脳内i-pod・サウンドトラックコーナー繁忙記
第七回
また男の中の男、黒岩に逢える!
わが愛しの名作『大都会』再放送決定!

佐藤 洋笑

 

 一部ではすでに話題騒然となっておりますが、オレもバッチリ盛り上がっております。その話題とは――

――『大都会』再放送決定! (関連サイト「日テレプラス&サイエンス」)

 『大都会』――それは、72年放送開始の『太陽にほえろ!』(日本テレビ)で本格的にテレビ番組に進出した石原裕次郎が、渡哲也を主役に据え、自らプロデュースを手がけた石原プロモーション初の連続テレビドラマ、というよりも、まさに往時のプログラム・ピクチャーの役割をテレビという新たなメディアの中で果たした“テレビ映画”の金字塔。数多ある日本の刑事ドラマの名作の中でも一際輝く魅力を放っています。

 76年1月から日本テレビ系で第一作『大都会 -闘いの日々-』が放送されて以来、第三弾まで製作される大ヒット作ながら、ながらく再放送、ソフト化の機会に恵まれなかった本作と再び邂逅できるとは…思えば、幼児期に意味などわからぬままでしょうが、本放送時、オンエアの火曜日夜9時になるとチャンネルを合わせて拝んだものです。汚い話で申し分けありませんが、いざトイレを催したときのために“おまる”持参で観ていたところ、同居していた叔父にブン殴られました。実話です。また、本当にひっきりなしに行われていた再放送にもほぼ完璧に付き合っていました。関東圏で85年ごろから行われた最後の地上波再放送では、小学生の小遣いの限界に挑戦するようにエア・チェックに励みました。大体が、生まれて初めて買ってもらったレコードは、『大都会』シリーズの二枚組ダイジェスト・サウンドトラック盤LP(ポリドール MR-9168~9)だったりします。というよりも、前述の叔父が買ったものを強引にオレが奪い取ったらしいのですが。

 まあ、ともかく、白状しますと、オレの脳ミソの35%くらいは『大都会』で埋まっています。実はオレは映画や音楽が好きなのではなく、『大都会』に関連する事柄に興味があり、調べたり勉強しているだけなのでは、と思ったりすることさえあります。再放送の報を聴きつけて以来、仕事もウワの空です。いつものことですが、手抜きとミスが目立ちます。上役や顧客は、何か文句を言ってきていますが、全て右から左へ受け流しています。知るかよ、そんなもん。何もかもがどうでもいい。ただ『大都会』がまた観れる! この事実が現在のオレを支えています。

 ――ってなわけで――「大都会」サウンド・トラック PREMIUM BOX

『大都会』サウンド・トラック PREMIUM BOX
 ――これも前触れだったんでしょうね。15年ほど前に一度CD化されて、後にほとんどが廃盤となっていたこのシリーズのサントラ盤がボックス・セットとして再発されたのは、今年の春のことでした。本放送当時発売されたサウンドトラック盤(当然アナログ盤)、計5枚のうち、4枚の復刻プラス挿入歌を収めた特典CD1枚のCDボックス=宝箱。今回は、『大都会』シリーズのサントラを肴につづっていきたいと思います。まずは――


 『大都会 -闘いの日々-』
 作品の詳細については、以下の石原プロモーションでの紹介をご参照ください。

 http://www.ishihara-pro.co.jp/daitokai_01.html

 なんと申しましょうか、『北の国から』で知られる倉本聰センセが13話分の主要回の脚本を書き下ろし、斎藤憐、永原秀一、金子成人らがインサイド・ストーリーを挟み込む形式で、全31回。演出は小澤啓一、村川透、山本迪夫、降旗康男など。――裕ちゃん、渡がなじみの日活系のメンツを中心に、東宝、東映系人脈も参加と、この当時ならではの豪華なスタッフィングとなりました。

