映画祭情報&レポート

第20回ゆうばり国際ファンタスティック映画祭レポート1

ファンタスティックの名のもとに

鎌田 絢也

オープニング作品『シュアリー・サムディ』(左から)小栗旬監督、綾野剛、鈴木亮平、小西真奈美、小出恵介、ムロツヨシ、勝地涼、山本又一朗プロデューサー
オープニング作品『シュアリー・サムディ』(左から)小栗旬監督、綾野剛、鈴木亮平、小西真奈美、小出恵介、ムロツヨシ、勝地涼、山本又一朗プロデューサー

開会式で挨拶をする小栗旬監督
開会式で挨拶をする小栗旬監督
年20周年を迎える「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」は、開催初日、東京羽田上空を覆う濃霧のために、ゲストを乗せた飛行機が定刻通り飛ばないというアクシデントに見舞われ、予定されていた歓迎セレモニーが軒並み中止となる波乱の幕開けとなった。メイン会場となるアディーレ会館ゆうばりにはゲストの到着を待ちわびる長蛇の列。なんとか繰り合わせてこぎつけた開会式は1時間近く遅れてスタートした。本映画祭のオープニング作品『シュアリー・サムディ』のゲスト陣が登壇すると、会場は割れんばかりの歓声に包まれ、映画三昧のファンタスティックな5日間の開会が宣言された。今年のゆうばり映画祭のテーマは、「行こうや、夕張」。この文句は、【映画のある街夕張】の原点ともいえる山田洋次監督作『幸福の黄色いハンカチ』(77)で、武田鉄矢が高倉健の背中を押す一言となった台詞からとられている。今年は、この『幸福の黄色いハンカチ』がデジタルリマスター版で凱旋するという夕張ならではのプログラムをはじめとして、映画愛に満ち溢れた作品が、ハリウッド大作から邦画、インディーズ作品までとバラエティ豊かに集められた。これまで、映画監督、俳優、プロデューサーなど国内外の多くの映画人と、観客、市民、スタッフの連携によって彩られたゆうばり映画祭であるが、ファンタスティックの名のもとに、映画の川上から川下までを併せ飲む懐の深さこそがこの映画祭の最大の魅力である。日本が誇る世界有数の映画祭「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」のファンタスティックな熱気をお伝えしたい。

山下敦弘監督 映画祭直前インタビュー

会場の夕張に向かうバスを待つ新千歳空港で、いきなりファンタスティックな幸運に出くわした。同じく夕張行きのバスを待つ山下敦弘監督との遭遇である。山下監督は、今回の映画祭で、若手監督の登竜門と言われるオフシアター・コンペティション部門で審査員を務める。バスの乗り込みまでの時間をカフェで静かに過ごそうとしていた監督に、不躾にもインタビュー取材のお願いをしたところ快く応えてくれた。空港内の食事処で映画祭直前のインタビューである。と言いながら、実際は食事をしながらの雑談というくだけた雰囲気の中、監督に不躾な質問を直撃させていただいた。
――あまり小難しい話をお聞きするつもりはないのですが、単純にこの出会いに感動しております!

山下敦弘監督山下監督 まさか俺もコーヒー飲むつもりが、ご飯食うとは思ってなかった(笑)。

カメラをセッティングしてインタビュー開始。
――監督は『どんてん生活』(99)で、このオフシアターコンペ・グランプリを受賞されました。ゆうばりに対する思い入れのほどはいかがでしょう?

山下監督 デビュー作がゆうばりでグランプリを頂いて、だから10年ぶりですね。前は審査される側だったのに、今回、審査する側になるというのは、なんか不思議な感じがしますね。

――このゆうばりの「ファンタスティック」というキーワードには、何か刺激を受けるものはおありなのでしょうか?

山下監督 そうですね、あんまり他では見れないっていうか、もともとそういう映画が好きだったんで、今でも好きですけど。できるだけ時間が許す限りいっぱい見たいなと思ってます。

――特にオフシアターコンペは若手の登竜門という位置づけがありますが?

