インタビュー
五十嵐匠監督/『二宮金次郎』

五十嵐 匠 (監督)
映画『二宮金次郎』について【1/5】

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2019年6月1日(土)より東京都写真美術館ホールにて公開ほか全国順次公開

小学校の校庭にあった薪を背負って本を読む少年像で、日本人ならおそらく誰もがその名を知る二宮金次郎。苦しい境遇に立ち向かって勉学を志す健気さや勤勉さばかりが子供の手本として尊ばれ、その後の功績に光があたらなくなってしまったが、郷土では今も敬愛される農村復興の立役者である。映画『二宮金次郎』は、型破りでパワフルな革命家・金次郎の真の姿とともに、名もなき農民たちの声をも伝える、伝記を超えた熱いエンターテインメント作品だ。年貢に苦しみながらも現状を脱する術を知らない貧農を、泥まみれになって導き、ともによりよい世界を作り上げる。力強いリーダーがまた必要とされる今、ぜひ観てほしい。メガホンを取ったのは『地雷を踏んだらサヨウナラ』『長州ファイブ』の五十嵐匠監督。金次郎の足跡をコツコツとたどり、その思想に共鳴した合田雅吏、田中美里ら名優とベテランスタッフ、多くの支援者とともに完成させた映画についてお話をうかがった。 (取材:深谷直子)
五十嵐 匠 1958年青森県生まれ。'96年にはピューリッツァー賞カメラマン沢田教一の軌跡を追ったドキュメンタリー映画『SAWADA』で毎日映画コンクール文化映画部門グランプリ、キネマ旬報・文化映画グランプリなど数々の賞を受賞。『地雷を踏んだらサヨウナラ』('00浅野忠信主演)、『長州ファイブ』('07松田龍平主演)、『半次郎』('09榎木孝明主演)、『十字架』('15小出恵介、木村文乃主演、重松清原作)などを監督。国内外で高い評価を得ている。
STORY 幼い頃、両親が早死にし、兄弟とも離れ離れになった二宮金次郎――。青年になった金次郎(合田雅吏)は、文政元年(1818年)、小田原藩主・大久保忠真(榎木孝明)に桜町領(現・栃木県真岡市)の復興を任される。金次郎は、「この土地から徳を掘り起こす」と、”仕法”と呼ぶ独自のやり方で村を復興させようとするが、金次郎が思いついた新しいやり方の数々は、金次郎の良き理解者である妻・なみ(田中美里)のお蔭もあり、岸右衛門(犬山ヴィーノ)ら一部の百姓達には理解されるが、五平(柳沢慎吾)ら保守的な百姓達の反発に遭う。そんな中、小田原藩から新たに派遣された侍・豊田正作(成田浬)は、「百姓上がりの金次郎が秩序を壊している」と反発を覚え、次々と邪魔をし始める。はたして、金次郎は、桜町領を復興に導けるのか?
五十嵐匠監督画像1
――二宮金次郎というと、小学校にあった子供時代の銅像がすぐに浮かんでくるのですが、何をした人なのかはそういえばよくわからなくて。600以上の村の復興をなしとげ、しかも人間味のある方だったことがわかる本作を面白く拝見しました。なぜ二宮金次郎の映画を作ろうと思ったのですか?

五十嵐 前作の『十字架』(15)を茨城県の筑西市で撮影したとき、教育長さんから、筑西市は以前は下館市といい、二宮金次郎が復興させたのだということをお聞きしました。僕も幼いころ薪を背負っていた金次郎像しか知らなかったので、二宮金次郎と復興とが結びつかなくて、興味がわいて金次郎が生まれた小田原に行ってみました。そうしたらそこには立派な尊徳記念館が立ち、そのそばには生家もあるし、成人した金次郎像もあって。身長185センチ、体重95キロの大男の像で、子供時代のように本を読んでいるのではなく、帳面を開いて筆を持っているんです。回村といって村々をチェックしているところなんですね。二宮金次郎が油を取るために菜の花を植えた場所もあるし、そのそばには捨てられていた苗を植えて一俵の米を作ったところもある。お墓もあって、要するに”二宮宇宙”がまだあったんです。