 渡演じる主人公・黒岩は、暴力団対策に勤しむ捜査四課のヒラ刑事。上司の無茶な命令に反発しつつもグッとこらえてしまう、無口で不器用で、しかし、遠い目でタバコをすう姿が実に様になる、男の中の男です。ヤクザとかはガシガシブン殴っても女の人を前にすると「…自分は」と照れて頭を掻くばかりの黒岩を暖かく見守る兄貴分存在の新聞記者として裕次郎が登板。“人を傷つける下らん記事を載せないため新聞記者になった”と嘯きバクチにばかり興じる姿は大人の色気をフル装備。兄が刑事との理不尽な理由からヤクザに暴行を受けた過去を持つ黒岩の妹は、仁科明子。黒岩が思いを寄せる、全身全霊でワケありなオーラを醸し出す過去の有る美女には篠ヒロコ(今のかわいいお母さんが似合う彼女じゃないですよ。諸事情あって“幸薄”としか形容できない時代の彼女ですよ)。こんな恵まれた環境で黒岩が事件の、社会の暗部に立ち向かいます。過去に、多少揶揄交じりに、“毎週が芸術祭参加作品状態”(映画秘宝第4号の丸田祥三氏の評より)と書かれたこともありますが、まあ、それにも納得の、大都会の歯車の一員でしかない個人が警察・暴力団・マスコミといった組織の中でむなしくもがく様が切々と描かれ、トラウマにも近い感銘を残します。

 さて、本作の音楽についてですが、その説明の前に、当時の日本テレビのドラマの音楽事情について軽く説明しておきたく思います。

 『太陽にほえろ!』の音楽は、もとスパイダーズ~PYGの大野克夫が作曲、演奏をPYGのメンバーがほぼそのまま移行した井上堯之バンドが手がけることで、いわゆるロックのサウンドを全面投入し、好評を得たことはご存知の方も多いでしょう。その成功もあってか、この当時の日本テレビの青年層向けのドラマには、積極的に若手のロック/ポップス系ミュージシャンを起用していく空気がありました。青春ドラマの『俺たちシリーズ』では、チト河内が率いるトランザムが、吉田拓郎、小椋佳といったフォーク、ニューミュージック系の作家らとともに音楽を担当し、石立鉄男コメディでは、後にルパン三世でヒトヤマあてるジャズメン大野雄二が洒脱な楽曲を提供していたり、といった具合です。そうそう、前回取り上げたゴダイゴは、まさにこうした日テレ・ドラマを足がかりに人気者になったミュージシャンの典型ではないでしょうか。余談ですが、多くのサントラや、たとえば松田優作などの俳優のレコードにて“NTV音楽出版”のクレジットが確認できますので、そうしたビジネス的な試みという部分も多分に持っていたのでしょう。

 そうした中で、日本テレビの火曜日9時から放送されていたアクション系ドラマ枠でも音楽的に果敢な試みがなされていました。なにせ、『大都会 -闘いの日々-』の直前に放送されていた『はぐれ刑事』(主演:平幹二朗、沖雅也 )では、音楽:鈴木茂(当時ティン・パン・アレーですよ! 元はっぴいえんどですよ!)ってな具合ですから。その後を受けた『大都会-闘いの日々-』では0座標(番組では、ゼロ座標、とクレジットされていたかと記憶しています)なる当時の若手バンドが、あまたの日活/東映映画で音楽を手がけたべテラン伊部晴美とともに担当しています。放映当時にサントラ盤が二種類発売され、今回のボックスには第一弾(ポリドール MR-7013)が復刻され収められています。何故、第二弾(ポリドール MR-7015)も収録しない!?とオレも疑問に思っていますが、その辺、どうなんでしょう?。やっぱ売れ線ではないと判断されたのかしら。

 0座標は、近年(でもないか)田口史人、行達也、浅井有、栗本斉の各氏が仕掛けたコンピレーション“喫茶ロック・シリーズ”にその楽曲が収録されるなどして、少し注目を集めました。

 デヴュー当時のプロデューサーが、元ランチャーズの喜多嶋修だったこともあり、ギターに実に魅力のあるバンドです。印象的な『大都会』のメインテーマは、地の底からわきあがるようなエレキ・ギターに、ナイフのような伊部晴美のホーン・アレンジが鋭く刺さり、被害者の悲鳴のような女声スキャットが彩りを添え、都会の、社会の暗部を見事に描く、ヘヴィな和風ファンクに仕上がっています。また、隠し味的なアコーステック・ギターのストロークも効果的です。エレキとアコのギターのみで奏でられる挿入曲「大都会のブルース」も、聴いていると本当になんか、ココロが沈み込んでいく感じで、被虐の喜びを全身で味わうことが出来ます。