山下監督 そうですね、やっぱり審査という立場は緊張します。

――とりわけ、ゆうばりでグランプリを取られた山下監督の審査の視点には注目が寄せられております。その点はいかがでしょう?

山下監督 審査は色々な思惑があるので、自分がいいと思った作品がグランプリとるとは初めから思ってませんので、どんな作品がグランプリを取るのか逆に楽しみにしてます。事前に予備知識など入れてませんし、面白い作品に出会えるといいなと思ってます。

――冬の北海道、夕張は雪の中ですが、山下監督の作品には雪景色の印象が強いとお見受けします。何か思い入れはあるのでしょうか?

山下監督 そうですね、寒い時が多いですね。でも一回も雪を狙ったことはないんですけどね。たまたま雪が降ったりすることがあったり、綺麗だなと思ったりはしますけど。

ここで出発の時間が来てしまった。
――監督、いかがでしたか?北の幸のお味は?

山下監督 急いで食いすぎて味わえなかったです。(笑) でも美味しかったです。ごちそうさまでした。

――こちらこそ、ありがとうございました。
監督は、カメラをセッティングしている僕のためにお茶を注いでくれたり、ご自身が注文された海鮮定食の甘エビを分けてくれたりと、とてもサービス精神に溢れる優しい御方だった。初対面にして唐突のインタビュー取材、監督にはご迷惑をおかけしたが、現代の日本映画を牽引する山下監督の人となりを知ることができたことは、何よりもファンタスティックな幸運であった。

オープニング・パーティ ホテルシューパロ嶺水の間

ゆうばり映画祭恒例の餅つきで杵をふるう小西真奈美さん
ゆうばり映画祭恒例の餅つきで杵をふるう小西真奈美さん

オープニング作品『シュアリー・サムデイ』上映後は、ゲストと市民が一緒に参加するオープニング・パーティが、会場のホテルシューパロ嶺水の間にて催された。ゲストが市民とともに飲み、食べ、映画を語り合うという光景は、実に不思議な現象である。普段スクリーンの中でしか接することができない俳優や監督たちとの気さくなふれあいを可能とする寛容さ。これがゆうばり映画祭の他の追随を許さない熱気であり、「世界で一番あたたかい映画祭」と呼ばれる所以なのだと実感した。初めて参加する人も常連も、みな一様にこの映画祭で出会えた喜びに顔が綻んでいる。映画という共通言語がこれだけ有機的なコミュニケーションを可能とすることに、僕は嶺水の間に溢れんばかりの人いきれの中で感動を隠せなかった。

『スカ☆パラinゆうばり』公開収録で訪れた天野ひろゆき監督
『スカ☆パラinゆうばり』公開収録で訪れた天野ひろゆき監督
『シュアリー・サムデイ』で主演を務める小出恵介さん
『シュアリー・サムデイ』で主演を務める
小出恵介さん
ゆうばり名物『今年も朝まで怒られナイト!』トークイベントを前に絶好調の井口昇監督
ゆうばり名物『今年も朝まで怒られナイト!』
トークイベントを前に絶好調の井口昇監督
気軽にサインに応じる石橋凌さん
気軽にサインに応じる石橋凌さん
小林でび監督『おばけのマリコローズ』をPR中
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『昆虫探偵ヨシダヨシミ』を出品した佐藤佐吉監督
『昆虫探偵ヨシダヨシミ』を出品した佐藤佐吉監督

