インタビュー
クロード・ガニオン

クロード・ガニオン
(映画監督)

映画『リバイバル・ブルース』について


クロード・ガニオン(映画監督)
クロード・ガニオン。79年にATG(アート・シアター・ギルド) が配給を手がけた『Keiko』で長編デビュー。同作で外国人としては史上初の日本監督協会新人賞を受賞。 80年代にカナダに帰国。『ケニー』('87)はモントリオール映画祭アメリカングランプリ受賞、 ベルリン映画祭ユネスコ賞受賞他、多くの賞を受賞し、全世界40か国以上で公開された。1994年、 ヨーロッパの大手テレビ局TF1の依頼を受け、監督、共同脚本、共同製作として参加した『トーマの愛のために』は、 38.2%のトップ視聴率の成功を収めた。ほかの監督作品に『セント・ヒヤシンス物語』('82)、『スロウタイム』 ('85)、『ピアニスト』('91)。

クロード・ガニオン監督は、70年代に約10年間、監督、編集者として過し、 日本滞在の決算として『Keiko』('79)を発表した。京都に暮らす23歳OLの暮らしを、 ドキュメンタリータッチで綴ったこの映画は、開放的な性描写や即興演出の斬新さから、当時大変な話題を呼んだ。
それから20年あまりが過ぎた2000年冬――。ガニオン監督は、若かりし頃通いつめた京都のライブハウス「拾得」で、 ステージに飛び乗って演奏する一人のビジネスマンを目撃する。別の日、同じ店に出演していた女性シンガーに心を奪われる。 映画に「有紀」という役名で登場し、素晴らしい歌声を披露している野村麻紀だ。同じ頃、監督は古い友人を癌で喪い、 悲しみのさなかにあった。そして長年の友人である奥田瑛二がこう言った。
「こっちにきてどうして一緒に映画を作らないんだ?」
帰国後、監督はこうした経験や昔書いたシナリオなどを、哀感のこもった一つの物語にまとめ始める。それが映画『リバイバル・ブルース』だ。
出演を打診された桃井かおりは、「21年間、あなたが私に映画に出てくれるように頼んでくれるのをずっと待っていた」と語ったという。俳優たちに絶大な信頼を得るガニオン流演出術の秘密に迫った。
クロード・ガニオン監督2――監督のデビュー作『Keiko』では、演技経験の無い方々が主演を務めており、それが映画に生々しいリアリティを付与していたと思います。今回顔をそろえたのは、内藤剛志、奥田瑛ニ、桃井かおりという、日本を代表する熟練したプロの役者たちです。監督が役者に求めるものはなんでしょう?

クロード・ガニオン 今回は、彼らプロの役者陣に混じって演技経験のない方も入っています。たとえば有紀という役名の若いシンガーや、山寺の若い和尚さんがそうです。私にとって、演技経験の有無は重要ではありません。役者として"賢い"かどうかが大切なのです。私の作品『ケニー』には、生まれつき下半身のない少年が出てきます。彼はあの映画の中で、ケニー自身を演じることができました。ですが、ハリウッドスターが演じるような役をこなすことはできないでしょう。奥田瑛二はゲイの役でも死に逝く男の役でも演じることができる。それは内藤剛志、桃井かおりといった方たちも同様です。端的に言って、プロの役者は演じる役柄の幅が広い。しかし、いざ個別の作品で達成し得る"演技のクオリティ"という意味では、素人であれプロであれ違いはないということです。

――奥田瑛二扮する洋介の妻を演じた渡辺ほなみさんに惹かれました。

クロード・ガニオン 彼女も演技経験がありません。渡辺さんは奥田瑛二のアシスタントの友人です。私はあの役を、自然体の女性に演じてほしいと考えていました。あの役に適した人材であれば、それがプロの役者でも素人でも構わないわけです。こうして見つかったのが、たまたま彼女だった。残念ながら、彼女は特に映画をやりたいと考えているわけではないようです。

――即興の度合いは、どの程度の割合を占めるのですか?

クロード・ガニオン 演出は即興をベースにしていますが、キャラクターの背景や物語の大まかな方向性は事前に出来上がっています。それを役者との綿密なディスカッションによって完成に近づけていくわけです。『Keiko』を撮ったときと同じ方法論ですが、あの時はすべてが初めての経験だったので、部分的にうまくいかない所もありました。しかし今回は全体的にうまくいったのではないかと思っています。

クロード・ガニオン監督3――俳優たちの即興演技を、どうやって統御するのですか?