 『大都会』のメインテーマのシングル盤(ポリドール DR-3017)には、“様々なフォーク・シンガーのバック・バンドを務めてきた”と略歴が記されています。残念ながら、特にバンドが丸ごとバッキングやプロデュースを務めている作品には、寡聞にしてお目にかかっていないのですが(情報ありましたら、ぜひご教示を!)、メンバーの多くは、その後も作家、あるいはミュージシャンとして70~80年代の作品で名前を拝見する機会がありました。中でも、渡辺孝好(キーボーディストで、監督のあの方とは別人…のはず)は、“エジソン”というペンネームも使い、中島みゆきの初期作『私の声が聞こえますか』(76年)『みんな去ってしまった』(76年)のアレンジとバッキング務めるなど、活躍しています。特に、現在CD化されていない井上陽水のライヴ・アルバム『東京ワシントン・クラブ』(76年)では、彼とモップスのリズム・セクションが合体したバンド“Ways”としてバッキングを務めていますが、ちょうど「青空、ひとりきり」などで、ロック化まっしぐらだった頃の陽水の志向とがっちりあい、彼のいくつかのライヴ音源のなかでももっとも強力かつ凶悪なのではないかと思えるサウンドを構築しています。特にこの盤の「氷の世界」とかいいよー、震えるよー。また、彼はこの時の縁か、浜田省吾の初期作『ラヴ・トレイン』(77年)のアレンジも手がけています(浜田のプロデュースを手がけたのは、元モップスにして、Waysにも参加した鈴木幹治。故・鈴木ヒロミツの実弟)。

 さて、放映当時アナログ盤で発売されたサントラは0座標が主導するものでしたが、多分にイメージ・アルバム(特に第二集)的な面もあり、いわゆるBGMとして、番組に多用されたのは、伊部晴美による楽曲でした。それらについても、後年、熱心な支持に後押しされるような形で以下のCDが発表されています。

「大都会‐闘いの日々‐」MUSIC FILE 「大都会‐闘いの日々‐」MUSIC FILE
 こちらは演奏のタッチも大分異なり(詳細なクレジットがないので、はっきりとはしませんが、演奏者も0座標とは異なるかも知れません)、いかにも、な“日活アクション”の音です。それも、陽気な小林旭の世界ではなく、陰鬱かつ凶悪な“無頼”の世界。当時の渡哲也は直前にNHK大河ドラマを降板するなど、病み上がりだったわけですが、頬もこけ、目とかクマが浮いている彼の顔にピッタシくる音です。また、『大都会』シリーズの中でも、特に“映画”を感じさせると評される『-闘いの日々-』ですが、その感触に大きく貢献しているのが、この伊部晴美による楽曲かもしれません。

 このように、“アクション・ドラマ”と形容するには無理のある“刑事という人間のドラマ”『大都会 -闘いの日々-』に添えられた音楽は、結果的にでしょうが、西洋的なサウンド・メイキングを志向しつつも、非常に日本的なウェットな資質を中核に置く、語弊を恐れずに言えば、“ニューミュージック”に非常に質感の近いものとなりました。作品自体、歌謡曲好きな倉本センセの意向が反映したのかこうしたBGMを背景に、「俺の愛した・ちあきなおみ」「山谷ブルース」など、いかにもなタイトルを繰り広げ、ああ、歌心、という感じです。まあ、かくして徐々に事件以上に迫り来る不幸の中で男女の恋愛はどうなるのかという視点に話はシフトしつつ、杉作J太郎氏が今もココロの名場面として挙げる最終回「別れ」にいたるわけです。いやぁ、書いている内にオレも最終回、全てがむなしく終わった黒岩がヤケ酒あおってるシーンがフラッシュ・バックしてきて、ココロがどうにかなってしまいそうです!

 ――その後、事件記者モノ『いろはの“い”』(音楽担当はゴダイゴ)をはさみ、77年の春に登場したのが、シリーズ第二弾――第一話では鶏百羽を犠牲にしつつの大カーチェイス、第二話では、商店街のアーケードにダンプが特攻と、突然の凶悪犯罪の乱発に、苦悩する刑事だったはずの黒岩の性格が一変。非情なハンターと化して犯罪者=狂犬を追う、『-闘いの日々-』とはあまりに毛色の違う続編『大都会 PART II』でした。

 次回はこの続編の音楽を肴にお話します。
 次回『大都会 PART II』ご期待ください!

2007/07/18/20:10 | トラックバック (0)
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