五十嵐 匠 (監督) 映画『二宮金次郎』について【5/5】
2019年6月1日(土)より東京都写真美術館ホールにて公開ほか全国順次公開
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――撮影でこだわったことはありますか?
五十嵐 本作品はある意味田んぼと土が主人公というところがあるんです。最初に考えたのは、土の目線で人間ドラマを描くということをやりたいと。それをカメラマンの釘宮さんに話し、土が人間の笑いや悲しみを見ているというふうにするにはどう撮るか?というのをかなり話し合いました。だから俯瞰のアングルがあまりないんです。雨のシーンをローアングルで撮っているのは、土が主人公になっているからです。また、五平が土を握るところとか、夕陽の中、なみがやってくるロングショットで手前に土をナメているのは意識してやっていますね。
――とても雄弁な映像だと感じました。また、時代劇ではあるんですが、現代にも通じる問題もたくさん見出せますね。金次郎と豊田の対比はリーダー論としても興味深いです。
五十嵐 そうですね。あとは、深谷さん(=筆者)は福島出身だそうですが、原発事故で被災した大熊、浪江、南相馬、相馬、飯館という旧相馬中村藩の5ヶ所は、金次郎の一番弟子の富田高慶が何十年もかけて復興させた場所なんですよ。高慶は『報徳記』という金次郎の伝記も書きました。それほど金次郎の仕法で一生懸命復興させた場所が、原発事故で丸々ダメになった。僕はその市長と村長に会って上映させてほしいと話しています。人口がすごく減ってしまって。
――悔しいですね。せっかく復興させた土地がその1発でダメになってしまった。でも今また復興を目指しているときに、この作品は教えになることが多いと思います。今この作品が作られたことにはすごく意味がありますよね。
五十嵐 よく言われるのは「今どうして二宮金次郎なんだ?」と。説教くさいとか教育的だとか言われるんですけど、そうじゃなく、今だからと思っています。
――今に重なる問題が他にもたくさんありますよね。江戸時代のような身分制度はなくなりましたが、現代も格差がものすごくあって、貧しい人はそこから脱することができません。
五十嵐 そうなんです。地盤がなくなっちゃっている。
――でも制度として士農工商とはっきり分けられていた時代に、それを乗り越えようとしていた人がいたというのはとても勇気づけられることだと思います。
五十嵐 本来そうあるべきなんですよ。
――監督は様々な時代の伝記映画を撮られてきていますが、現代で撮ってみたい人物はいますか?
五十嵐 僕は東北から誰か出てくるんじゃないかなと思っています。大震災があって、その中から、ヒーローではないけれど金次郎のような人が出てくるんじゃないかなと。人の痛みというのは、悲しみを経験した人にしかわからないところがあって。東北、あるいは熊本、兵庫・大阪から突然あらわれるように思っています。今は政治家も画一的というかサラリーマン的になっていて、田中角栄さんのような人は出てこないじゃないですか。金次郎の底に何があるかというと、幼いころの貧しさなんですよ。中流農家で貧乏ではなかったんですけど、川の氾濫で家を流され、両親が亡くなって、兄弟が離れ離れになり、どうしようもない状況を経験しているんです。それが軸にあるから歳をとってもブレない。そういう人が出てこないと、なかなか社会は変わっていかないと思いますね。人間の底というのはすごく薄いから、それがどっしりとある人じゃないと難しいと思います。震災という大きな経験をした人の中からあらわれるんじゃないのかなと。
――そうですね。そんな人物があらわれることを願っています。また、大変な経験をした人たちにもこの映画を観てほしいと思います。たくさんの方に届いてほしいですね。
五十嵐 はい、福島でも全国でも上映しようと思っています。今のところ、この映画を応援してくれるのはやっぱり年代が上の人が多くて、クラウドファンディングのサポーターも、メールアドレスを持っている人が少ないんです。でも中学生も観てくれたらすごく興味を持ってくれましたし、ネットの口コミなどで広がっていけばいいなと思っています。あと、今英語字幕版とバリアフリー版を作っていて、これから中国語版も作ります。今中国で金次郎の人気が高いんですよ。北京大学などで研究されています。今までは爆買いでやっていたけど、金次郎の「分度」という身の丈に合った生活をしようという提唱が見直されているんです。
――金次郎の精神が世界中に伝わっていくよう応援しています。どうもありがとうございました。
( 2019年5月14日 渋谷で 取材:深谷直子 )
火・水・日 10:30~、 14:00~/木・金・土( 22日(土)を除く)10:30~、14:00~、18:30~
<初日舞台挨拶決定!> 6月1日(土)14時からの回上映後@東京都写真美術館ホール
登壇者:合田雅吏、田中美里、成田浬、犬山ヴィーノ、榎木孝明、五十嵐匠監督(予定)
全席指定。当日午前10時より、その日の全ての上映回について受付を開始。詳細は劇場及び「二宮金次郎」公式HPまで
<英語字幕付きバージョン上映>
6月7日(金)、6月14日(金)、6月21日(金)、6月28日(金)18:30~の回@東京都写真美術館ホール
<UD Cast方式による音声ガイド対応上映>
6月23日(日)~6月28日(金)(24日(月)休館日を除く)の上映回@東京都写真美術館ホール 二宮金次郎 (2019 / 日本 / カラー / 113分 / アメリカンビスタ( 1:1.85)/ 5.1ch)
出演:合田雅吏,田中美里,成田浬,榎木孝明(特別出演),柳沢慎吾,田中泯,犬山ヴィーノ,長谷川稀世,
竹内まなぶ (カミナリ ),石田たくみ (カミナリ )
監督: 五十嵐匠 脚本: 柏田道夫 原作: 「二宮金次郎の一生」(三戸岡道夫 栄光出版社刊)
音楽: 寺嶋民哉 プロデューサー:永井正夫 撮影:釘宮慎治 照明:山川英明 美術:中澤克己
録音:瀬川徹夫 編集:宮島竜治 衣装:大塚満 メイク:宮本真由美 助監督:羽石龍太郎
製作: 映画「二宮金次郎」製作委員会 協力:全国報徳研究市町村協議会 製作プロダクション:株式会社ストームピクチャーズ 配給:株式会社映画二宮金次郎製作委員会 © 映画「二宮金次郎」製作委員会
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