五十嵐 匠 (監督) 映画『二宮金次郎』について【3/5】
2019年6月1日(土)より東京都写真美術館ホールにて公開ほか全国順次公開
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――村人たちも一人一人がとても活き活きと描かれていますね。
五十嵐 百姓も、本百姓と水呑百姓や小作人とで細かく変えています。爪の中の土の入り方にしても、本百姓は仕事を人にやらせるからそこまで土が入っていないんですよ。でも水呑百姓や小作人は泥まみれになっているから、役者の方には、爪を伸ばしてもらって土を入れています。それから小作人は歯を磨いていないので歯に化粧をしているんですが、本百姓役の方にはそれをしていない。ふんどしをしてパッチを履いていないのは小作人で、パッチを履いているのが本百姓。全部変えています。
――百姓の中にもランクがあるんですね。
五十嵐 集会場のシーンで、本百姓は金次郎の前にいるんだけど、水呑百姓は中に入れなくて戸口にいます。寒いから水呑百姓や小作人の役者はかわいそうなんです。本百姓はちゃんとあったかいものを着ている。
――とてもリアルですね。土や泥の表現にはこだわられているんだろうなと思いました。
五十嵐 『地雷を踏んだらサヨウナラ』のラストシーンで、浅野忠信さん演じる一ノ瀬泰造が自転車に乗ってアンコールワットに向かっていくのをロングショットとブーツのアップで撮っているんですが、彼のブーツに泥が付いているんです。それを見て感動したとアンケートに書いてくれた女子高生がいました。「泰造がアンコールワットに向かうときのブーツの泥の付き具合で、私はダーッと涙を流しました」と。泰造はジャングルを駆けまわってシャッターを切っているからブーツに泥が付いているんですよ。で、装飾部が泥の付き具合を僕に確認してきて、少なかったから僕が自分で泥を付けたんです。そうしたらその泥で感動して、他のシーンでは泣かなかったのにそこで泣いたという。多分泥に「映画の神様」が宿ったんだと思う。その女子高生の感想は勉強になりましたね。この映画でも爪の中の土にグッとくる人もいると思います。
――田中泯さんが演じた照胤も迫力がありましたね。
五十嵐 新勝寺の貫主の照胤というのは伝説の人なんです。立ち姿もきれいで存在感がある人物を描くには、舞踏家である田中泯さんしかいないと。また、この映画に最初に協賛してくれたのは新勝寺で、ロケも許可してくれました。お祈りのシーンに使っているのは、実際に金次郎が修行した場所なんです。水をかぶっているのも実際に水行をしたところです。本物だから合田くんも緊張したと思いますが、カンカンカンという音に気合が入っていましたね。
――そのシーンで金次郎は悟りを開くのですが、そこでの言葉が今の時代にとても通用するものでした。対立するもの同士が同じ円の中にあるという。「一円観」という教えになったものですね。
五十嵐 そうですね。多分金次郎としては、反対するのも理由があってそうしているんだということがわかったんだと思います。
――完全な悪人も完全な善人もいなくて、腹を割って話し合ったら、お互いのことがきっとわかり合えるんだろうなと。それは今ますます難しいことになっているのですが。SNS上で言葉だけでやり合っているような。
五十嵐 本当にそうですね。心を開かないですからね。
――こういう映画を観ることで変わっていくことができるといいなあと思います。
五十嵐 先日青森で800人の中学生に観てもらったんです。そうしたら面白いのは時代劇を映画で観るという経験をしていないんですね。すごく新鮮だと言って、泣いている生徒もいました。時代劇って今はテレビドラマでもあまりないじゃないですか。すごく新鮮に観てくれました。
出演:合田雅吏,田中美里,成田浬,榎木孝明(特別出演),柳沢慎吾,田中泯,犬山ヴィーノ,長谷川稀世,
竹内まなぶ (カミナリ ),石田たくみ (カミナリ )
監督: 五十嵐匠 脚本: 柏田道夫 原作: 「二宮金次郎の一生」(三戸岡道夫 栄光出版社刊)
音楽: 寺嶋民哉 プロデューサー:永井正夫 撮影:釘宮慎治 照明:山川英明 美術:中澤克己
録音:瀬川徹夫 編集:宮島竜治 衣装:大塚満 メイク:宮本真由美 助監督:羽石龍太郎
製作: 映画「二宮金次郎」製作委員会 協力:全国報徳研究市町村協議会 製作プロダクション:株式会社ストームピクチャーズ 配給:株式会社映画二宮金次郎製作委員会 © 映画「二宮金次郎」製作委員会
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