汚れた心
2012年7月21日(土)より、ユーロスペースほか全国順次公開
戦後70年近くの時を経て光があてられた、
ブラジルの日系移民社会の衝撃的な真実
「私は戦争を体験しました。あの戦争で、すべてを失いました……」。ひとりの日本人女性のはかなげなモノローグによって幕を開ける『汚れた心』は、ブラジル資本100%で製作されたブラジル映画だが、まぎれもなく私たち日本人の心を激しく揺さぶってやまない問題作である。日本が第二次世界大戦で敗れた直後、はるか遠い地球の裏側の地で“もうひとつの戦争”が繰り広げられていたという驚愕の事実。多くの日本人にとって知られざるその凄惨な出来事は、世界最大の日系人居住地であるブラジルの日系移民の社会でも封印され、長らくタブーとされていた。フェルナンド・モライスのベストセラー・ノンフィクションに基づく本作は、その歴史の闇に光をあてた真実の物語だ。
第二次世界大戦が終結してもなおブラジルに住む日系移民の大半の人々は、日本が戦争に勝ったと信じきっていた。当時のブラジルと日本は国交が断たれていたため、移民たちが日本に関する正確な情報を入手するのは極めて困難な状況にあったのだ。そのさなか日系人コミュニティの精神的リーダーである日本帝国陸軍の大佐ワタナベは、大和魂の名のもとに仲間たちに檄を飛ばし、裏切り者の粛清に乗り出す。日本刀や拳銃で武装したワタナベの一派が標的にしたのは、日本が降伏したという事実を受け入れた同胞たち。ワタナベによって刺客に仕立てられた写真館の店主タカハシは、血生臭い抗争の中で心身共に傷つき、妻ミユキとの愛さえも引き裂かれていくのだった……。
“勝ち組”と“負け組”に分断された、
移民同士の抗争、傷ついた愛と誇りの物語
『汚れた心』は戦争と人間、戦争の狂気といった普遍的なテーマを真正面から扱ったヒューマン・ドラマだが、異国の地に暮らす日本人同士の抗争を描いた衝撃的内容ゆえに、並々ならぬ鮮烈なインパクトがみなぎっている。あらゆる情報がプロパガンダめいたデマではないかという疑心暗鬼が広まるなか、日本の戦争勝利を断固として唱え続ける“勝ち組”の勢力は、それを信じようとしなかった少数派の“負け組”の人々を“汚れた心を持つ国賊”と断罪し、ブラジル各地の日系人社会で襲撃事件を引き起こしていった。
ストーリーとキャラクターはフィクションだが、サンパウロ州警察の記録文書などを入念にリサーチしたこの映画は、ごく平凡な男タカハシと妻ミユキがたどる痛切な運命を軸に、その背景となった歴史の真実をあぶり出す。遠い祖国への愛が狂信的な言動へと歪められていく戦争の不条理、さらには抑圧、不寛容、差別といった現代に通じる問題をはらんだ壮絶な物語は、全編を貫くサスペンスと相まって観る者をスクリーンに釘づけにする。はたして過酷な極限状況に陥ったとき、人は何を信じ、何を心のよりどころにすべきなのか。登場人物それぞれの葛藤をエモーショナルに探求した映像世界は、そんな痛切にして複雑な問いを投げかけてくる。
日本語セリフが大半を占めるブラジル映画、
その画期的な企画に集結した名優たち
歴史のタブーに挑戦した製作陣の意欲は、充実のキャスティングからもうかがえる。日本映画界を代表する名優たちが、ブラジルでのオールロケに参加。現地のスタッフ&俳優との協力関係のもと、まさに入魂と呼ぶにふさわしい演技を披露している。
まず主人公タカハシに扮するのは、巨匠クリント・イーストウッドの『硫黄島からの手紙』での好演が忘れがたい伊原剛志。心優しい愛妻家の男が刺客に変貌していく様を言葉少なく体現した演技は、正式出品されたモントリオール世界映画祭で多くの観客の胸を打ち、ラテンアメリカ有数の映画祭であるプンタデルエステ国際映画祭では日本人初の主演男優賞に輝いた。タカハシの妻ミユキを演じるのは、映画やTVドラマでの幅広い活躍に加え、イランのアミール・ナデリ監督作品『CUT』などで新境地に挑み続ける常盤貴子。物語の語り手であり、観客の目線ともいえるヒロインの心のさざ波を、繊細かつ豊かなニュアンスで伝えている。幾多の名作に出演し、監督としても目覚ましいキャリアを築いてきた奥田瑛二は、粛清を煽動する退役軍人ワタナベ役で圧倒的な存在感を発揮。また『ロストクライム -閃光-』『CUT』の菅田俊、『ディア・ドクター』『おくりびと』の余貴美子が、否応なく粛清の渦中に巻き込まれる夫婦を力強く演じている。
監督はヴィゴ・モーテンセン主演の『善き人』で、ナチス台頭下のドイツで思いがけない選択を強いられる善良な市民を描いたヴィセンテ・アモリン。欧米での長い滞在経験を持つ気鋭監督の“外国人の眼差し”が、日本人監督には容易に描きえないこの物語にフラットな視点を与えている。そして日本からは『踊る大捜査線』シリーズや人気アニメ映画『サマーウォーズ』などの音楽で名高い作曲家、松本晃彦も参加。ブラジルと日本の才能たちが親密なコラボレーションを実現させた画期的な映画がここに誕生した。
アソシエイト・プロデユーサー:奥田瑛二、橘豊
出演:伊原剛志、常盤貴子/菅田俊、余貴美子、エドゥアルド・モスコヴィス、大島葉子/奥田瑛二
音楽:松本晃彦 メインテーマ演奏: 宮本笑里
ブラジル映画/日本語・ポルトガル語/107分/ドルビーSRD/シネマスコープ
原題:Dirty Hearts 後援:駐日ブラジル大使館
配給:アルバトロス・フィルム、インターフィルム ©2011 Mixer All Rights Reserved.
2012年7月21日(土)より、ユーロスペースほか全国順次公開
- 監督:ヴィセンテ・アモリン
- 出演:ヴィゴ・モーテンセン, ジェイソン・アイザックス, ジョディ・ウィッテカー, スティーヴン・マッキントッシュ
- 発売日:2012/08/02
- おすすめ度:
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オリジナル・サウンドトラック
- 発売日:2012/7/25
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