――地元では今も敬愛されているんですね。

五十嵐 小田原の小中学校でも金次郎さんについて教育していて。映画の最後に子供たちが二宮金次郎の唱歌を歌っていますけど、あれは地元の小学校の生徒が歌っているんです。

――そうなんですか。監督も調べていくうちにどんどん魅力にとりつかれて。

五十嵐 はい、1年半ほど調べていました。日光に行ったら、170年前に金次郎が作った「二宮堀」という用水路から今でも田んぼに水を引いているんです。あちこちに宇宙があって、面白いなあと思いました。あと、この映画にも出てくるけど、村人が本当に仕事をしているかどうかチェックする「覗き穴」も残っていて、覗いてみるとちゃんと見えるようになっていた。それを見たときに二宮金次郎という人間を感じ、「これは映画になるかもしれないな」と思いました。実は最初はそこまで興味がなかったんですが。

――面白いエピソードですよね。こんなことまでしていたのか?という。

『二宮金次郎』画像五十嵐 そうですね、偉人とはちょっと違ってクセがある人という感じ。自分に似てクセのある人が好きです。

――(笑)。今までの作品で取り上げてきた人たちもそうやって選んでいたんですか?

五十嵐 そうですね、『地雷を踏んだらサヨウナラ』(99)の一ノ瀬泰造も、『みすゞ』(01)の金子みすゞも、とりわけ『アダン』(05)の田中一村という奄美大島で亡くなった日本画家がそうなんですが、人を巻き込んで自分の好きな道を突き進む人間に興味があります。映画監督もそういうところがあって、今までにまわりの人をどれだけ泣かせたか(笑)。そこがダブるんですね。

――(笑)。二宮金次郎の生涯を調べられた中で、青年時代を映画にしたのはなぜですか?

五十嵐 映画にした桜町領(現・栃木県真岡市)は復興がいちばんうまくいったところなんです。復興させた600以上の村々のうち、大きなところは一人では難しく、小田原藩主・大久保忠真が亡くなってから金次郎はやはりなかなか苦労しました。だけど桜町領ぐらいの規模だったら金次郎一人でもなんとかできた。いちばん輝かしい金次郎のやり方をドラマとして見せられるのは桜町領だろうと。さらに豊田正作という異物が入ってきて確執が生まれる。豊田は侍、下級武士で、金次郎は百姓上がりですから格差の問題があって、これは映画になるなと思いました。

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二宮金次郎 (2019 / 日本 / カラー / 113分 / アメリカンビスタ( 1:1.85)/ 5.1ch)
出演:合田雅吏,田中美里,成田浬,榎木孝明(特別出演),柳沢慎吾,田中泯,犬山ヴィーノ,長谷川稀世,
竹内まなぶ (カミナリ ),石田たくみ (カミナリ )
監督: 五十嵐匠 脚本: 柏田道夫 原作: 「二宮金次郎の一生」(三戸岡道夫 栄光出版社刊)
音楽: 寺嶋民哉 プロデューサー:永井正夫 撮影:釘宮慎治 照明:山川英明 美術:中澤克己
録音:瀬川徹夫 編集:宮島竜治 衣装:大塚満 メイク:宮本真由美 助監督:羽石龍太郎
製作: 映画「二宮金次郎」製作委員会 協力:全国報徳研究市町村協議会 製作プロダクション:株式会社ストームピクチャーズ 配給:株式会社映画二宮金次郎製作委員会 © 映画「二宮金次郎」製作委員会
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2019年6月1日(土)より東京都写真美術館ホールにて公開
ほか全国順次公開

2019/05/30/21:11 | トラックバック (0)
深谷直子 ,インタビュー

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