映画祭情報&レポート

第20回ゆうばり国際ファンタスティック映画祭レポート2

玉石混淆ごった煮カオスと溢れんばかりの映画愛

鎌田 絢也

催20周年を数えるゆうばり国際ファンタスティック映画祭は、これまでファンタスティックという名の下に、数多ある映画祭でもなかなか見られない、刺激に富んだ名作・怪作を世に生み出してきた。これはやはり、ゆうばり映画祭の根幹ともいえるインディペンデント精神に溢れた映画愛が成せる所業というべきものであるが、そうしたフロンティアスピリットが、新進気鋭の映画作家たちを勇気づけてきたのである。
ゆうばり映画祭の特徴として挙げられるのが、若手作家の登竜門的存在であるオフシアター・コンペティション部門へのリピート出品である。昨年、このオフシアターでグランプリを受賞した入江悠監督作品『SRサイタマノラッパー』も三度目の挑戦による栄冠であった。この部門のプログラミングを担当する塩田ディレクターは、「才能の片鱗を感じられれば、趣味に合わなくてもノミネートする。このコンペティションは選ぶのではなく、育てていくことを主眼に置いている」と語っている。そうした懐の深さで来るべき映画の未来を見据えるゆうばり映画祭に、野望を抱き自主制作に取り組む若手作家は渾身の自作をもって果敢に挑んでいる。
そして本年は、昨年『SRサイタマノラッパー』でグランプリを受賞した入江悠監督が、その続編となる『SRサイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』を携え、堂々の凱旋上映を果たした。

 

ゆうばりチョイス
『SRサイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』

『SRサイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』1『SRサイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』2
(c)2010 「SR2」CREW
前作『SRサイタマノラッパー』で、このゆうばりオフシアター・コンペティション部門グランプリを獲得し、2009年度インディーズ映画界最大の話題をさらった入江悠監督の続編である。このゆうばり映画祭会期中ではオフレコとなっていたが、入江監督は2009年度日本映画監督協会新人賞を受賞した。この新人賞の第1回受賞者は大島渚監督である。これから先の来るべき日本映画界を背負って立つ才能が、このゆうばりグランプリから誕生したのである。

『SRサイタマノラッパー』クルーが再結集する”ヒップホップ青春映画”の第2弾は、前作、北関東を所狭しと暴れまわった埼玉の男子ラッパーと、ヒップホップへの憧れを捨てきれない群馬の女子ラッパーが、お互いをディスり合いながら友情を分かち合うという青春の夢と挫折の日々を描く爽快なコメディである。入江監督の手腕は、そのキャラクター造形にエンターテイメント性豊かな描写を実現させて堂々としている。前作のグランプリを受けて、「ゆうばり映画祭×スカパー!」の次回作支援金が後押ししたとはいえ、もはやインディーズ映画、新人監督と呼ぶべき代物ではない出来栄えである。映画祭パンフレットにも記載されていた通り、「いま日本で最も次回作が期待される映画監督」という呼び声に相応しい作品であった。入江監督は続編を製作するにあたって、方々から「二匹目のどじょうをすくいにいった」と揶揄されたと冗談半分に語っているが、その実は一大スペクタクルとなるHIPHOP映画のシリーズ化という壮大な構想があるらしい。またも冗談めかして、続け!「次郎長三国志」「男はつらいよ」「釣りバカ日誌」と声高であるが、もしその通りだとしたら、この手腕にこの作風、日本を代表する職人映画監督となる日も近いことだろう。
本作を観賞して、なぜか吉幾三の『俺はぜったい!プレスリー』がリフレインしていた。雪深い北海道の一村落で歓喜をもって迎えられた地方色盛んな青春映画。埼玉育ちの入江監督が寄せる地方愛、地元愛に、青春のインディペンデント精神は弛みなく漲っている。入江監督が青春期の悲喜を語ることを経て人生への悲哀を自作に忍ばせる時、いったいどんな慈愛に満ちた作品を見せてくれるのか、今後がひじょうに楽しみである。

