中に愛用していた帽子を、僕も被ってみると、娘さんがアングルを直してくれるんです。お父さんはちょっとこう斜めに被る癖があったと。その方が映画スターっぽいからということで。
ここで歴史的に一番意識しなければならない重要なことは、あの時点まで英国の占領下にあったインドは、様々な派閥に分かれていたわけですが、ムスリム連盟がジンナー、あるいはネルーがいたりして、その三者あるいはその三派が一緒になって話すということがそれまではなかったんです。だから彼がその三派をとりもつことができた初めての人だということ、これは大事なことだと思います。ただ、解決策は他にあったんじゃないか、とか、分離独立は少し早まったのではないかという声はあるにはあると思います。
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監督・脚本:グリンダ・チャーダ(『ベッカムに恋して』)
出演:ヒュー・ボネヴィル、ジリアン・アンダーソン、マニーシュ・ダヤール、フマー・クレイシー、マイケル・ガンボン
2017年|イギリス|カラー(一部モノクロ)|2.39 : 1|106分|5.1ch|英語、パンジャービー語、ヒンディー語|日本語字幕:チオキ真理
原題:Viceroy’s House|配給:キノフィルムズ/木下グループ|後援:ブリティッシュ・カウンシル
© PATHE PRODUCTIONS LIMITED, RELIANCE BIG ENTERTAINMENT(US) INC., BRITISH BROADCASTING CORPORATION, THE BRITISH FILM INSTITUTE AND BEND IT FILMS LIMITED, 2016
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