トークセッション:
ゆうばりから世界へ~海外映画祭ネットワーク~

塩田時敏プログラミング・ディレクター
塩田時敏プログラミング・ディレクター マーク・ウォルコウ氏
マーク・ウォルコウ氏
「ニューヨーク・アジアン・フィルム・フェスティバル」プログラミング・ディレクター(アメリカ)本年度オフシアター・コンペティション部門審査員 ジャスパー・シャープ氏
ジャスパー・シャープ氏
「レインダンス映画祭」プログラミング・ディレクター(イギリス) アレックス・ツァールテン氏
アレックス・ツァールテン氏
「フランクフルト ニッポン・コネクション」プログラミング・ディレクター(ドイツ)
ゆうばり映画祭は、その映画祭の在り方そのものが注目される世界有数のイベントとして評価されている。通常、「映画祭」自体が賞の対象となることは珍しいのだが、ゆうばり映画祭はこれまで数々の栄誉に授かってきた。
1990年「活力あるまちづくり優良地方公共団体」(自治大臣表彰)
1992年「イベント賞」(フジサンケイグループ広告大賞)
1994年「生活文化賞」(財団法人日本ファッション協会)
1998年「パリ国際都市活性化技術会議特別栄誉賞」(フランス全国市長協会)
2003年「特別賞」(日本映画批評家大賞)
2006年「シネマ文化賞」(シネマ夢倶楽部・日本ファッション協会)
ゆうばり映画祭は、先進的な映画祭として社会的な評価を得ているだけでなく、世界の映画祭のモデルとして映画文化に多大な貢献を示している。”夕張モデル”といわれる最初の例は、1994年に創設された「ジェラルメ国際ファンタスティカ映画祭」(フランス)であった。このジェラルメ市は、かつての夕張と同様に、地産であった紡績産業が衰退したため、豊富な自然環境にリゾートを開発し、観光産業に新たな活路を求めていた。ジェラルメ市側は、映画とリゾートを結びつけた観光による街おこしを、夕張を手本として再生するべく、このゆうばり映画祭へ足繁く通うこととなる。今ではフランスにとって最も観光開発が遅れていたロレーヌ地方の一村落が、国際的な催しを実現する存在に成長している。それからゆうばりの姉妹映画祭として誕生した「富川(プチョン)国際ファンタスティック映画祭」(韓国)は、やはり都市の再生をテーマとして、映画祭としてのオリジナリティの確立、市民の祝祭性の創造をゆうばり映画祭の先駆に多くを求めて実現した。
今では、こうした海外との映画祭ネットワークによる映画文化交流が、ワールドシネマの潮流を生む契機となっていることは見逃せない。興奮覚めやらぬ祭りの坩堝の中で、ゆうばり映画祭は、来るべき映画の未来について論調を整える。

トークセッションは塩田PDの軽妙な司会進行の下、寛いだ雰囲気の中で行われた。招かれた3人の各国映画祭PDは、自国の映画祭での日本映画に対する反応と、自身の日本映画に対する想いを熱く語っていた。これまでゆうばり映画祭は、海外から豪華なスターや監督を夕張に招くことで、映画祭としてのボリュームを獲得していた向きがあったが、今年は方向性を新たに、ゆうばり上映作品を積極的に海外へ紹介していこうとする前進的なテーマを掲げている。映画の創り手が世界へと羽ばたいていくことを支援するための国際映画機関として、映画文化の一端を担っていこうとする気概に溢れた雰囲気は、かつて市民の手によって再生したゆうばり映画祭の根幹にあるインディペンデントな精神性への回帰が見て取れる。こうした海を越えた映画祭ディレクター同志の交歓によって、映画のグローバルなネットワークが生まれ、その相互交流の中で、新たな映画、新たな才能が発見されるのである。よくある話で、「異国を知りたければその国の映画を見るのが早道」といわれる。たしかに外国映画を見ることは、その国の特徴的な文化や民族性を知る上で最も分かりやすい情報ではあろう。しかしその一方で、その映画の質や情報量の多寡によって、その当国の内情について一面的な印象を持つだけに終わってしまうという危うさもある。ここで開かれたトークセッションでは、諸外国で日本映画がどのように受け止められているかという各国映画祭PDの私見に、それぞれのお国柄、民族的な背景が浮かび上がり、また彼ら自身それぞれの映画観について、文化比較を交えながらのトークセッションはとても興味深いものがあった。

オープニング・パーティ&トークセッションレポート
ゆうばりチョイス&フォーラム・シアター部門レポート澤田直矢フェスティバル・ディレクター インタビュー

第20回ゆうばり国際ファンタスティック映画祭 (2/25~3/1) 公式
オープニング作品『シュアリー・サムディ』 (2010年/日本/監督:小栗旬)

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  • 監督:井口昇
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2010/03/12/21:22 | トラックバック (0)
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