フォーラム・シアター部門

『It’s All Good』(ノーマン・イングランド監督)
『It’s All Good』(ノーマン・イングランド監督)(c)iMages from the iD
ゆうばり映画祭を語る上で切り離すことのできないプログラムが、このフォーラム・シアター部門である。開催20回の本年は、若手監督からベテラン監督まで、実にバラエティ豊かな作品が揃い踏みだ。これぞファンタスティックの名にふさわしいラインナップである。このゆうばり名物ともいえるプログラムを立ち上げたのは、かつて市民有志として映画祭に参加していた、現在は当映画祭の総指揮をとる澤田直矢フェスティバル・ディレクターである。映画祭中でも異様な熱気と盛り上がりを見せるフォーラム・シアターであるが、そこにはただひたすらの映画愛で‘場を作ろう’とするオルタナティブな潮流が渦巻いている。そしてかつての黎明期に集まった監督たちの中には、山下敦弘監督をはじめ、今や日本を代表して世界に羽ばたいていった者も少なくない。

ノーマン・イングランド監督作品『It’s All Good』は、日本家屋に住む若い夫婦が、朝のテレビニュースで伝えられる出来事にそれぞれの考え方を述べるのだが、その両者の考え方が極端に異なるという日常を描く。だが、その妻には地球外生命体の寄生虫が宿っており、滔々と私見を述べる夫の朝食に、自らの体から這い出てきた寄生虫を混ぜ、それを食べた夫がもだえ苦しむ姿を夢想するというショートSFホラーとして完結する。イングランド監督は、ホラー専門誌「FANGORIA」のライターでもあり、特撮映画の出演もこなし、どうやら奇怪な作風を好む作家であることが分かったが、上映後の作品解説に現れたイングランド監督は、その本旨であるところのホラー論を語ることはせず、映画製作がいかにお金のかかるものであるかを飄々と語って面白かった。映画は夫役を務めた沖縄県出身のモデル、尚玄の流暢な英語を駆使した演技が光っていた。

『カルマ』(アレックス・パイエ監督)
『カルマ』(アレックス・パイエ監督)
『カルマ』で初メガホンをとったアレックス・パイエ監督は、上映前挨拶でゆうばり常連監督である西村喜廣監督に連れられて登場した。パイエ監督は1985年生まれの若干24歳。カナダ生まれの英語教師であり、武道、漫画に憧れ来日、英語教師として園子温監督と出会って以来、園、西村監督の現場に出入りするようになったということだ。
作品は、孤独な殺し屋がヤクザ組長の娘と偶然に出会い、行動を共にするが、その組長の娘は殺し屋に復讐するために近付いた刺客であった……という残酷なヴィジュアル描写をメインに据えた復讐劇である。
映画は初監督作という気負いのためか、まだまだ荒削りで視野の狭い出来となって残念であるが、何よりも、映画への想いだけで作品を創り上げてしまったという熱さを買いたい。上映後の挨拶ではパイエ監督の脇に立って、新人監督をフォローする西村監督のお人好しが印象に残った。また、本作でプロデューサーを務めた中川究矢監督は、園子温組の助監督でもある。こうした業界内での助け合い、コラボレーションシップによって、未知なる才能にチャンスを与えるふくよかさは、ゆうばりならではなのかも知れない。

『放電』(中川究矢監督)
『放電』(中川究矢監督)
『ラムネ』(篠原哲雄監督)
『ラムネ』(篠原哲雄監督) (c)2010 avex management Inc.
『放電』は、前述の『カルマ』でプロデューサーを務めた中川究矢監督の作品である。「世界は電気でできていることに気付いた」という謎の男が、市井に躍り出て、手当たりしだい叫び倒す。というこれまたキッカイな作品である。本作は、中川究矢監督と俳優である川連廣明がプロデュースする短編映画連作プロジェクト”ドグマ96”の第2弾ということ。カルトムービーの風情たっぷりな作品であった。流石に映像作家だけあって映像派としてのセンスが伺える一品である。