クロード・ガニオン 合気道です(笑)。役者たちが放つエネルギーを、私が考えているビジョンへとまとめるんです(と、合気道の身振り)。もし彼らの方向性が間違っていたり、行き過ぎてしまったと判断すれば、それを現場で抑制したり道筋を整えたりすることはあります。しかし、事前のディスカッションによって同じビジョンを共有しているので、現場で混乱することはそれほどありませんでした。

――キャラクター造形同様に、ストーリー展開も非常にリアルです。

クロード・ガニオン 私はどんな映画作家よりも小説家のバルザックに影響を受けています。彼流のリアリズムが好きなんです。シナリオ学校では、ドラマやストーリーの作り方を優先して教えると思いますが、私の映画では、つねに人物がストーリーに先立ちます。私にとってもっとも大切なのは、キャラクターです。いつも、映画の中に"実際に生きているような人物"を描きたいと思っています。映画は実人生を映し出す鏡のようなものだからです。

――奥田瑛二扮する洋介が沖縄に住んでいるのはなぜですか?

クロード・ガニオン 70年代、沖縄はいわば"反逆"のシンボルのようなものでした。沖縄返還闘争、基地問題などがあって、沖縄を守るために多くの若者が沖縄に渡っていったのです。洋介もかつては反逆精神のある人物だったわけです。その後の時代の流れに背を向ける、"洋介"という人物を描く上で、彼が沖縄に住んでいる、という設定は的確だと思いました。ただし、これは政治的な映画ではないので、それを強調することはしませんでした。70年代を知っている人には、なんとなく分かってもらえると思います。

――『Keiko』公開から25年が経った今、現代の日本社会はどのように映りますか?

クロード・ガニオン 70年代は、人々がたくさんの希望を持っていた時代でした。若者たちは、ピースフルで平等な社会を築こうという夢を抱いていました。しかし、皮肉にも今はその真逆の社会になってしまっています。私は、世の中のすべてが暴力的過ぎる、という印象をもっています。クエンティン・タランティーノの映画は好きですが、その暴力性には疑問を覚えずにはいられません。私の14歳の甥は、毎日、朝からTVゲームをしていますが、バイオレントな表現を含まないゲームはないといっていいくらいです。彼と兄弟たちとのやり取りを見ていても、拳銃で撃ち合うまねをしたり、刀で切りつける真似をしたり、日常の仕草、行動のすべてに、暴力的な表現の影響が見て取れます。これは日本だけの現象だけでなく、世界的な兆候だという気がします。TV、映画、ゲーム、こうしたメディアで描かれる暴力に晒されずに生きていくのは、誰にとっても難しい状況です。検閲などは嫌いですが、行き過ぎた暴力に関しては、どこかで歯止めをかけなければ、という気がしています。このままでは子供たちが狂ってしまいそうな気がするのです。

――映画でさらりと描かれる気功や中国思想、仏教への言及は、そうした殺伐とした現代社会へのメッセージでしょうか?

クロード・ガニオン その答えは全て映画の中にあります(笑)。ただ、 アジア人たちが古来知っていた"ひみつ"を忘れてしまっているということは思っています。その"ひみつ"とは、 自分の中に平和な時間を持つ、ということです。2000年前のアジア人の暮らしにおいては、日が沈んでしまえば真っ暗になってしまい、ゆっくりとメイクラブしたり、心癒されたり、人生を楽しむ行為をたっぷりと時間をかけてしていたものです。けれども、現代社会には夜がありません。24時間、灯かりの落ちることがない生活の中では、時間があっというまに過ぎてしまいます。そのせいで、人生自体が重要でないことのようになっているのです。自分の中に平和な時間を持つこと――私の次の作品『Kamataki窯焚き』は、このことを扱った作品になります。

――オールタイムで好きな映画を三本挙げてください。

クロード・ガニオン うーん……。『フレンチ・コネクション』、それと『その男ゾルバ』。あとは……『砂の女』です。それぞれ別の理由で好きな映画ですが、これらは私の人生において非常に大切な映画です」

――ありがとうございました。

取材/文:膳場岳人、撮影:仙道勇人、通訳:伊藤民智枝

2005/04/24/08:53 | トラックバック (0)
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