『ラムネ』は『はつ恋』(00)や『深呼吸の必要』(04)などで、恋愛映画、青春映画の名手と謳われる篠原哲雄監督の青春ラブファンタジー。エイベックス・ニュースター・シネマ・コレクションと題される企画映画の一本である。
物語は、高校生活最後の夏休みに、美大進学を諦めきれない主人公が、夜間部に通う女生徒から突如モデルを志願され、自由奔放な彼女に振り回されながらも次第に惹かれてくというラブストーリーである。しかし、中盤から急に映画のトーンが神妙な雰囲気をたたえ始め、この女生徒がこの世のものではないのだという浮遊感が支配しはじめるあたり、篠原監督の真骨頂が立ち現われる。映画の舞台は大半が学校内というシチュエーションである。学校という場所は、多くの生徒や大人が一堂に会する広場としての性格を持っている。この広場は下校時間という時限的な性格を持っており、子供である生徒が学校の中の時間を自由気ままに過ごしてはいけないという禁忌を内在している。学園物のファンタジーの噴出はここに生まれるのではないか。本作は、学校を舞台とし、その時間の存在が象徴的に見られる瞬間に、主人公の男子生徒と幽霊の女子生徒の交歓が印象的に描かれる。ことにそれは、夕陽が差す教室での二人であったり、夜間忍び込む美術室で灯すろうそくの火のゆらぎにドラマティックな強度が生まれている。篠原監督の作品には、時限的な世界の中で生きざるを得ないという人生の哀愁が湛えられている。篠原作品独特の青春の甘酸っぱさは、そうした不安の時間にたゆたう詩情として切なくも感動的だ。

『U-ZOM/ゆうばりゾンビ』(やなぎさわやすひこ監督)
『U-ZOM/ゆうばりゾンビ』(やなぎさわやすひこ監督)
『U-ZOM/ゆうばりゾンビ』は、ゆうばり映画祭常連監督にして、フォーラム・シアターの上映スタッフでもあるやなぎさわやすひこ監督の1999年作品である。この作品は、1999年のゆうばり映画祭に出品された。夕張に並々ならぬ思い入れを見せるやなぎさわ監督の夕張ロケ三部作の第1作目として記念碑的な作品である。また、本作には、若かりし澤田直矢フェスティバル・ディレクターがゾンビ役として名演技を披露している。さらには本編の音楽も担当しているというではないか。これは随分とレアものであるが、こうした手作りの映画製作の実践が、この市民ネットワークの強力な布陣によって可能とするゆうばり映画祭の発展につながっており、また映画を愛する多くの映画人の注目を惹きつけて止まない魅力なのである。 作品は、ふるさと夕張を捨てて都会に出た一人の女性が、10年ぶりに故郷へ帰ってくるところから始まる。都会で妊娠、婚約をしたためその報告に帰ってきたのだ。しかし、かつて炭鉱での過酷な労働で不運にも命を落としてしまった父親が、折しもやってきた全世界異常事態(?)によってゾンビとして復活し、娘に襲いかかるのであった。が、そこはやはり父と娘、愛はゾンビを超える(?)という温かいファミリードラマであった。実にファンタスティックなオリジンである。

ゆうばり映画祭に訪れたなら、このフォーラム・シアター部門の傑作群を観賞することは必須である。ここで繰り広げられる絵巻物に耽溺することではじめて、ゆうばり映画祭の真髄にふれることができようというものだ。本映画祭のパンフレットの中で、澤田直矢フェスティバル・ディレクターは、「フォーラム・シアターは僕の映画祭のルーツである」と記している。「玉石混淆ごった煮カオスと溢れんばかりの映画愛」。そこに映画の未来があると見据える澤田ディレクターの言葉は真に力強い。

ゆうばりチョイス&フォーラム・シアター部門レポート
オープニング・パーティ&トークセッションレポート澤田直矢フェスティバル・ディレクター インタビュー

第20回ゆうばり国際ファンタスティック映画祭 (2/25~3/1) 公式
『SRサイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』(2010年/監督:入江悠)
『It’s All Good』(2010年/監督:ノーマン・イングランド)
『カルマ』(2009年/監督:アレックス・パイエ)
『放電』(2009年/監督:中川究矢)
『ラムネ』(2009年/監督:篠原哲雄)
『U-ZOM/ゆうばりゾンビ 』(1999年/監督:やなぎさわやすひこ)

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  • 監督:入江悠
  • 出演:駒木根隆介, みひろ, 水澤紳吾, 奥野瑛太, 杉山彦々
  • 発売日: 2010-05-28
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2010/03/12/21:23 | BBS | トラックバック (0)
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